街に、ルネッサンス UR都市機構

未来を照らす(21)料理家 栗原 心平

URPRESS 2019 vol.58 UR都市機構の情報誌 [ユーアールプレス]


料理家であり、会社の代表でもある栗原心平さん。
多忙な日々のなかでも、料理すること、食べることを大切にし
肩ひじ張らずに楽しんでいるのは、育ったご家庭の影響でしょうか。
一緒においしいものを食べる時間を共有する喜び、
食を通したコミュニケーションの魅力を語ってくれました。

くりはら・しんぺい
1978年生まれ。
料理家 栗原はるみの長男。一児の父。
(株)ゆとりの空間の代表取締役社長。
会社の経営に携わる一方、幼い頃から得意だった料理の腕を活かし、自身も料理家としてテレビや雑誌などを中心に活躍。仕事で訪れる全国各地のおいしい料理やお酒をヒントに、ごはんのおかずやおつまみにもなるレシピを提案している。
2012年8月より料理番組『男子ごはん』(テレビ東京系列)にレギュラー出演中。著書に、『栗原心平のこべんとう』(山と溪谷社)、『男子ごはんの本 その10』(KADOKAWA)、料理が初めての男性でも、お子さんと一緒に楽しんで挑戦できるレシピ本『栗原心平の とっておき「パパごはん」』(講談社)がある。
http://instagram.com/shimpei_kurihara

料理好きな家族に育まれ料理家の道へ

料理に興味を持ち始めたのは、幼稚園の頃でしょうか。たぶん、一番最初に作ったのは、リンゴをすりおろしてガーゼで絞る、リンゴジュースですね。もうひとつはわらび餅。溶かして固めて、黒蜜ときなこをかけて。母に褒められて、お客さんにもよくお出ししていたと思います。

日曜日のブランチも僕の担当でした。朝のTVアニメが見たくて早起きするのですが、家族が起きてくるのを待っていたらおなかがすいてしまうので、僕が作っていたのです。ゆっくり起きてきた父が、庭で飲むアイスティーを淹れてくれるのも定番でした。

料理を仕事にし始めたきっかけは、僕が料理をする姿を見ていた母の仕事相手の編集者さんから「月刊誌で連載をしてみない?」と声をかけていただいたこと。23歳の頃です。正直、最初は「自分がやっていいんだろうか」と葛藤がありました。会社と二足のわらじで、時間的制約もありますし。でも、父は僕が将来この仕事に就くと思っていたようで、子どもの頃から僕の作る料理にはとても厳しかったです。褒めてもらえるようになったのは、最近、35歳過ぎてからです。

僕が幼稚園の頃から、母は家で料理教室をしたり、料理番組の裏方などで家を留守にすることが多かったのですが、必ず何かしら作り置きがありました。思い出の味は、麻婆春雨。朝に作っていくから、昼には汁を吸って、箸で持ち上げると全部持ち上がっちゃう(笑)。それをほぐしながらアツアツのご飯にのせて食べるのが大好きでしたね。

父は、いわゆる男の料理を昔からよく作ります。3キロほどの肉を、野菜とハーブと塩に1週間漬け込んでから6時間煮た手作りコンビーフとか、メチャクチャおいしいんですよ。そして食事作法にはすごく厳しかったですね。迷い箸やねぶり箸など、何度注意されたかわかりません。あと、好き嫌いは許されなかったので、苦手なものは泣きながら飲みこんでいました。

子どもの頃は、そうしたしつけに対して「なんでこんなこと言われなきゃいけないのか」と思っていたんですが、いまは自分の子どもに同じことを言っています。家にいるときは僕が料理を作りますが、季節のおいしいものを知ってもらうためにも、旬のものをできるだけ食卓に出すようにしています。

イベントでも家庭でもそうですが、子どもに教えるときに気を付けているのは、迎合しないこと。きちんとできていないのに褒めたりしません。たとえば、餃子はちゃんと包まないと、焼いたときに肉汁が出ちゃっておいしくないとか。料理を好きになるには成功体験が大切なので、子ども扱いせずにきちんと教えることを心がけています。

ひとりの楽しみ大勢での楽しみ

料理をする楽しみって、いろいろあると思うです。たとえばひとりで作るときは、自分のことだけ考えて、自分の食べたいものを作れるのがいいですよね。趣味的な要素が強くなるといいますか。23歳のときに神戸に単身赴任したんですが、初めて自分のためだけに料理を作る環境になって、好きなものを作って食べていたら、あっという間に太りました(笑)。

家族で食べる楽しみには、喜んでもらうことが根底にありますよね。家族の好みを考えて献立に加えてあげると、相手は喜ぶし、自然と場がなごみます。そして、親しき仲にも礼儀ありで、作ってもらう側は、感謝の気持ちを表現することが大切。うちの両親がそうしていて、父は必ず母にありがとうって言うんです。母は、いまもたぶん父のことだけを考えて料理を作っているし、そういう気持ちのやりとりって、すごくいいものだなと思います。

でも、なかには料理が苦手な方もいるでしょう。僕は、それには2種類あると思っています。ひとつは、料理が上手にならないから苦手という方。じつはその原因は、味見をしてないことが多いんです。ポイントになるのがお塩。食材が持つ塩分があるし、下味をつける料理だと、その分量がレシピに含まれていなかったりするんですね。だから、塩を入れる前に必ず味見して、どのくらい入れればいいか加減するといいですね。

塩の種類も盲点で、シェフや料理家の多くは食卓塩を使いません。僕も中粒の海水塩を使いますが、密度が違うので、食卓塩だったらレシピの3分の2の分量で十分です。そのあたりも気をつけるといいですね。

もうひとつのタイプは、料理が嫌いな方ですね。嫌いな方は、まずお味噌汁でも焼きりんごでも何でもいいので、自分が自信をもって作れる料理をひとつ持つといいですね。それがおいしければ、褒められますから。褒められることで料理が嫌いでなくなって、だんだん上手になっていくものなんです。僕も、きっと最初に親に褒められたのがよかったと思います。それが親の策略だったら恐ろしいですけど(笑)。

ごはんを一緒に食べると距離が一気に縮まる

仕事柄、地方に行くことも多いですが、その土地のさまざまな味を知ることで自分の世界がすごく広がりました。料理って、たぶん作る技術よりも、食べる経験値のほうが大事。そうした記憶の引き出しを増やすことで、ふとしたときにその味が蘇って、料理に生きてくることがあるんです。

地方ではその土地のものを食べて、土地の人と話すことで、より深く楽しめますよね。そういうふうに、食は人と仲良くなるため、コミュニケーションをとるためにとても大事なものだと思います。特に大人になると、なかなか人と仲良くなれる機会ってないですよね。でも、一緒にごはんを食べると、一気に距離が縮まります。

実家は大人数で集まるのが好きで、クリスマスなどは50人ほどのパーティーを開くのが恒例。そういう環境もあって、僕も人が集まることは大好きです。

自分の子どもが幼稚園のときには、パパ友が毎週のようにうちに集まってごはんを食べて、異業種の人たちと仲良くなりました。集まる場所の問題があるかもしれませんが、人が来ると家もきれいになるし(笑)、もっと気軽に集まる機会を増やせるといいですよね。自分で作るのが大変だったら、持ち寄りでもいいですし。一緒においしいものを食べて、時間を共有することが大切だと思うんです。

そういう集いでアドバイスするとしたら……みんなが参加できる共同作業が多ければ多いほどいいのではないでしょうか。餃子はおすすめですね。餃子のタネだけ用意しておいて、お客さんが来たらみんなで一緒に包む。それをホットプレートなどで、ワイワイ焼くのも楽しいですよ。

バーベキューもいいですね。僕はよくキャンプに行くんですが、事前にスモーク係とか前菜係とか肉係とか分担を決めておくことがあります。誰かが作るのを待っているんじゃなくて、料理を作る楽しさや時間を共有して、みんなが参加型で楽しむのがいいと思います。

これからはおいしいお酒の飲み方も提案していきたい。最近は、お酒を飲まない若い人が多いと聞きますが、お酒は絶対的にいいコミュニケーションツールだし、心を許す大きなきっかけにもなる。それにはおいしい料理も欠かせません。おいしい料理とおいしいお酒で心を開いて、コミュニケーションをとり、いろんな人と仲良くなれる。そんな場をつくっていきたいですね。

【阿部民子=構成、青木 登=撮影】

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