未来を照らす(40)俳優 中条あやみさん
公開中の映画『あまろっく』で20歳の継母を演じた中条あやみさん。
撮影中はずっと家族について考えていたと語ります。
家族といっても、考え方や感性が違うから衝突する。
軋轢や衝突を重ねながら変わり、人として豊かになっていく——。
そんな家族への思いをたっぷりお聞きしました。
「人生に起こることは何でも楽しまな!」私もその精神です
映画『あまろっく』は兵庫県尼崎市が舞台です。どのような作品ですか。
笑って泣ける家族のお話です。最初に脚本を読んだとき、登場人物に寄り添い、それぞれの心が描かれているので、5人ぐらいで執筆したのかと思いました。
私の役は、笑福亭鶴瓶さんが演じる町工場を営む近松竜太郎の再婚相手の早希。竜太郎は65歳、早希は20歳。なんと45も歳の離れた夫婦です。竜太郎には優子という39歳の娘がいて、江口のりこさんが演じています。優子にとって義母は19歳下ですから、親子の年齢が逆転しているし、性格は違うし、何かとチグハグ。しかも優子は早希を受け入れる気がないので、うまくいきません。
竜太郎は仕事そっちのけで、近所の人たちと話し込んで遊んでばかりいます。優子は大学を卒業して東京の大手企業に就職していましたが、理不尽なリストラで尼崎の実家に戻ってきます。仕事をせずに家にいるニートで、独身。一方の早希は家族団欒を夢見ています。3人がどのようにして家族になっていくのかという物語です。
優子と早希の関係は難しいと思いますが、近松家にすんなり飛び込めましたか。
はい、入っていけました。自分は早希に似ていると思いました。ちょっとおせっかいなところなど(笑)。早希の気持ちがすごくわかるんです。優子にお見合いをさせようとしたり、家族になるために距離感を縮めたり。早希は家族全員で幸せになること、家族団欒に向かって、まっすぐ進みます。その夢があるからこそ、頑張れる。演じていて、夢をもつことは大事だと思いました。
私自身は、家族のなかでは、みんなを巻き込むポジションです。誰かが喧嘩していたら、「ふたりで話し合ったほうがいいんじゃない?」と仲裁に入ったり、食事会など話す機会を設けたり。おせっかいな人がいないと、まとまらないと思うからやっているところがありますね。
早希も遠慮しているだけでは、家族との絆は深まらないと思っていると想像して演じました。早希が動かなければ、優子との関係はどうにもなりませんから、とにかく巻き込もうと(笑)。
優子のお見合い相手のお母さんも差し入れをしたり、何かと世話をやきます。周りの家族も介入してくる距離感の近さは、関西地方らしいと思いました。私の母も関西人でお見合いの世話をよくしていて、何組か結婚するほど、おせっかいです。
撮影中に何か心がけていたことはありますか。
映画や舞台の主演は、座長みたいな役でもあると思います。みんながまとまるためには、主演が誰よりも作品をよくしようと頑張ることです。一緒によい作品を作りたい、応援したいとみんなに思ってもらえるように、一所懸命やる。それが、今まで経験した現場で私が学んだことです。巻き込むパワーが大事だと思いながら取り組みました。
演じていて家族について考えましたか。
撮影中、ずっと家族の姿について考えていました。私自身の家族とリンクしましたね。みんな自由で個性的なところは、映画『あまろっく』の家族と同じです。
竜太郎は「人生に起こることは何でも楽しまな!」と言います。私自身もその精神ですし、前向きでポジティブです。仕事で失敗すれば、悔しくてへこむ負けず嫌いですが、おいしいものを食べて、寝たら切り替えられる(笑)。竜太郎に似ています。
優子は母親を亡くしていますし、仕事を失い、寂しい気持ちをもっています。早希と優子は、全然違うキャラクターのように見えるけれど、共通するところもあり、ギクシャクした雰囲気でも早希が諦めずに常に同じスタンスで接することで、優子に変化が起きます。
ひとつ屋根の下で生きていると、夫婦でも親子でも兄弟姉妹でも、考え方や感性が違うから衝突しますよね。家族でいるには、それぞれの努力が必要だなと思います。軋轢や衝突があるから人間味がある。人と人とが接するから幸せがある。時間を積み重ねていくと人は変わっていき、人間として豊かになれる。自分の心の奥にあるものを見ることができ、生き方を考えさせられた映画でした。
早希を演じていて、最も楽しいところはどこでしたか。
関西弁でお芝居できるのは楽しかったですね。私は関西出身ですから、家族や友達と話すときは関西弁。映画では私の素(す)が出たように思います。寝起きぐらいの(笑)ありのままの姿で向き合えた作品は初めてです。中条あやみってどういう人ですかと聞かれたら、「映画『あまろっく』を観てください」ってこれからは言おうかと思うくらい(笑)。
キャストはほぼ全員、関西出身で、鶴瓶さんも江口さんも、お芝居しているのに、そこに自然にいる感じでした。
『あまろっく』というタイトルから何を思いましたか。
最初はタイトルから映画のイメージがわかなくて、尼さんがロックやっているのかなって思いました(笑)。
尼ロックとは、兵庫県の尼崎市にある尼崎閘門(こうもん)のことです。閘門を英語で言うとロックゲート。尼崎にあるから略して尼ロック。海と運河の水位を調整するゲートで、台風が関西を直撃したときには水害から市民を守ってくれました。
お互いさまの気持ちで助け合って生きていきたい
大阪には千里ニュータウンなど団地があります。団地にはコミュニティーがありますが、人との交流は好きですか。
大阪市内の阪南団地の近くで育ちました。親が共働きで鍵っ子だったので、家に帰ると寂しくて、友達の家やご近所さんの家を「遊びにきました」とか「家の鍵、忘れました」と言って訪ねて。ピアノを弾かせてもらったり、犬と戯れたりしていました。優しいご近所さんに可愛がってもらい、助けていただきました。
人は家庭だけで育つのではなく、周りの人の助けもあって育っていくと思っています。助けてほしいとお願いするのは申し訳ないと感じる人が多いかもしれませんが、頼れるときは助けてもらう。で、次は助ける。お互いさまの気持ちで助け合いたいです。日本はどこで地震や災害が起きるかわからないので、その精神は大事だと思います。
私はよく友達から「彼氏みたいだね」って言われます(笑)。友達が悩んでいたら、ごはんを作って一緒に食べます。私も助けてもらっているから、友達の役に立ちたいんです。もちつもたれつの関係を、とても大切にしています。
夢中になっていることや、これからやりたいことはありますか。
休みの日は習い事をしています。乗馬と茶道、ピラティスなど。茶道は私にとって、『あまろっく』で優子がやっていた「運針」と同じ意味をもちます。江口さんは、カメラが回っていないときも、ずっと運針をしていました。心を落ち着けているんだろうなと思って見ていました。私はせっかちで(笑)、先のことばかり考えていて、心がせわしないんです。茶道は自分と向き合う時間で、瞑想しているみたいで心が落ち着きます。丁寧に生きているかなと省みる時間でもあります。
私の父も母もいい年齢なので、いつまで元気でいられるかと思うと怖くなります。でも臆病にならずに、こんなに楽しく過ごせた、よかったと思えるように接したいですね。1日1日を後悔しないように精一杯、大事にして生きたいと思っています。
映画『あまろっく』
兵庫県・尼崎を舞台に、関西出身の豪華キャスト陣が、年齢も性格も異なる“ツギハギだらけ”の家族がひとつになっていく様を描く、笑って泣ける“ご実家コメディ”。ドラマ、映画への出演が続く江口のりこ、中条あやみが年齢の離れた“娘・優子”と“母・早希”を演じるほか、まちの“尼ロック”のごとく家族を見守る父を、笑福亭鶴瓶が演じる。原案・企画・監督は中村和宏。主題歌「アルカセ」はユニコーンが書き下ろした。
配給:ハピネットファントム・スタジオ
4月19日より、新宿ピカデリー他 全国公開
©2024 映画「あまろっく」製作委員会
【小西恵美子=文、菅野健児=撮影】
【ヘアメイク=加勢翼、スタイリスト=藤井希恵<THYMON Inc.>】
【ドレス:ERMANNO FIRENZE(エルマンノ フィレンツェ) TEL:03-5771-3513(ウールン商会)】
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