未来を照らす(49)アスルクラロ沼津C.R.O. 中山雅史さん

魂のこもったプレースタイルと明るいキャラクターで、
日本サッカー界をけん引してきた中山雅史さん。
現役時代に培った「予測と準備」の大切さが、人生にどう生きているのか、
そして子どもたちに伝えたいサッカーの魅力についてお話をお聞きしました。
なかやま・まさし1967年、静岡県生まれ。藤枝東高校から筑波大学を経て、1990年にヤマハ発動機(現・ジュビロ磐田)に加入。92年に日本代表デビュー。93年の「ドーハの悲劇」を経験し、98年フランスW杯、2002年日韓W杯に出場。フランス大会では日本代表のW杯初得点を記録した。Jリーグでは1998年、2000年に得点王。12年、一線を退くことを発表。15年、アスルクラロ沼津とアマチュア契約を結ぶ。その後、21年シーズンより、ジュビロ磐⽥トップチームコーチに就任。23年、アスルクラロ沼津監督を経て、25年にアスルクラロ沼津のクラブ・リレーションズ・オフィサー(C.R.O.)に就任した。
先を見通して、何ができるか自分で考えて動くんだ!
サッカーの選手、コーチ、監督と経験を積まれました。現在の仕事の内容を教えてください。
静岡県のJFLアスルクラロ沼津クラブ・リレーションズ・オフィサー(C.R.O.)の職に就いています。地域の方々、行政機関、スポンサーやサポート企業の皆さんとクラブをつないで支援する役割です。チームの姿勢や活動状況、試合結果を各所にお知らせします。メディアの仕事も引き続きやらせてもらってます。
練習は見に行きますが、監督とコーチ陣が策を練ってやっているので、選手を集めたりはしません。選手に聞かれれば、経験から答えています。将来、選手自身がどのようになりたいか、ビジョンを持つことが大事だと思って接しています。
中山さんは選手のときは、何を目標にサッカーに取り組んでいましたか。
日本代表になりたい、ワールドカップに出たいという強い思いがありました。そのためには、人があまりやらないプレーでも、自分にとっては当たり前なプレーとしてやれるか、やり続けられるかだと思っていました。
攻守の切り替え、積極的にプレスをかけ、最後まで追いかけるのは当たり前のこと。それをより高強度に、より速くやり続けることを心掛けていました。監督が使いたい選手になるためです。
僕は人が行かないところに頭ごと突っ込んで行きます。当然、ケガが多い。それでもチームに貢献できるプレーがしたかったのです。僕らしいプレーができなければ「いらない」と言われても仕方ないという思いでやっていました。
当時、周りの選手たちは全てにおいてうまかったから、出されたボールに僕がゴール前で合わせられるかが勝負でした。相手チームのディフェンスとの駆け引きです。相手が後ろにつくと、パスを出せる裏へ、裏へと動きます。自分がやられて嫌なことは相手も嫌ですから、嫌な動きをするように心がけました。
どういう状態の陣形ができているか、ディフェンスのポジショニングはどうか。相手が持っているボールは右足か左足か。それによって、僕はどの方向にボールを出しやすいか、どのタイミングでどういう動きが適切か、常に考えながら動いていたつもりです。
必要なのは予測と準備です。一つとして同じ状況はないので、ゴールをねらう選択肢をたくさん持って、絶妙なタイミングで動いて、自分のできる最大限のプレーをすればいいと思っていました。
それは人間関係にも生かせますね。
そうですね。相手の気持ちや立場になれるかどうかです。そして自分の立場を把握しながら、先を見通して何ができるかを考えて行動することだと思います。
人生ではその見極めが難しい。何の気なしに、ボソッと言ったことが相手を傷つける場合もありますから、気をつけなければいけません。
今、僕はいろいろな分野や立場の人と話す機会が増え、新たな気づきがたくさんあります。自分がやりたいことだけではなく、人との調和が必要で、色濃い毎日になっています。
1998年のワールドカップフランス大会のジャマイカ戦で、初ゴールを決めたときの胸の内はどうでしたか。
ほっとしました。歓喜じゃないです。得点が0対2で負けていての1点でした。僕はこぼれたボールをつめようと思ってゴール前に走りこんでいきました。ロペスがヘディングしたボールは中途半端な高さで、体のどこでボールをゴールに収めようかと瞬時に考えました。
その瞬間に頭をよぎった記憶が、ワールドカップ最終予選のカザフスタン戦で、中田英寿からゴール前にいた僕の腰あたりにボールがきて、足で蹴ろうとしてふかしてしまったことです。
ジャマイカ戦でゴールを決めるために、どうするべきなのか。ロペスからのボールは頭では低すぎで足では高い。丁度が腿(もも)の高さだったので、腿でボールをとらえてゴールしました。苦い経験が生きた得点です。ゴールして喜んでいる暇はありません。1対2で負けていますから、次の1点を取ることを考えていました。
サッカーの魅力は、自由なこと。そのために努力と成長がある
サッカーの魅力は何ですか。
自由です。自分次第だからです。頭の中に描いたプレーを、グラウンドで表現します。技術を駆使し、直感と経験を生かしてプレーして、ゴールが決まったら、それが正解です。自分のイメージどおりにできなければ、できるようになりたいから練習します。そうして成長するのが面白いんです。チームとして戦う形を守ってやるべきことをやった上で、自分のやり方をする。そこがまた面白い。
アルゼンチン代表のメッシの言葉が心に刺さりました。「努力すれば報われる? そうじゃないだろ。報われるまで努力するんだ」。それを実行して、得点しているメッシはものすごいです。
よく言われる言葉に「目指すところに行くために努力する」があります。そこに行きたいのなら、努めてやるのではなく、やることが当たり前だと覚悟して行動できるかなんです。
試合前に必ずやることはありましたか。
30年近く前、散歩中に蛇を見たあとに点が取れました。新潟の港を歩いていて、バケツに魚が3匹釣れているのを見たときは、ハットトリックして3点取れたのです。そのあと、亀を見て得点できたので、何かを求めるようになって散歩が長くなりました(笑)。
ある日、遠征先で散歩している時に、たくさんの亀が甲羅干ししていました。そこは亀で有名な池らしいのですが、それを知らずきっと得点できると期待したのに、何のご利益もなかった。欲を出し過ぎました(笑)。
どうしたらサッカーがうまくなれるか、アドバイスをお願いします。
気づきです。ボールの運び方、キックの方法などに気づいて工夫できるかどうかです。ボールはつま先でも、足の内側でも外側でも、踵でも、膝でも、どこで蹴ってもいいので、どこに活路を見いだすか、瞬時に状況判断が必要です。
僕の場合は、頭での確率がよかったので、低い位置のボールにも頭で突っ込んでいました。で、顔を蹴られる(笑)。でも、それが頭に浮かんで、すぐに体が反応する思いのままのプレーでした。怖いと思うとボールは奪えない。「できる」「できない」ではなくて、「やるか」「やらないか」です。ただしケガを避けるため、自分を守る術は持っていてほしいです。
また、どれだけゴールがほしいか、ボールがほしいか、どれだけ情熱を傾けているかも大事だと思っています。粘り強く、根気強く、ひたむきに、やり続けるのです。コーチや先輩に聞いて、やっていることが自分に合っているか確認するのも必要です。調整やアレンジをして、自分のものにしていきます。
現在もストイックにトレーニングを続けているのですか。
今は、体重が増えると膝に負担がかかるので、太りたくなくてトレーニングしています。
手術は両膝合わせて10回はしていますから、骨化して硬くなるのを防ぐために動かしています。関節が硬くなる不安を解消したいから、何か動いていないと不安で、本当はやりたくないんですけど、やり終えた時の安堵感がほしくて動いているだけです。あわよくば……。
URが中山さんの出身地、静岡県藤枝の駅前の再開発や、藤枝総合運動公園の整備をしたのはご存じですか。
URさんが整備したとは知りませんでした。駅周辺がとてもきれいになり、住みやすい環境になるのはうれしいです。広い運動公園があり、サッカー場ができたことで、子どもたちがサッカーと接する機会が増えてありがたいです。
JリーグとURが包括連携協定を結んで、全国各地にあるチームの選手が参加するイベントを催し、子どもたちに向けてサッカー教室を開催したりしています
プロのサッカー選手がイベントに参加して、実演したり教えたりすると、子どもたちはその選手に関心を持つでしょう。サッカー教室で、ぜひ子どもたちがボールを蹴ってパスを体験して、サッカーは面白いと感じる経験をしてほしいですね。面白さがわかると、うまくなりたくなるので、プロサッカーから学ぶために、試合を観にきてくれるはずです。そのとき、勝っても負けても、子どもたちの気持ちをつかむ白熱した試合が展開できるか、プロの戦う姿勢や、フィジカルとテクニックを発揮、表現できるかが大事です。
2026年のワールドカップ日本代表は、26人中23人が海外組で、イングランド、スペイン、ドイツ、イタリア、フランスの欧州5大リーグに所属する選手も多数います。高強度、ハイスピードの高度なテクニックの試合が日常です。だからこそワールドカップでも不安になることなく、自信に満ちたプレイを見せてくれました。
たくさんの子どもたちがサッカーを好きになり、夢を育んでほしいと思います。やがてプロ選手となり、海外のピッチでも大きく飛躍して、日本のサッカーのレベルアップに貢献してほしいですね。
【小西恵美子=文、青木登=撮影】
【ヘアメイク=高柳尚子、スタイリスト=高橋京子】
衣装/G-STAGE
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