【URのまちづくり最前線 第23回】鶴見花月園公園 防災公園街区整備事業(神奈川県横浜市)
競輪場が芝生の原っぱに生まれ変わり地域の人々待望の公園が誕生
大正時代には東洋一の大遊園地「花月園」(かげつえん)、戦後は競輪場としてにぎわった地に、昨年11月1日、「鶴見花月園公園」が開園した。地域の人々に待ち望まれていた広い原っぱには、子どもたちの歓声が響いている。
競輪場と社宅の跡地で地域の課題を解決
横浜市鶴見区、京急本線花月総持寺駅から坂道を上がること約5分。丘の上に広大な芝生広場のある公園が現れる。ここが開園したばかりの「鶴見花月園公園」。URが横浜市からの要請を受けて整備した、防災機能をもった公園だ。
総面積は約4・5ヘクタール。公園に向かって駅側から幅12メートルの道路が計画され、公園の手前には整備が続く広大な土地が広がっている。こちらは民間企業とURによって市街地整備が行われており、数年後に新たな住宅地が誕生する。
この一帯には1914(大正3)年、東洋一の大遊園地とうたわれた「花月園」が開園。動物園やスケートリンク、花月園少女歌劇まである遊園地として一世を風靡(ふうび)した。だが、戦後は経営難に陥り、1946年に閉園。その場所が50年には花月園競輪場として生まれ変わったが、その競輪場も2010(平成22)年に閉場した。
その競輪場の駅側、現在、土地の整備が行われている一帯には、京浜工業地帯に工場をもつ企業の社宅が多数立ち並んでいた。だが、この社宅も11年に役目を終えた。
「かつて競輪場のころ、この地区は広域避難場所に指定されていましたが、閉場後に解除されており、しかも周辺の道路事情が悪いという課題がありました。また、鶴見区には大きな公園が少ない、駅前の施設が充実していないなど、このエリアはいくつかの課題を抱えていました。そこで競輪場と社宅の跡地の利活用を検討するなかで、URさんの防災公園街区整備事業の手法を使い、公園だけでなく市街地も一体的に整備して、防災機能を向上させ、課題の解決につなげたいと考えました」
横浜市公園緑地整備課の松村克紀さんが、これまでの経緯を説明する。
待ち焦がれた公園に喜びの声が
当地区は土地の利活用に係る検討会を経て、一帯を防災機能をもった公園と宅地として整備することが決まった。その後、URは2013(平成25)年度に横浜市からの要請を受けて事業に着手。競輪場跡地の工事を開始し、公園を整備。市街地整備については、民間事業者3社との共同事業を進めている。
「防災公園街区整備事業で民間事業者と共同で取り組むのは、これまであまり例がありません。責任範囲や施工区分、スケジュールなど、多数の関係者間調整を進めることが、事業主体であるURとして最も苦労するところですね」
こう話すのは、URでこの公園整備を担当する赤埴(あかはに)文子。赤埴はこれまでも東京都内などでいくつも防災公園づくりを手掛けてきた。
「自治体によって事情はさまざまで、求められることも当然異なります。これまでURが培ってきたノウハウに、各自治体の意向を反映させながら、誠実に取り組むことを心がけています」
今回の公園整備の過程では、花月園時代の面影を設計に取り入れるとともに、地元の方々との意見交換会を行い、子どもたちからは遊具のアイデアも募った。
「競輪場の解体から公園完成までの期間が長く、工事期間中は周囲の皆さんにご迷惑をおかけします。皆さんに完成する公園のイメージを持ってもらい、楽しみに思っていただくための取り組みでした」と赤埴は話す。
一昨年からは新型コロナの影響を受け、定期的に開いていた地元自治会の方々との意見交換会が開けない期間が生じた。
「工事の進捗を報告しつつ、皆さんからご意見を伺っていたのですが、緊急事態宣言で開催できなくなり、地元とのコミュニケーションがとりづらくなったことは気がかりでした」と松村さん。
「でも、できあがった公園を見て、皆さんから『いい公園ができてよかった』と言っていただき、安心しました」
開園日の11月1日には、関係者が驚くほどの人々が詰めかけた「鶴見花月園公園」。中央には一周400メートルの競輪場のバンクの形を生かした芝生の大原っぱが広がり、最も高い場所にある東屋からは、横浜市街から東京湾や房総半島、晴れていれば富士山も見ることができる。
「公園事業は、途中がどんなに大変でも、開園すると必ず皆さんの笑顔が見られます。それが次もしっかり公園をつくろうという意欲につながります」と赤埴。
公園には、もう夕方だというのに、いつまでも子どもたちの歓声が響いていた。
【武田ちよこ=文、菅野健児=撮影】
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