未来を照らす(41)俳優 瀧内公美さん

NHK大河ドラマ『光る君へ』の源明子役をはじめ、
印象に残る演技で注目を集める瀧内公美さん。
秋には、舞台『夫婦パラダイス~街の灯はそこに~』への出演が決まっています。
舞台にかける思いや期待、役者としての心がけなどをうかがいました。

1989年生まれ。富山県出身。気鋭の映画監督の作品に数多く出演して深い印象を残し、注目を集める。映画『火口のふたり』(荒井晴彦監督)でキネマ旬報主演女優賞を受賞。近年はドラマや映画、舞台など幅広く活躍。今年は大河ドラマ『光る君へ』の源明子役で話題に。演技力の高さでさらなる活躍が期待される。
難解なことがちりばめられていて予測できないところが面白い!
舞台『夫婦パラダイス~街の灯はそこに~』は、織田作之助さんの『夫婦善哉(めおとぜんざい)』の主人公の柳吉とお蝶がモチーフとのことですが、どのような舞台ですか。

北村 想さんの脚本で、演出は寺十 吾(じつなし さとる)さんです。私は2022年にも『奇蹟』という舞台でおふたりにお世話になっています。
今回の舞台は大阪のとある川辺のワケアリの雰囲気が漂うスナックに、ワケアリの柳吉(尾上松也)と私が演じる蝶子が流れ着いて始まります。『夫婦善哉』を踏まえながら、違う空間で人間模様が展開されます。
最初に脚本を読んだときは、想さんの世界だあと思いました。生きるってどういうことだろう、人と関わるってどういうことだろう。そんな想さんの人生論を感じる台詞が、登場人物全員にあります。難解なことが問われだすかと思いきや、さっと煙に巻いて終わったりする。展開の予測できないところが面白いです。
演出の寺十さんは本読みのときから、こういうキャラクターはどうかなといくつか提案してくださいます。またご自身も役者なので、稽古では実際に演技を見せてくださいます。私の自信がないところを見抜いて、足りないところを導いて、寄り添ってくださるので心強いです。脚本と演出が化学反応を起こして、劇場という空間を使って、時空を飛び越えていく舞台になると思います。
舞台に向けて、何か準備されていることはありますか。
私は元三味線芸者の役ですので、関西のリズム感を体に入れたくて、上方舞を習い始めました。演じる手助けをしてくれると思って。
共演メンバーも素敵です。尾上松也さん、段田安則さん、鈴木浩介さん、高田聖子さん、福地桃子さんと私の6人。人数が少ないので、話し合ったり、意見をもらえたり、深いコミュニケーションがとれると思います。
段田さんとはNHKの大河ドラマ『光る君へ』でも共演させていただきました。段田さんは藤原兼家、道長の父親役です。私は道長の“もう一人の妻”、源明子。明子は兼家に一族の無念を晴らそうともくろみます。呪詛(じゅそ)の場面は、恨みつらみを思いっきり演じさせていただき、段田さんには、あなたは本当はどういう人なの? と聞かれたこともありました。
段田さんの舞台での存在感は圧倒的。お立ちになっているだけで観る側の想像力が広がっていきますし、声に厚みがあって言葉の意味が深まります。
段田さんに憧れている役者さんはとても多いです。「段田さんを見ていれば不安なことなんてないよ」と、鈴木浩介さんもおっしゃっていたので、私は皆さんから学びながら喰らいついていこうと思います。

写真提供/NHK
舞台と映像で演じ方は違いますか?何が違いますか。
だいぶ違います。舞台に立つと、目の前のお客さまに届けたい気持ちが強くなりますから、必然的にエネルギー値が上がります。体も気持ちも、すごく熱いんです。
舞台は稽古を積み重ね、お客さんを迎えて演じたときに初めて届くとおっしゃる役者さんが多いのですが、私はその意味が以前はわかっていませんでした。
昨年、『夜叉ヶ池』という舞台を演らせていただきました。演出の森 新太郎さんは千本ノックのように稽古しますから、フラッフラになりながらやりました。
幕が開くと、「あれ、アタシ稽古やってきたっけ?」という不思議な感覚になり、舞台と現実との境界線がなくなっていたのです。こうやって舞台をお客さまに生々しくお届けできるのかと実感できて、舞台がさらに好きになりました。稽古はきつかったのに、すぐに舞台に立ちたいと思ったのです。
一方、映像は瞬発力を要求されます。私は映画から俳優のキャリアをスタートしました。映画は無声から始まっていますから、言葉ではなく、写真の連続。いい画を作れるかどうかが大事です。
舞台は言葉を届けることが大事ですから、しっかりした体幹が必要です。体の使い方や声の出し方は映像と違います。舞台に立つようになってからヨガとピラティスを始め、体を鍛えています。
役者になりたいと思ったきっかけを教えてください。
母が映画好きで、小さい頃から家で映画が流れていました。映画を観ている母の顔が、どんどん違う表情になっていくのを見て、映画の力はすごいなあと感じていました。
また、中学生のとき、なかにし礼さん原作の『赤い月』という、満州に渡り、第二次大戦下の激動の時代を生き抜いた女性の半生を描いた映画を観に行きました。皆さん迫真の演技で、壊れていく姿が恐ろしかったその役者さんたちが、上映後の舞台挨拶ではとても華やかで。それに驚き、憧れました。
あと、高校生のときに観た『プラダを着た悪魔』で、主演のアン・ハサウェイがキラキラ、イキイキとしていてカッコよくて、すっかり魅了されたのも、役者を志すきっかけになりました。
役者という仕事の魅力は何ですか。またどのようなことに気をつけていますか。

自分の頭の中の想像力を超えていく瞬間が面白いです。
また、知らないことを学ぶ機会が増えること、探求できることも魅力です。作品の舞台になった場所の歴史を勉強すると、背景や意義もわかるので、気づきがあるし、想像も膨らみます。
方言の台詞がある仕事では、実際に話されている様子を聞きたいので、なるべくその土地に行くようにしています。その環境に身を置いて、体に方言を馴染ませたいのです。地元の人とコミュニケーションをとればとるほど、役をつかみやすくなりますから。
演じるときは想像で補っていきますが、想像では測り知れないのが人間だと思います。頭で考えることから飛び越える瞬間が本能ですよね。人に触れると本能が引き出されることが多い気がして、いかにそれを表現できるかを大事にしています。
『光る君へ』の出演にあたっては、史実について調べたり、源氏物語をいくつか読んでみたり、自身が演じる役と縁のある場所に出向いてみたり。あとは雅楽を聴いて、平安時代のリズムを自分なりにつかんでみました。音に関していうと、例えば手を叩くのに、最短距離で叩くのと、曲線を描いて一回まわしてパンと叩くのでは音もニュアンスも違います。それは雅楽を聴いているときに、ウワ~ンという曲線のような、ふくらみのある音が気づかせてくれました。
リハーサルで皆さんの感じが、話し方を含め現代っぽい感じがしたので、逆をいってみようかと、つまり「型」を大切にやってみたら、キャラクターが立つんじゃないかと考えました(笑)。大石 静さんの台詞が素晴らしいので、ここは大事と思うときに、間合いを入れながら演じられたらいいなと思っています。
普段の生活はどんな感じですか。
すぐ怠けます。だらしないですが(笑)、常に楽しいと思えることをやっていたい。ポジティブです。体を動かすことが好きで、アウトドア派。一日中家の中にいたら、鬱々(うつうつ)としてきます(笑)。
休みの日は舞台か映画を観に行くと決めているので、その時間に合わせて、掃除や洗濯などの家事を何時までに終えると予定を組みます。何かしないともったいなくて。
団地にはどのような印象がありますか。
是枝裕和監督の映画『歩いても 歩いても』『海よりもまだ深く』を私は勝手に団地シリーズと呼んでいます。映画を観たときに、団地の生活に温かみを感じ、住んだことがないのに懐かしくて涙が出てきました。
舞台『夫婦パラダイス』にも帰る場所の匂いがありますが、私は団地に匂いを感じます。灯りがついている家があれば、カーテンが閉まっていて暗い家もあり、一方では子どもたちが顔を出している。団地は人間臭さを感じるから、ほっとするのだと思います。団地はどの家も造りは似ているけど、一家族、一家族に色があるから、巨大な安心感があります。
住まいや生活で大事にしていることは何ですか。
こまめに綺麗にすること、空気の入れ替えをすることです。掃除をしながら「ありがと~」って声をかけます。雑に物を置かないで優しく接したいと思っています。私はあまり物を買い換えず、ひとつのものをずっと大事に使っています。例えば木製のテーブル。使えば使うほど、磨けば磨くほどいい味が出てくるし、傷がついても愛着がわいて可愛いと思えます。生活も仕事も丁寧にしたいと思っています。
舞台『夫婦パラダイス ~街の灯はそこに~』
日本文学のレジェンドや名作へのリスペクトを込めたシス・カンパニーの人気シリーズ「日本文学シアター」第7弾。織田作(おださく)の愛称で親しまれた無頼派作家・織田作之助の『夫婦善哉』をモチーフに、織田作がこだわり続けた故郷・大阪を舞台に、時空も舞台背景も飛び越えて、新たな人間模様が交錯していく。

作 : 北村想 演出 : 寺十吾
出演 : 尾上松也/瀧内公美/鈴木浩介/福地桃子/高田聖子/段田安則
【東京公演】9月6日~9月19日(紀伊國屋ホール)
【愛知公演】9月22日、23日
(穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホール)
【大阪公演】9月26日、27日(森ノ宮ピロティホール)
*いずれも当日券あり。
問 : シス・カンパニー TEL : 03-5423-5906
【小西恵美子=文、菅野健児=撮影】
【ヘアメイク=董冰、スタイリスト=大石幸平】
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