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【URのまちづくり最前線 第19回】西シドニー新空港周辺開発計画(海外展開支援部)

URPRESS 2021 vol.64 UR都市機構の情報誌 [ユーアールプレス]

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URの技術とノウハウを
西シドニーの新しいまちづくりに生かす

2018(平成30)年に「海外インフラ展開法」(※1)が成立し、URは海外でも都市開発の支援ができるようになった。
URでは、すでにいくつかの国と調整が始まっている。
そのなかから、事業が具体的に進み始めているオーストラリア・西シドニー地区のプロジェクトをご紹介しよう。

※1:海外社会資本事業への我が国事業者の参入の促進に関する法律

海外の都市開発事業に日本企業参入の先導役

民間企業単独では参入が難しい海外での大規模な都市開発事業。海外インフラ展開法は、日本の事業者の海外事業への参入を促進することを目的とし、そのための先導役として期待されているのがURだ。

URは海外の政府や地方政府などに向けて、これまでのニュータウン開発などのノウハウや技術を生かし、コーディネーターやアドバイザーとしての役割を担い、技術支援を行う。必要に応じて日本の事業者とも連携し、海外パートナーと投資家との調整や研修の受け入れ、技術者の派遣なども行っていく。

現在、URの海外展開支援部は中国やタイ、ミャンマー、インドなど9カ国を主な相手国とした都市開発に関する支援に関わっており、そのうちのいくつかの国とは都市開発事業等に関する覚書を交換するところまで進んでいる。総務・企画を担当する西野浩司は、「国によって文化も違いますし、開発や経済成長の度合いもさまざま。案件も多様ですが、担当者たちは皆、相手国の課題解決の手助けをしたいと動いています」と説明する。

新空港を核にした大規模開発が始まる

事業が進み始めているのが、オーストラリアのニューサウスウェールズ(NSW)州だ。オーストラリア最大の人口を有するシドニーのある同州は、人口増に伴う過密化の緩和や経済成長に対応するため「シドニー大都市圏構想」を立て、オーストラリア東部沿岸部の最大都市を東・中央・西の3つの核に分散して拡大する計画を立案。この中の西側エリア、Western Parkland Cityで、新空港を核とした新しいまちをつくる計画が決定した。 

  • オーストラリア最大の人口を抱えるシドニー。

  • 新空港周辺には、広大な牧草地が広がっている。

この西シドニー新空港周辺地区(エアロトロポリス)では、航空・宇宙産業にかかわる研究開発機関などを誘致する「エアロトロポリス・コア」、高等教育機関や医療施設などを誘致する「ノーザンゲートウェイ」、それに既存の農業や畜産業を集積させる「アグリビジネス」の3地区を先行して開発することを決定した。

オーストラリア、ニューサウスウェールズ州 シドニーの位置を示した地図
開発に着手する新空港周辺地区(エアロトロポリス)の図。
NSW州政府公表資料より抜粋
シドニー大都市圏の3つの都心戦略。NSW州政府公表資料より抜粋
エアロトロポリス駅のイメージパース。NSW州政府公表資料より抜粋

URは2019年にNSW州からの要請を受け、西シドニー新空港周辺地区での技術協力等に関する契約を締結。新しいまちづくりに、これまでのノウハウと技術を提供することになった。

この計画は、オーストラリア連邦政府と州政府、地元自治体が協定を結んでつくられた大変規模の大きなもの。西シドニー新空港周辺のエアロトロポリスだけでも約1万1200ヘクタール、山手線の内側がすっぽり入るくらいある。

「ここに新空港をつくり、中心部まで鉄道を敷設。周囲に新しいまちをつくる事業にURが参画することは、大きな意義がある」と、事業を担当するURの若山真樹は言う。

「これまでURは多摩ニュータウンなどで大規模な面積を長期間かけて開発してきた実績があり、それが評価されたのだと思います。大規模開発の実現には、立案した計画を時間の経過とともに変更することもあります。そういった経験を経てまちをつくってきた、その知見に期待されているのだと思います」。現地政府との対話を担当するURの黒田直樹は、URに求められていることをこう分析する。

「日本ではこれまで鉄道を中心としたまちづくりが行われてきましたが、世界的にもいま、TOD(公共交通指向型開発)が注目されており、こういった面でもURのノウハウが開発に生かせると考えています」と若山も話す。

URは2019(令和元)年、州開発公社とエアロトロポリス開発に向けた計画策定のアドバイザリー業務受託契約を締結した。

NSW州でこの案件を担当する州開発公社は発足して2年余り、もちろん新しい都市の開発は初めての経験だ。昨年は新型コロナウイルスの影響で、オンラインでの打ち合わせが続いた。それでも公社からの情報提供や意思の疎通はスムーズに進んでいると黒田は言う。

「このプロジェクトは、規模や内容にも心が躍りますが、現地の政府機関もわれわれを歓迎してくださるし、日本の国交省が後方支援をしてくれるところも頼もしいです。なんとしても成功させたい」と黒田が言えば、

「人口が減っていく日本では、二度とないであろう大規模なまちづくり。そこにURのこれまでの経験と技術が生かせることは、担当として望外の喜び」と若山も話す。

海外展開支援部のメンバーたちには、海の向こうに生まれる新しいまちと、喜ぶ人々の笑顔が見えているようだ。

海外展開支援部を後方から支援するURの西野。
URの若山は、ニュータウン部門の経験が豊富。
「人間関係を大事に育てたい」と話すURの黒田。

【武田ちよこ=文、菅野健児=撮影(人物)】

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