角田光代さんエッセイ 暮らしのカケラ(38) 離島と人間修行
photo・T.Tetsuya週末に、友人たちと離島にいった。天気予報では土日とも雨だったけれど、着いてみれば、雨は降ったりやんだりで、やんだときにはじつにみごとな虹がかかった。
みんなでおいしい島料理を食べて、愉快に飲んで眠ったのだが、明けがた、ものすごい落雷の音で目が覚めた。唖然とするほどの大雨が降っている。朝食を食べるころには、警戒レベル五で、緊急安全確保のため避難所を設置しましたと、広報車が放送しながら走っている。
それでも午前中には雷はやみ、雨脚も弱まったので、みんなで車に乗って歴史資料館にいってみたところ、閉館している。卓球やボウリングができるという公民館にいってみても、扉は閉ざされ、人の気配もない。私たちのようにいき場を失った観光客が二人、困ったようにその場にいて、「閉まってますね」と力なく笑い合った。
この日の夕方の便で、私たちは東京に帰る予定だった。東京を午後にたった飛行機が島に到着すれば、それが東京いきになる。私たちは早々と飛行場にいってゲート前で待機していた。
東京発の飛行機はやってきたのだが、着陸することなく、ゴーアラウンドで飛び立っていった。どよめく待合所。もう一度着陸にトライしますとアナウンスが流れ、みんなが祈るように窓の外を見るも、数分後、強風のため着陸できず、飛行機は東京に戻ったと非情なアナウンスが流れた。
明日にはなんとか帰ろうと、翌日三便ある飛行機をみんなで予約したが、すぐに満席になってしまって、買えなかった人もいる。その夜、一便欠航のお知らせがショートメールで届き、みんな肩を落としてもそもそと夕食を食べた。
翌日も、二便、三便欠航との知らせが続いて届き、全員、崩壊しそうなメンタルのまま翌日の三つの便をまた予約する。一日することがない。雨は降っていないが、どこかに観光しにいこうとはもはやだれも言わない。明日、またしても欠航になったら……船便も出なかったら……あさっての航空券も買うか……みんな浮かんだ不安をそのまま口に出す。
翌日の朝、私たちはまたしても早々と空港にいってゲート前に待機した。飛行機があらわれて着地したときは、待機していた人たちが、建物が揺らぐかのような大拍手をした。
もともと自覚はあったが、私はこういう予定外の展開にじつに弱い。このときいっしょにいた八人のなかで、一日の予定がどうとでもなりやすい人No.1の自信があるのに、欠航のお知らせが届くたびにのたうちまわりたいような絶望と焦燥感に襲われる。どうしても帰らなければならない会社勤めの人ほど、冷静で、みんなが落ちこまないように冗談で笑わせてくれたり、あれこれ提案してくれたりするのを見て、私はまだまだ人間修行が足りない、と反省した。
この最終日は、着いてからの四日間でもっともうつくしく晴れた。島の木々も海も何もかもが光を放って、まるで、よくがんばったと、私の修行をねぎらってくれているみたいだった。
プロフィール
かくた・みつよ
作家。1967年、神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。1990年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。『対岸の彼女』(文藝春秋)での直木賞をはじめ著書・受賞多数。最新刊は『明日、あたらしい歌をうたう』(水鈴社)。
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