街に、ルネッサンス UR都市機構

未来を照らす(34)歌舞伎俳優 尾上松也

URPRESS 2022 vol.71 UR都市機構の情報誌 [ユーアールプレス]


歌舞伎を基盤に。多様なジャンルで表現に挑む

歌舞伎はもとよりミュージカルに映画、ドラマにと多方面で活躍中の尾上松也さん。
シリアスな役もユーモラスな役も、それぞれに存在感を醸し出して観る者を魅了します。
今年を締めくくる舞台は、『ショウ・マスト・ゴー・オン』。
三谷幸喜さんが脚本・演出を手がける舞台への出演に期待が高まります。

尾上松也さんの写真おのえ・まつや
1985年、東京生まれ。5歳のときに「伽羅先代萩」の鶴千代役にて二代目尾上松也を名乗り初舞台。その後、立役として注目され「鳴神」の鳴神上人、「弁天娘女男白浪」の弁天小僧菊之助などの大役を果たす。コクーン歌舞伎「三人吉三」ではお坊吉三を演じる。
歌舞伎以外では、蜷川幸雄演出の騒音歌舞伎(ロックミュージカル)「ボクの四谷怪談」、帝国劇場ミュージカル「エリザベート」、新感線☆RS「メタルマクベスdisc2」では主演を務めるなど、幅広く活躍している。

三谷幸喜さんとの舞台は、2019年の『三谷かぶき 月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)風雲児たち』以来の2作目ですね。『ショウ・マスト・ゴー・オン』で、松也さんはどのような役ですか。

前回の舞台『風雲児たち』は、急遽出演が決まったこともあり、お稽古に参加した回数が少なかったので、今回の『ショウ・マスト・ゴー・オン』が三谷さんときちっと取り組む最初の舞台だと思っています。稽古はまだ始まったばかりで脚本(ほん)読みの段階ですが、三谷さんは一人ひとりに苦笑いというか、ニヤニヤしながら注文されて。脚本を読みながら、ご自身で爆笑していらっしゃる。

この芝居は、「萬(よろず)マクベス」という舞台の開演から終演までを描いている作品で、舞台の裏側の人たちにフォーカスして物語が進んでいきます。舞台袖のセットが、最初から最後まで舞台の中心にありまして、僕の役、宇沢は「萬マクベス」を演じる主演俳優です。

いやぁ、「ほんとに、いいんですか?」っていうくらい楽なお役で(笑)。舞台袖がメインの舞台ですから、周りがバタバタして、そのドタバタのすべてが宇沢のために起こって、笑いの中心になります。「萬マクベス」に出演している人間はあまり出てこないんです(笑)。

ですので最初はノンプレッシャーだと思いました。しかし、お稽古が始まると、出番はそんなに多くはないのですが、要所要所に出てくる宇沢の与える印象が、その後のドタバタを起こす笑いにとても重要で。その印象を短い時間で残して去るのは、実は難しいことなのだと感じています。

物語の主役は鈴木京香さん(舞台監督)。ウエンツ瑛士くん(舞台監督助手)と秋元才加さん(演出部スタッフ)は、ほぼ出ずっぱり。この3人がちょこちょこ出てくる変な奴らに対応しなくてはいけない。

『ショウ・マスト・ゴー・オン』は油断しないで観ることが大きなポイントです。浅野和之さんは気づかれないかもしれない(笑)。輝くのは一瞬。それがすごくおもしろくて、さすがだなぁと思うのですが、「もう、終わり?」っていう感じですので、「浅野和之を探せ!」です(笑)。

シリアスな芝居と笑いを誘う芝居はどちらがお好きですか。

いやもう、笑いのほうが圧倒的に難しいです。泣かせる芝居は物語が完成されていて、よほど大間違いの芝居をしなければ、ある程度は感動できると思います。号泣するかどうかは別として。

ですが笑いは狙いだすと寒くなりますし、間が繊細です。今回は三谷さんの脚本が面白いので、そのラインというか、ルールを逸脱しなければ面白くなると思います。脚本を信じて、どこまでヘンな色気を出さずに演じられるかですね。ベテラン勢は間の取り方が、実に力が抜けていてうまい。僕はそこが課題です。

ショウ・マスト・ゴー・オンのチラシ画像
舞台『ショウ・マスト・ゴー・オン』

「一度幕を上げたら、その幕は下すな」という舞台人の鉄則ともいうべき言葉をタイトルに、三谷幸喜が書き下ろした戯曲。「劇団東京サンシャインボーイズ」が上演して伝説となったコメディを28年ぶりにリニューアルした。
舞台公演でのスタッフや役者に次々と襲いかかるトラブルをめぐるドタバタ劇は、劇場を笑いの渦に巻き込むこと間違いなし。鈴木京香、尾上松也、ウエンツ瑛士、シルビア・グラブなど総勢16名のキャストが舞台を駆け巡る注目のノンストップコメディ。

【福岡公演】11月7日~13日(キャナルシティ劇場)
【京都公演】11月17日~20日(京都劇場)
【東京公演】11月25日~12月27日(世田谷パブリックシアター)
*いずれも当日券あり。

お問い合わせ先:シス・カンパニー
TEL:03-5423-5906

舞台の場合、稽古から千秋楽まで3カ月ぐらい出演者と一緒に過ごしますよね。歌舞伎とは違いますか?

尾上松也さんの写真

全然違います。歌舞伎の場合、出演者も裏方も知らない方は、ほぼいません。コロナ禍以前から、打ち上げをしたり、飲みに行ったりもほとんどしません。

歌舞伎以外の公演、ドラマ、映画は、共演者のほとんどの方が僕にとって初めての方です。いい意味での緊張感とワクワク感、どういう風になるのか見えない面白さがあります。

今までで印象に残っている作品は何ですか。

蜷川幸雄さんの騒音歌舞伎(ロックミュージカル)『ボクの四谷怪談』です。27歳のとき、僕の役者としてのステージを、ワンステップもツーステップも上げていただき、殻が破れた、転機となった作品です。あの舞台がなければ、今の僕はありません。

僕はヒロインのお岩さん役。最後の最後に一人で出てきて、一人で歌って、メインの出演者全員を呼び集めるシーンは、何をやっても何度やっても、蜷川さんに「全然ダメだ」としか言われませんでした。理由も言われない。あのとき、僕はちょっと病んでいたかもしれません。所作指導の尾上菊之丞さんに、「あんまり考えないで、ただ思いっきりやってみたらいいんじゃないか」と言っていただいて。もうメッチャクチャにしてやるみたいな、逆ギレに近い、飛んでしまっている感覚でやってみたんです。気づいたら蜷川さんが拍手して笑っていました。いやぁ、うれしかったですね。舞台初日の前日のゲネプロでようやく覚醒しました。

もともと蜷川さんの舞台作品で僕がヒロインを務めるなんて考えたこともありませんでした。知名度も歌舞伎でも、そういう立場にはありませんでしたので。僕以外の出演者は、皆さんすでに有名な方たちだった。蜷川さんに追い込んでいただいた結果、恥を捨ててさらけ出したら、大きな扉が開きました。

その舞台を観た方から、舞台やドラマのオファーをいただきました。小池修一郎さんが初日に観にいらして、声をかけていただき、翌年、ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』に出演するチャンスをいただきました。

蜷川さんは厳しいですし、できないときはボロカスに言われるのに、みんなから愛されている。愛があるからでしょう。全員が「クソじじい」と思っていましたが、最終的には、「何とか、あのじじいを笑わせたい」って思わせてくれるのです(笑)。

歌舞伎、歌舞伎以外の舞台、ミュージカルなど幅広くご活躍です。

歌舞伎は5歳から出させていただいています。僕は歌舞伎に育てていただいて、歌舞伎が基盤にあるからこそ、今があると思っています。歌舞伎は絶対的な存在ですし、一番難しいと感じています。

歌舞伎以外の舞台やドラマは、キャラクターをゼロから演出家の方などと一緒に作っていく自由なところがあります。しかし歌舞伎は古典演目が多く、型が用意されています。その枠の中でどれだけ自分の感情を表現できるかという制約があります。毎回、難しいと思い悩みます。

舞台、映画、ミュージカルと、仕事の切り替えはどうしていますか。

全部演劇ですので、表現方法や作り方の違いだけだと思っています。ジャンルごとに、その表現の仕方に合ったものに対応していくという意識で演じています。僕には歌舞伎というスキルもありますので、必要なときには出します。

ですので表現方法のスイッチを切り替えるだけで、気持ちは僕の中で変化はありません。

オンオフの切り替えはありますか。

あります。僕、根が暗いので(笑)。舞台やドラマで最近、明るいお役もやらせていただいておりますし、バラエティも楽しんでやりますけれど、仕事が終わったら、ほんとうに何にもしゃべらない。仲のいい男友達と少人数で食事に行っても、しゃべらないですからね(笑)。

ですが、大勢になると盛り上げなくてはとスイッチが入ってしゃべります。話すのは楽しいけれど、仕事が終わった瞬間、スイッチを切る。移動の車ではまったくしゃべりませんし、帰宅するとぼーっとしちゃいますね。オフのときは完全オフです。

趣味はありますか?

以前は趣味がなくて。休みの前日は、友達と飲みに行って、翌日は夕方まで寝ていることもありました。コロナ禍で家にいることが多くなって、もともと収集癖があったのが爆発して、キャンドルやスニーカー、ボードゲームなどを集め出しました。テーブルに20個ほどのキャンドルを置いて、夜になると全部火を灯して、ただ眺めていることもありました。

今、仕事が忙しくなって、キャンドルの消費が滞っています。いいキャンドルは、なかなか減らなくて(笑)。使い切ってから次にいく性分ですからね。中途半端に使った状態で棚にいくつも置いてあると、綺麗ではないのでイヤなんです。明るいのは苦手なので家の中は暗いですし、あぁ、結婚できないですよね、これじゃあ(笑)。

尾上松也さんの写真

【小西恵美子=文、菅野健児=撮影】
【ヘアメイク=岡田泰宜(PATIONN)、スタイリスト=椎名宣光】

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