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おいしい団地(6)

URPRESS 2024 vol.78 UR都市機構の情報誌 [ユーアールプレス]

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隠れた名店見つけた!おいしい団地 6

京都市と大阪市のほぼ中間に位置する高槻市富田地区。
この地に誕生した酒蔵が注目を集めている。

足立農醸(あだちのうじょう)富田(とんだ)団地 大阪府高槻市

世界へ羽ばたく酒を生み出す
日本初の団地酒蔵

定番のMIYOI麹あまざけ(450円)と、ワイングラスに合うキイチゴを使用したクラフトサケMIYOI Origin(3,960円)。右端は1週間で500本が売り切れたキウイのクラフトサケ。

話題の酒蔵「足立農醸」は、なんと富田団地内にある。昨年10月、団地内の中央広場に面した棟の1階に開店。醸造所に、お酒や麹あまざけが飲めるクラフトカフェを併設している。酒造免許がおりた今年3月からは酒造りもスタートした。

「日本初の団地酒蔵」でもある足立農醸だが、注目を集める理由はそれだけではない。店主の足立洋二さんの手がけるお酒は唯一無二。キウイやイチゴなど、大阪の農家がこだわって育てた旬のフルーツをぜいたくに使い、日本酒の製造工程で共に発酵させて「クラフトサケ」を造っている。そのほか麹あまざけ、輸出用の清酒も製造している。

使用するお米は、酒米ではなく食用米。クラフトサケに使用するのは高槻産の「ヒノヒカリ」だ。

「こだわりの農家さんと組んで、農家さんにスポットを当てたい。農業が儲からないという仕組みをどうにかしたいという思いがあります。食用米を使うのも、余っていて、もったいないからです」

足立農醸の入口。右側の醸造所の様子を左側のカフェから眺められる造りになっている。
この日、タンクで瓶詰めを待っていたのは輸出用の清酒。足立農醸のお酒は1本3千円台から3万円台まで。
お米をモチーフにしたロゴ。
ワイングラスでおいしく飲める日本酒づくりを目指す足立さん。店内には細部にこだわったグラスがたくさん備えられている。
足立農醸の店先には、次回作情報なども掲示されている。

アメリカ暮らしで気づいた日本酒の魅力

八戸酒造の協力を得て造った日本酒が「シンガポールSake Challenge2023」にて銀賞を受賞した足立さん。店舗は基本的にDIYで仕上げたとのこと。

そもそも、なぜ醸造所を立ち上げようと思ったのか?足立さんにお聞きした。

「高校卒業後、テキサスに住んでいたのですが、アルバイトしていた日本料理店で日本酒を提供したら、地元のお客さんの反応がすごかったんです。日本酒を紹介するだけでこんなに喜んでもらえるなんて。日本酒には大きな可能性があると思いました」

それが10年ほど前のこと。帰国後、足立さんは青森の八戸酒造で3年半、兵庫の西山酒造場で2年半、働きながら学び、経験を積んだ。

「日本の職人さんたちは日本酒の手間のかけ方を当たり前だと思っていますが、麹をつくり、糖をつくり出す世界的にも稀な発酵技術、錬金術です。これほど手間をかけたものが1本1000円ほどで売られているのは、おかしいという思いがありました」

日本酒の価値をもっと伝えたい、その価値を理解してもらえる人に届けたいという思いが、足立さんを独立という道へ突き動かす。その後、米栽培にも取り組み、自身の醸造所設立という夢を実現させた。

酒造りで大阪を盛り上げたい

開業するなら出身地の大阪で。それは決めていたという足立さん。

「地元の飲食店に大阪の日本酒が置かれていないのが残念で。日本酒で大阪を盛り上げたいという思いがありました。富田団地の物件はインターネットで見つけました。天井が高く、コンクリートの無骨な感じが好み。完成した姿がイメージできたので即決でした」

富田は、江戸時代初期には大阪随一の酒どころで、20を超える酒蔵があった地域。水が良質なのも決め手になった。夫妻ともに団地暮らしの経験があり、団地になじみもあった。保証金、礼金が必要なく、スケルトン渡しのため、他の店舗では必要な解体費が不要だったのも、初期費用が抑えられてありがたかったと足立さんは話す。

足立さんが造るお酒は、ワイングラスに合うような、フレッシュですっきりとした清らかな味。お店では実際にワイングラスで提供している。この場所で酒造りを始めたばかりで、まだ目指す味に到達できていないと本人はいうが、寄せられる期待、評価は高く、造るお酒はすぐに売り切れてしまう。

団地の住民には麹あまざけが人気で、あまざけスムージーを飲みに来る年配の方、量り売りを求めに来る30~50代の方などが多いそうだ。

苦労はいろいろあると思うが、軽やかにしなやかに乗り越えていきそうな足立さん。その自然体で丁寧な姿勢がお酒の味に反映されていることは間違いない。

若い人の挑戦を応援するような雇用の場をつくりたい。将来はスイスで日本酒を造りたいという夢も抱く足立さん。団地内の8坪ほどの小さなお店だが、その扉は世界に向けて開かれている。

お酒に合うオリジナルのおつまみメニューもある。キイチゴのクラフトサケは、グラスメーカーとコラボして作ったハンドメイドグラスで。
人気の麹あまざけのスムージー。こちらはイチゴ。季節によってフレーバーが変わる。660円。
大阪のベッドタウンとして人気の高槻市にある富田団地(2647戸)。

足立農醸
TEL : 090-9531-3304
営業時間 : 11時~15時(土日は~20時)
休日 : 火・水曜

【妹尾和子=文、菅野健児=撮影】

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