未来を照らす(22)俳優 成田 凌
出演作品ごとにガラリと雰囲気を変えて驚かせる、注目の若手俳優・成田凌さん。
12月公開の映画「カツベン!」では、活動弁士に憧れる主人公を熱演。
周防正行監督のもと必死に取り組んだ撮影のお話から、役者という仕事の魅力やプライベートでの楽しみまで、たっぷり伺いました。
なりた・りょう
1993年生まれ、埼玉県出身。
メンズノンノ専属モデルとして活躍する一方、俳優としても「逃げるは恥だが役に立つ」、NHK連続テレビ小説「わろてんか」といったテレビドラマから、映画まで幅広く活躍。
おもな出演映画に「キセキ—あの日のソビト—」「劇場版コード・ブルー —ドクターヘリ緊急救命—」「ビブリア古書堂の事件手帖」「スマホを落としただけなのに」「愛がなんだ」「さよなるくちびる」などがある。
12月に公開予定の映画「カツベン!」では染谷俊太郎役で主演を務める。
注目の映画「カツベン!」で主人公を熱演
周防正行監督の最新作「カツベン!」で、活動弁士(カツベン)に憧れる主人公を演じています。この役には、オーディションで挑みました。周防監督の作品ですし、脚本も面白くて、「絶対に受かる!」という強い気持ちで臨みました。
実はそれまで活動弁士という職業を知らなかったので、オーディションに向けていろいろな人に活動弁士のことを聞いたり、後に教えていただくことになる現役活動弁士の坂本頼光(らいこう)さんの映像をたくさん見たりして、自分なりに勉強しました。オーディションでは本当に緊張しました。
周防監督は、とても柔らかい方という印象です。現場はもちろん緊張感がありますが、監督が楽しそうになさっているので、自然と楽しい空気になって、僕も楽しく演技させていただきました。
初めての映画主演でしたが、ご一緒させていただいた方々は、スクリーンやテレビで見ていた憧れの方ばかり。プレッシャーを感じるというより、逆に大船に乗った気持ちで、身を任せて飛び込ませてもらった感じです。
活動弁士を演じるために半年間の猛特訓
今から100年ほど前、映画が活動写真と呼ばれて、まだ音がなかった時代に、登場人物のセリフに声をあてたり、物語を解説する役目を担った活動弁士。演じるにあたっては、半年くらい坂本頼光さんについて学び、現場に入ってからも練習を重ねました。
とにかく何もできないゼロからの状態だったので、最初の1、2カ月は、大変でした。周りの人たちが「ほんとに大丈夫なのか?」と心配顔で見守るなか、去年の夏はただただ練習していました。自分でも、できるようになるのかを考えると怖くてつらかったです。けれども、ある日急にポッと「あれ? できるかもしれない」と思った瞬間があり、その一線を超えたら、あとは成長していくだけ。そこからは、すごく楽しくなりました。
何が楽しかったか……といえば、自分が一日一日成長している実感がもてたことですね。「僕はこう思います」と、自分の意見を提案できるようになったときも、うれしかったです。
演じて感じたのは、活動弁士ってすばらしい職業だということです。男優はもちろん、女優や動物の声、ナレーションなどすべての音を表現する。さらには独自の“しゃべり”で物語を作り上げる演出や監督の役目まで、一人でこなすのです。今回の映画の宣伝文句に「七色の声を持つ男」とありますが、アクションも恋も笑いもすべて声で表現するのは、本当にすごいこと。しかもひとつの劇場でやったら次の劇場へと、常に移動、更新して、成長していくのですから。
この映画では、活動弁士の声色や独特の話し方はもちろん、マイクなしで何百もの人に伝えるための声の出し方や大正時代の話し方まで、すべてが勉強でした。最初は声が全然出なかったので、ヴォイストレーニングもみっちりしました。おかげで歌もちょっとうまくなりました(笑)。この経験はこれからの役者人生にきっと役立つと思っています。
地方ロケで地元の人と触れ合うのが楽しみ
映画の撮影では地方ロケにもよく行きます。ホテル生活は苦手ですが、地方へ行くのは好きです。泊まっているホテルの近所の居酒屋やスナックなどに行って、その地に住んでいる人、おじちゃんやおばちゃんと話すのも大好きです。
「カツベン!」のメンバーとも、よく食事に行きました。福島では出演者の方々とジャズバーのようなお店へ行き、即興でギターやドラムを演奏してみんなで歌って盛り上がって、楽しかったです。
滋賀では僕一人しかいない夜があって、居酒屋で地元のお客さんたちと楽しく飲んでいたら、「名物だよ」ってサービスに一品出されて。周りの人たちがニヤニヤして見ているなぁと思いながら「ありがとうございます!」ってパクッて食べたら、すごい強烈な味で(笑)。鮒(ふな)ずしでした。あれには驚きました。
地元はリラックスできる場所
出身は埼玉で、友達や家族に会いに月に1回は必ず帰ります。地元ではヨレヨレのTシャツに短パン、サンダルを履いて、気の抜けた顔で歩いています。リラックスできるし、気張らないでいい、そういう場所があるのはいいですね。
実家の近所には団地があって、友達もたくさん住んでいたから、よく団地の公園で遊んだり、ケンカしたり(笑)。幼稚園のときには団地の集会所で英語を習っていて、クリスマス会をしたことも覚えています。好きな子とかくれんぼしたこともあるし、いろいろ思い出があります。
地元に帰りたくなる理由のひとつに、子どもの頃から通っている中華料理屋さんの存在があります。その店の餃子がどうしても食べたくなって、時間をみつけては出かけます。昔から馴染みの店の人に会うのも楽しみです。
家族も僕の東京の家によく来ます。父は内装の仕事をしているので、テレビ台やキッチンの棚など細かく注文して使いやすいものを作ってもらいました。テーブルも、憧れの一枚板を手に入れたときに、父に脚をつけてもらいました。
家にいるときは、ほぼ毎日、自分で料理しています。野菜中心のおかずが多いですね。
世の中で一番好きな食べ物は、母のお雑煮。それを真似しようと何度もチャレンジしているんですが、失敗し続けています。
にんじんと大根と鶏肉と椎茸と里芋が入った汁に、焼いた餅を入れて、食べる直前にゆでた小松菜を入れるんです。ああ、話していたら、食べたくなってしまいました(笑)。レシピを聞くのは意味がない気がして、最近は自分で作るのを諦めて、母がうちに来るときに「お雑煮を作って」とリクエストしています。
作品ごとに能力を得る役者の面白さを実感
役者の仕事の醍醐味は、ひとつの作品に取り組むごとに、ひとつの能力を手に入れられることです。ギターも役を通して習得しましたし、活動弁士でのしゃべりもそうですね。
それに加えて、いろいろな人の気持ちを考えられるようになることも、役者の仕事ならではだと感じています。いろいろな人の人生を何回も味わえるので、その積み重ねで役者は成長していくのかなと。だからこそ、すごく面白いですし、楽しいです。「カツベン!」に出演したことで、“みんなの前でしゃべりたい欲”が出てきたので、今後は熱血先生や、世のため、人のために頑張る人の役などに挑戦してみたいです。この世の中をどうにかしたいという熱意にあふれる若き政治家なども面白そうですね。いろいろな役にチャレンジして成長していきたいです。
【阿部民子=構成、青木 登=撮影】
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