【URのまちづくり最前線 第30回】愛宕地区第一種市街地再開発事業(東京都港区)
都心に残された唯一無二の場所その価値をさらに高める
超高層ビルが次々に誕生して、まちが大きく変貌している港区の虎ノ門周辺で、URが施行する新たな再開発事業が動き出している。
その舞台は、歴史ある愛宕山の麓。事業の内容を取材した。
歴史ある神社と深い緑の愛宕地区
自然の地形では東京23区でもっとも標高が高い愛宕(あたご)山。高さ26メートルの山の頂に広がる愛宕神社は、1603年、徳川家康の命により創建された由緒ある社だ。山を覆うように木々の緑が広がるこの愛宕地区は、近年目覚ましい変貌を遂げる都心の注目エリアのひとつ。愛宕グリーンヒルズ、虎ノ門ヒルズ、虎ノ門ヒルズレジデンシャルタワーと超高層ビルが次々に建ち、地下鉄の新駅・虎ノ門ヒルズ駅も運用を開始した。
その中にあって愛宕神社とその周囲の自然は、都心とは思えない静けさをたたえ、心の安らぎを与えてくれる貴重な場所だ。
今回、URが野村不動産、竹中工務店とともに進めている再開発の現場は、まさにこの愛宕神社の麓。社殿に向かう有名な急坂「出世の石段」の下、大鳥居の左右に広がるエリアだ。
そのスタートは10年以上前に遡るが、UR施行による再開発になったのは、2017(平成29)年にこの一帯の権利者の方々からURに要請があったことに始まる。それまでの意見交換会やまちづくり協議会での経緯を踏まえて、URが基本計画を立案。23(令和5)年に事業計画の認可が下りた。
URは権利者らの合意形成や行政との調整を含め、事業全体を推進していくためのマネジメントを担当。竹中工務店が建物の設計と施工、野村不動産が住宅部分を取得し、権利者や新たなユーザーの期待に応える格調高い商品企画を練り上げる。
URでこの事業を担当する大塚幸太に話を聞いた。
「地元の方の話を伺うと、皆さん愛宕というまちに誇りと愛着を持っておられ、愛宕神社や愛宕山の眺望を大切にされていると感じます。愛宕はまさに都心に残された唯一無二の場所。その歴史と貴重な自然を生かした再開発を目指して関係各所と調整を行ってきました。最終的に41階建ての超高層ビル1棟と、3階建ての建物を2棟建設しますが、一方を低層にしたのは、愛宕山からの眺望に配慮したからです。また、愛宕山の緑と地続きになるよう、敷地にも植栽を豊富に整備し、山からの緑の回廊をまちにつなぐ計画です」
愛宕神社の参道部分を中心とした左右に広場を造る計画もある。「ビルを建てて終わりではなく、ここに人が気軽に集まれるハレの空間をつくって、愛宕エリアのにぎわいづくりができれば」と大塚。
現在は、建設工事着手に向けて、土砂災害特別警戒区域に指定されている愛宕山の斜面の補強安全対策工事を行っている。さらに再開発エリアが面する愛宕下通りは東京都が拡幅整備を行い、快適な歩行者空間をつくる計画だ。
それぞれの強みを生かしチームワークで推進
野村不動産でこのプロジェクトを担当する雨澤伸吾さんは、URの担当者とともに権利者の所を回った経験から、「権利者さんとの間に公平中立な立場のURさんが入られることで、スムーズに合意形成が得られることが多く、計画を進めるうえで助けられています」と話す。
同じく野村不動産の芳賀慎司さんも、「URさんには、事業を組み立てる過程で、権利者さんとの間に立って必要性と実現性のバランスをうまくコントロールしていただいています」と言う。
「この事業で、URは事業者であると同時に、権利者でもあります。その立場を生かして、関わる方の思いや立場を守りながら、URでなければできないことを、民間事業者の皆さんとともに提案し、実現に向けて進めていきます」と話す大塚。
「これまで地元の皆さんによって大事に守られてきた愛宕への思いを、新たにここに住まわれる方にも伝え、共有したい。その思いを開発のコンセプトに反映していきます」と抱負を語る。
「早く完成した姿を見たいですね」と笑顔で話す野村不動産の雨澤さん。愛宕地区の再開発は、URと民間事業者との抜群のチームワークで順調に進行中。超高層ビルの竣工は、28年11月の予定だ。
【武田ちよこ=文、菅野健児=撮影】
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