街に、ルネッサンス UR都市機構

未来を照らす(31)クリエイティブディレクター 佐藤可士和

URPRESS 2022 vol.68 UR都市機構の情報誌 [ユーアールプレス]


「クリエイティブは未来をつくり」の画像

「団地の未来プロジェクト」のメンバーとして、
デザインの力で団地の価値向上に努めている佐藤可士和さん。
ユニクロ、楽天など多種多様な企業や団体のブランド戦略にかかわる
日本を代表するクリエイティブディレクターです。
その仕事はどのように進められるのか
クリエイティブの世界についてお話を伺いました。

クリエイティブディレクター、佐藤可士和さんの写真さとう・かしわ
プロジェクトディレクター、クリエイティブディレクター。SAMURAI代表。
ブランド戦略のトータルプロデューサーとして、コンセプトの構築からコミュニケーション計画の設計、ビジュアル開発まで、強力なクリエイティビティによる一気通貫した仕事は多方面から高い評価を得ている。日本を代表するクリエイター。
主な仕事に、国立新美術館、東京都交響楽団のシンボルマーク、ユニクロ、セブン-イレブンジャパン、今治タオルのブランドクリエイティブディレクションなどがある。

可士和さんは課題の解決にクリエイティブの力を活用するとおっしゃっています。クリエイティブの力とは、どういうものなのでしょうか。

クリエイティブとは、未来をつくっていく行為、活動そのものです。

そのクリエイティブの力を使いブランディングを行っていきます。ブランディングとは、企業や団体などの理想としている思いや活動を、社会に正しく伝えること、つまり世の中の人々とのコミュニケーション活動です。社会の中での存在感を戦略的に構築することがブランディングの目的で、現代の情報化社会では、認知されていないことは存在しないのと同じと言えますから、これはとても大事なことです。

その企業が目指している理想のポジションと現実が、異なる場合があると思いますが。

一致していたら、僕が手伝う必要はありません(笑)。時代はどんどん動いていますし、企業も成長すれば活動が変わりますから、すべてが流動的です。時代の空気を把握し、その上で新しい価値を提示できる企業がよいブランドだといえますが、すごくむずかしいことですね。

企業もブランド(すべての商品やサービス)も、何十年と続いているのは必要とされているからです。潜在的な力がなかったら継続できないはずです。

例えば団地の場合、50年前に住宅不足を補うために造られたときは、まさに時代に求められた存在でした。それから時代は流れ、今は団地の新しい未来、新しい価値を見出す時期にきています。

僕は、団地は人が集まって住むことが一番の強み、一番の価値だととらえています。世界的にも日本の団地の存在は珍しいですし、集まって住むことで、あの素晴しい豊かな公共空間も手に入るわけですから。これからも団地にしかできないことを見つけていくべきだと思います。

ところがそこに長年いると、あまりにも当たり前になってしまって、それが価値だと気づけない状態になりがちです。

例えば今治タオルのブランディングの仕事では、僕は「ブランドのコンセプトを、『メイド・イン・ジャパンの、安全・安心・高品質』にしましょう」と提案しました。すると今治タオル工業組合の方々は、「そんなの当たり前じゃないですか。最初からそうですよ」とおっしゃる。そこで「その高品質なタオルを安定的に生産し続けられるのは、世界から見ても非常に価値のあることです。その当たり前こそがコンセプトになり得るのです」とお話ししました。

ブランディングを手掛けるときに、僕は発信側と受け手側の間に立ち、ニュートラルに見ることを心がけています。どちらにも偏らずに、企業側、つまり発信側が言いたいことと、受け手である消費者や社会がどのように思っているのかを冷静に見ていくわけです。

そのとき大切なのは、その仕事を始める前に消費者の立場で自分が思っていたことを忘れないこと。その後、企業の思いや事情を聞いて理解していくと、その間にあるギャップがはっきりわかります。そのズレが、そのままブランドの課題となるわけです。

可士和さんたちが進める洋光台団地「団地の未来プロジェクト」では、写真の屋外広場をはじめ、住棟ファサードや集会場の改修が終わり、気持ちのいい空間が生まれている。

ひとつのクリエイティブから、個々人のライフスタイルや生き方が変えられますか?

変わると思います。一枚のタオルから、ライフスタイルも変わりますし、日本の地場産業に対する認識も変わっていきます。

強くて印象に残るいいロゴがあれば、すぐに覚えてもらえますし、そのプロダクトの質が高ければ、消費者に届き、「このタオルはいい」と認識してもらえます。そういう積み重ねがブランドをつくり、社会の認識を変え、結果的に新しい世界、未来をつくると思います。

佐藤可士和さんの写真

今をどのような時代だととらえていますか?

50年ぐらい前は、モノに価値をおいていました。モノが手に入ったら、次は「モノからコト」へと価値が移りました。旅行とかエンタテイメント、いわゆる体験を求める、それがコトです。

そして、今は「コトから意味」へと価値観が変化しています。みんな意味をほしがっているのだと思います。特にZ世代と呼ばれる若い人たちは、自分たちが社会の役に立つこと、その存在意義を求めている人が多いですね。

僕はさまざまな業界の仕事に関わらせていただくなかで、世の中や社会が向かっている方向や、共通する問題がつかめるようになりました。そのために何をしたらよいのかという大きな方向性を、常に見失わないようにするのが大切だと思います。

時代に沿うように「ひらめく」には何が必要ですか。

普通に生活している自分がいて、それを見ているクリエイターのもう一人の自分がいます。それがとても重要です。

例えば新型コロナの影響で、「まちに行かなくなったな」「人に会えなくなったな」と思うとき、そのことを俯瞰して見ます。それによって一番求められていることは何か、これからどのように進んでいくだろうかと、そのことについて深く考察することを毎日のように行っています。

学生時代は一生懸命、特別なものを見なければという意識をもっていました。世界のさまざまな場所に行って、見て、体験して、気づきもあった。しかし今は日常を見ることで、時代の本質をつかめると思っています。

美術大学を志す高校生のときに先生から、「アイデアは街中にある」と言われました。でも、そのときにはまちにいいアイデアなんか転がっていないと思っていました。それが、「なぜ?」と掘り下げて考察することを続けているうちに、「なるほど」とわかる瞬間が何度もあって、コツをつかみました。

昨年、国立新美術館で開催された「佐藤可士和展」は、コロナ禍にもかかわらず15万人を超える来場者を記録。普段美術館に足を運ぶことが少ない20代の来場者も多かった。昨年のADCグランプリや日本空間デザイン賞金賞を受賞した。

日常の中に面白さがありますか?

最近では日本ハムの新庄剛志監督にびっくりしました。あの存在感は素晴らしいです。

人は「面白いなぁ」「不安だなぁ」などと感じたときに心が動きます。そのときに「なぜそう感じるのか?」と考えます。不安に思うのは、何かを失うからだ。失うって、何を? 何を守っているんだろう? と考えていくと、深いところに到達します。

たどり着けなければ時間をかけます。何年後かに、「あ、そうか」とわかることもいっぱいあります。考える習慣をつけると、考えることを楽しめます。

僕の中にオンオフのはっきりした区別はありません。クリエイターは職業ではなく、生き方だと思っています。業務だと思ったら、きついですね。この考え方は、アスリートに近いかもしれません。完全にオフにして止めてしまうと、パフォーマンスが落ちてしまう。また立ち上げるのは大変なので、終了しない状態のほうが、すぐに行動できるのです。

【小西恵美子=文、青木 登=撮影】

動画

クリエイティブディレクター 佐藤可士和

クリエイティブは未来をつくり 新しい可能性を提示する

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