未来を照らす(50)俳優、アーティスト のんさん

俳優、歌手、そしてアーティストとして活動の場を広げているのんさんが、
今年9月、福島県猪苗代町で行われたアート展「September JAM」に参加しました。
作品を展示した古民家で、リボンアートを生み出すエネルギーについて、
そしてこれからの生き方についてお話を伺いました。
のん1993年生まれ、兵庫県出身。俳優、アーティスト。俳優、音楽、映画製作、アートなど幅広い分野で活動している。
2021年3月、「YOKOHAMA ART STATION project2020」で初のリボンアートを発表し、同年12月には「やんばるアートフェスティバル」で巨大リボンアート「ちょうちょとがじゅまる」を展示。「のんRibbon展 怪しくて、可愛いもの。」を大阪関西国際芸術祭(25年)など日本各地で開催している。ミント神戸20周年を記念したリボンアート展「のんRibbon art Exhibition」を11月6日〜15日に開催予定。
可愛いリボンで負の感情を形にしてみた
福島県猪苗代町を芸術で盛り上げようと、9月21日から総合芸術イベント「Se ptember JAM」が開かれています(11月3日まで)。のんさんのリボンアートが展示されたのは、猪苗代町の亀ヶ城公園に移築された旧山内家住宅。1811(文化8)年に建てられた茅葺屋根の古民家です。タイトルは「のんRibbon art -時間に群れる-」。まず、このリボンアートの意図からお聞かせいただけますか?
リボンという「可愛い」の象徴となるモチーフを使って、負の感情が浮かび上がるような表現をしたら面白いんじゃないかというアイデアを思いついて。それを形にしたのが、リボンアートです。
私は悲しい気持ち、怒っている気持ち、悔しい気持ちとか、そういう負の感情を感じないようにしたり、捨てたりしたくない気持ちがすごく強いんです。
そういう負の感情を可愛いもので昇華することによって、「大事な感情だよね」となるのがコンセプトです。負の感情は必要な感情じゃないか、自分が愛せる感情じゃないか、というのを表現できると思って作りました。
今回のリボンアートは具体的にどんな作品ですか?
赤いこけしと赤べこの体にリボンをまとわせた作品です。リボンは負の感情を表すモチーフです。リボンを密集させて、こけしにまとわせると、血液に見えたり、筋肉に見えたり、いろいろな形に見えます。負の感情だったものが、体にまとわりつくことによって違う形になっていくのが面白くて、こけしに付けています。
こけしもべこも、群れているのが今回のテーマです。
身を寄せ合って、いろいろな方向を向いているこけしたち。何も言わないけれど、古民家という静かな場所にたたずんでいることによって、何かの感情が渦巻いているかもしれないと想像をかきたてる。そういう作品を目指して作りました。
社会に出ると、「群れる」ことになります。ということは、何か現象が起きている。いろいろなコミュニティーがある中で、こけしたちはどんな渦の中にいるのか。それを、リボンをまとったこけしたちが、身を寄せ合っていろいろな方向を向きながら、おびえているような、なにかを守っているようなことで表現しました。
見る人によって、いろいろなものに見えると思います。その形が変容していったらいいなと思っています。
赤べこは福島の素晴らしい伝統工芸品です。その可愛くて、首が動く赤べこと、リボンアートを作るのが面白いと思いました。人が見に来るたびに、赤べこの首を動かしたいですね。うまいこと風が吹いて、動いてくれたらいいなと思います。
このような作品を作るきっかけは何ですか?
私のリボンアートは、自然の木に貼り付けたのが始まりでした。これからも木の作品は作りたいと思っています。今は感情が宿るものを密集させることに凝っています。
以前、別の古民家でアート展示のお話をいただき、リボンアートと日本の和の空間は、どんなふうに共生したらいいのだろうと考えました。そのとき日本の伝統的なものと融合させてみようと思ったのが始まりです。リボンと「和」が合うことに初めて気づいて、そこから面白くて続けています。
今回のこけしも赤べこも福島の伝統工芸品です。印象を固定したくないので、顔は描きません。
アートに触れることで自分の輪郭がはっきりする
古民家に展示されたこのリボンアートを、どのように見てほしいですか?
旧山内家のような江戸時代から続く歴史ある建物は、私たちが日常生活で見ているビルや住んでいる家、マンションには感じられないエネルギーがみなぎっていると思いました。
歴史に思いを馳せること、その時間に思いを馳せること、過去を振り返ることで、自分だったらと置き換えて想像したときに、私はとても豊かに思考力が動きます。
江戸時代から続く家の中に、人をモチーフにしたこけしがいて、赤べこがいる。そこに自分が入ってきて……と想像する。どんな人が住んでいたのだろう。どんな人が、どれだけの人数でこの家を建てたのだろうなどと考えます。今とは違う技術で、体力を使って……。私だったら床を張るぐらいできるかなとか考えることが楽しいんです。日本の伝統的なものとコラボレーションすることが、大好きになりました。
このおうちの中でたくさんの人が一緒に暮らしていて、べこを育てている生活があるのを感じるように、この場所の歴史や生活など、いろいろと想像をめぐらせて受け取ってほしいです。
私はアートを見るとき、自分の輪郭がはっきりすると思っています。アートに触れることによって、自分はこういうものに感動する、こういうものは気持ち悪いと思う、違和感がある、好き、嫌いとか発見があります。その発見に敏感になる力が、この旧山内家にあると私は感じています。そのように見る人がいろいろなことを感じて、発見してほしいと思います。
のんさんのエネルギーが、家のエネルギーに加わるのですね。
旧山内家に展示された赤べこのリボンアート。
私が作った作品ですから、私自身のエネルギーがこもっています。私が持っている負の感情は激しいので、べこもツルツルだったのに、気持ち悪い体になって、かわいそうかなと思います。その私のエネルギーが、この家の空間によって、変容していくと面白いなと思います。だから気持ち悪くしたいという思いがありました。
負の感情自体は悪いものではないのに、怒りや悲しいことは、悪いものとして扱われていると思うんです。
楽しいこと、幸せなこと、喜んでいることには、意味を見出さなくてもいい。必要なものとしてある感情だと思います。
怒ったり、落ち込んだり、苦しかったり。そういう感情を、笑ったり、喜んだり、楽しんだりと同じくらい普通の感情として捉えたいという思いがあります。私は怒りが自分の中で一番フランクな感情なので、そういう気持ちが強いです。怒りの感情には、すごくお世話になっています。
負の感情を昇華させるのがリボンだった理由は何ですか?
2020年、コロナ禍の中で思いついたアイデアです。子どものころからリボンが好きで、可愛いものが不気味に映る作品が好きでした。
私は宇野亞喜良さんの絵が大好きです。可愛い女の子がリボンをつけて、こっちをにらんでいたり、大人をバカにしたような目で描かれている絵がとても好きで、すごく影響を受けました。
デビューして20年。のんさんと命名されて10年。これからどういう自分でありたいですか?
私は限界を作らない自分でいたいと思っています。その時々で、いろいろな挑戦をしていきたいですね。どんな挑戦をしていくのか予想がつきませんが、挑戦をやめない人でありたいです。
毎回、同じようなことでも、新しい何かを見つけ出してやれたらいいなと思います。こんなものでいいという気持ちを持たず、一生、自分を発掘し続けるという思いで活動を続けたいです。
アートも演技も音楽も私の中では自然なことであり、好きなことだったので、今やっていることの表現が深まっていったらいいなと思っています。生きているからにはよくなると信じて、自分の表現を発掘し続けたいです。
【小西恵美子=文、菅野健児=撮影】
【ヘアメイク=菅野史絵、スタイリスト=町野泉美】
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