街に、ルネッサンス UR都市機構

未来を照らす(30)卓球選手 伊藤美誠

URPRESS 2021 vol.67 UR都市機構の情報誌 [ユーアールプレス]


「集中して、焦らず すべてを出し切れば勝てる」の画像

テレビの前で声を張り上げ、感動に震えた人も多かったのでは? この夏の伊藤美誠選手の活躍は、新型コロナで疲れた私たちの心に、希望の火をともしてくれました。
あの試合のとき、どんなことを考えていたのでしょう。普段の伊藤選手はどんな女性なのか?
飾らない答えがポンポンと返ってきました。

卓球選手、伊藤美誠さんの写真いとう・みま
2000年、静岡県磐田市生まれ。2歳の終わりから卓球を始め、11年の全日本選手権・一般の部で史上最年少勝利記録を更新。16年リオデジャネイロオリンピックでは、女子団体で銅メダルを獲得。21年の東京2020では、3種目すべてに出場し、混合ダブルスで日本卓球史上初の金メダル、女子シングルスで五輪初のメダル(銅)、女子団体戦で銀メダルを獲得した。スターツ所属。

「伊藤選手は試合中に笑顔が出るときが一番強い」と、混合ダブルスで共に戦った水谷 隼選手がインタビューで話しています。笑顔を意識していますか。

試合中、笑顔が出ているときは、一番ペースがいいです、心から楽しんでいるときですから。サーブの前にちょっと笑みが出るときも、調子いいですね。自分の展開にしたいな、相手に渡したくないなという場面で、わざと笑うこともあります。自分のペースに試合をもっていけると、もう最高に楽しい(笑)。東京オリンピックの混合ダブルスは心から楽しめて、自然と笑ってて……(笑)。

混合ダブルスの試合中、水谷選手との会話で印象的だった言葉は?

準々決勝のドイツ戦、2対9で負けていて、「もうむずかしいかも」って頭をよぎったんです。このときは笑えず、静かでした。2対9から挽回するって、ほとんどないんです。でも、水谷選手が「大丈夫」「まだまだある」ってずっと言ってくれました。私は持っているものを出し切ろう、つなごう、しっかり入れよう。そして、水谷選手に決めてもらう。そのパターンで追いつき、最後は強気のサーブで勝つことができました。

サーブする瞬間、最高の集中力を発揮。©ロイター/アフロ

決勝戦も逆転勝利でした。

はい、出だしで2ゲーム取られましたが、その時、ミスしないという気持ちに切り替えられたのがよかった。そうしたら、ぽんぽんと点が取れるようになりました。追いついて、どんどん攻めていくと、目で戦えたというか、相手が見えるようになったんです。「えっ、なんかいつもの中国ペアと違う」って。私自身も変われた感じがして、自然といいボールが入るようにもなり、無理せずできたし、落ち着けました。最後まで前を向いて進む姿勢でできたと思います。

水谷選手とは阿吽(あうん)の呼吸というか、とてもペースがよく、互いの力を出し切っている感じでしたね。中国人選手に勝った瞬間は、もうびっくりしました(笑)。

観客がいる試合といない試合では、違いがありますか。

今回は無観客試合でしたから、テレビで見た方が多かったですよね。テレビは卓球台に近い映像なので、「見やすいな」と感じられたかと。試合会場の観客席だったら「ボール動いてるの?」と感じるくらい展開が早いので、テレビだからこその迫力があったのかなと思います。

もちろん生で観戦すると、選手が「うっ!」とか言ってる声が聞こえるし、会場の雰囲気もあっていいんですけど。今回はテレビ観戦で、みんなが一体化した、一致団結した、私にはそんな感じがすごくわかって、それがパワーになりました。私は有観客のほうが好きだし、みんなの前で試合をしたかったんですけど、逆に緊張せず、自分に集中できました。

リオデジャネイロと東京は、違いましたか。

全然違います。私は感覚タイプなので、「練習をそんなにしてなくても試合で勝てる」、リオまではそう思っていました。今、思うと、体幹がしっかりしていなかったから、嫌な、ひょろ~んみたいな(笑)、遅いボールが出たりして。調子いいときと悪いときの波が激しかったんです。私、弱かった、びっくりするほど(笑)。

今は前より土台がしっかりしました。いかにいい状態で試合にもっていくかが、今後の課題です。東京オリンピックはどの種目もよかったけど、団体戦の前は睡眠がよくとれ、ベストな状態でした。私は睡眠がとれればとれるほど、いい状態になります。試合も練習も、その後に10時間眠れば疲れはたまらず、次の日も頑張れます。

食事で気を付けていることはありますか?

体の回復には食事も大事。食べたいものを食べて、動きます(笑)。食事制限はしていません。「これを絶対食べなさい」ではなく、自由がいいです(笑)。

白いごはんが好きです。おかずはごはんに合うものなら、お肉も天ぷらも、お魚も納豆も。お刺身もいいですね。お母さんは、「疲れてるから今日はニンニク系」って体調に合わせて食事を用意してくれます。ニンニクは好きだし、パワーになるので、ほとんど毎日食べています。あとは温かい食べものを食べるように心掛け、さらに生姜で体を温めます。

試合で大事なことは何ですか。

サーブレシーブは1本に賭ける思いが強いです。ほかのプレーも目の前の1点1点、得点していき、11点取って1ゲーム勝ち。でも簡単に勝てることは少ないです。デュースになれば、どちらが勝つかわからない、もう気持ちの勝負なので大丈夫っていう思いでやります。

できるだけセットカウント4対0で早く勝ちたいんです。以前は試合を早く終わらせたいと思うと、焦る気持ちも出てきましたが、最近は接戦でも大丈夫って思えて、集中して、焦らず、落ち着いてプレーできるようになりました。いいバランスで試合ができています。

卓球選手、伊藤美誠さんの写真

経験を積んで、自分が変わったと思うことはありますか?

1点を取ることに集中して大事にできるようになったのは、経験も大きいですが、卓球を長年やってきて、自分の性格や思考の特徴がわかってきたからです。

私は多くの人と同じ道を進まない。同じ方向だと無難でおもしろくないと思えて(笑)。自分が楽しい、ゾクゾクする道にいきたいんです。みんなと違う分、よくも悪くも私自身に全部返ってきます。それをエネルギーにして、自分のものにしていきたい。そのほうが気づくポイントも、得るポイントも多くておもしろいし、おもしろいと成長も早いと思います。ワクワクしながら、人生過ごしたいですね(笑)。

私は試合が好きです。練習ではやってないことが、試合でできたりして(笑)。「やってみて」と言われるとできないんです。試合で打つボールは、頭と体が勝手に反応したもの。感覚タイプですから(笑)。やはり、やろうとしてできる選手が本物だと思います。

メダルの画像

卓球以外の日常や、興味があることを教えてください。

ファッションが大好きですね。コロナの前、オフの日は買い物に行ってましたが、今はネットで買い物をして、テレビを見て、映画を観るとか、普段できないことができるのが幸せ(笑)。一人で過ごすことも好きです。試合が終わっておいしいものを食べに行く、いっぱい寝る、ぼーっとするのも幸せ。普通の女の子です(笑)。

コロナの自粛生活で見つけたことがあります。私、静岡出身なので、ゆっくり時間が流れていくのが心地いいんです。だから家で自然の音を流してます。滝の音、海の音、虫の声とか、自然の中にいるみたいで最高です(笑)。これが影響したのか、意識せずに自然体でいられるようになりましたね。ムリすることなく、ありのままの自分です。卓球以外でそうなれば、卓球でもそうなるんです。 

卓球選手、伊藤美誠さんの写真

【小西恵美子=文、菅野健児=撮影】

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