【URのまちづくり最前線 第20回】日本橋横山町・馬喰町問屋街地区土地有効利用事業(東京都中央区)
歴史ある都心の問屋街で挑む
価値と魅力を高めるまちづくり
日本橋横山町・馬喰(ばくろ)町では、江戸時代から続く問屋街を核にしながら新しい風を呼び込むまちづくりが続いている。
URは、まちが抱える課題の解決と、さらなる魅力向上に向けて、多角的なサポートを実施している。
このままでは問屋街が衰退する!
日本橋横山町・馬喰町問屋街は、JR馬喰町駅と都営地下鉄馬喰横山駅・東日本橋駅の三駅に囲まれたエリアにある。瀟洒なマンションや商業ビル、ホテルなどが並ぶ駅周辺とは異なり、服飾関係の卸問屋が並ぶ、昭和の懐かしい雰囲気が残る空間だ。窓枠や意匠など、今や貴重な昔のデザインの建物が多く、所々に古いビルをリノベーションしたモダンな事務所や飲食店がひっそりと佇む。
今回このまちを訪ね、問屋街の景観がまちの人たちの熱い志と努力によって保たれてきたことを強く感じた。世界恐慌、第二次世界大戦、バブル崩壊……と、数多の危機を乗り越えてきたこの問屋街に大型マンションやホテルが建ち始めたのは2000年以降。
「このあたりは、間口が狭くて奥行きが深い町家風の店舗が多く、後継者がいない場合、土地を個別に現金化していました。けれどもマンションやホテルが建ち始め、組合でアンケート調査を行ったところ、高齢のオーナーの半数が後継者不在などから数年後に廃業を考えているとわかり、このままでは問屋街がダメになると危機感を抱きました」
そう話すのは、卸問屋「宮入」の社長で、横山町馬喰町街づくり株式会社(以下、街づくり会社)の社長も務める宮入正英さんだ。そこで、宮入社長たちは問屋街活性化委員会を立ち上げて勉強会を重ね、2016(平成28)年に「日本橋問屋街 街づくりビジョン」を制定、中央区から「日本橋問屋街デザイン協議会」の指定を受けた。これにより建築計画の際には事前にデザイン協議会との協議が必要な体制を整え、翌17年には活動を進めるため街づくり会社を設立した。まちづくりの経験がないメンバーがそれほどまでに本腰を入れる原動力になったのは、「問屋がなくなったら東日本の小売店はどこで商品を仕入れるのか」という危機感、そして使命感だったという。
「しっかり組織化して活動されていますので、区としてはまちの人たちの真剣な思いを受け止めて、一緒に模索しながら進めています」と中央区商工観光課の田部井 久課長は話す。中央区と地元からの要請を受け、URが正式にまちづくりの支援を始めたのは2017年。街づくりビジョンの具現化に向けて、地元が望まない開発を抑えるために空き物件を「買い支え」したり、まちづくりをサポートするプレイヤーの誘致なども行い、土地有効利用事業を進めている。
外から来た人とまちの人をつなぐ
目指すまちは「豊かなライフスタイルを創造し進化し続ける問屋を核とした商ェ住混在都心」だ。「ェ」の字が小さいのは、「工業」ではなく「小さな工房」を意味している。中心部がディープな問屋街、その周りを「ェ住」混在の商業エリア、その外側に都市型居住エリアが広がるイメージだ。クリエイターが外から入ることで、まちの面白み、価値が高まるのではとの期待が込められている。
問屋街にオープンした交流&イベントスペース「+PLUS LOBBY」は、URが買い支えした土地に建つ。中央区と街づくり会社の協力を得て、隣接する区所有の駐車場も一体的に活用。企画・運営を担当しているのは、全国で「ねぶくろシネマ」などのイベントを展開する、合同会社パッチワークスの唐品(からしな)知浩さんだ。
「キッチンカーでドリンクを提供していますが、お店を開くのが目的ではなくて。問屋のオーナーさんに来てもらいやすく、外から来た人たちともつながる場にできたらと思っています」と唐品さん。楽しく飲みながら共通の話題や課題について自然に話ができて、まちの面白さを再発見する場になればと話す。
URにとってこのプロジェクトは、大手町や虎ノ門などの大規模開発とはまた違った意味で重要な都市開発だ。
「古くなったり、時代と合わなくなったりしたまちを支援する取り組みは、我々にとっても挑戦です。多くの都市が抱える課題ですので、ここでモデルをつくりたいという思いもあります」とURの木村しんは語る。問屋街のビルに眠っている空間を有効活用すべく入居希望者を紹介したり、ウェブサイトを立ち上げたり。まちの活性化につながる多様な営みが次々にスタートしている。
次に来るときは何が始まっているのだろう? 古くて新しいこのまちは、そんな期待に満ちている。
横山町街づくり株式会社とURが共同開設した地区のPRサイト「さんかく問屋街アップロード」では、まちの魅力や最新情報を発信中。
【妹尾和子=文、青木 登=撮影】
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