街に、ルネッサンス UR都市機構

角田光代さんエッセイ 暮らしのカケラ(16) 「ありがたい縁」

URPRESS 2021 vol.65 UR都市機構の情報誌 [ユーアールプレス]


イメージ写真photo・T.Tetsuya

二〇一六年から約四年間、東北の被災地に通い、飲食店を紹介するという仕事をしていた。関東育ちの私は東北には縁がなく、二〇一一年の四月に仕事の依頼を受けて、東日本大震災の被害を受けた沿岸部の町を歩いた。それがきっかけで幾度か再訪するようになり、その延長線上に、その約四年間の連載の仕事があった。だから私は震災以前の町を知らない。

連載中は三カ月に一度、編集者とカメラマンと三人で二泊三日、福島、宮城、岩手、ときどき青森を旅した。そんな付き合いが続くと、縁のなかった町にも勝手にしたしみを覚えるようになる。私の訪問する町々は復興し続け、訪れるたびに表情を変えていくが、その、変わりゆく光景にすら、なつかしさを覚えるのである。一方で、そのことをずっとうしろめたく感じてもいた。

連載のための最後の取材は二〇二〇年の一月で、連載自体は二〇二〇年の三月に終了した。四月に緊急事態宣言が出されて県をまたぐ移動の自粛が呼びかけられたことを、私は不思議な符号のように感じていた。東北にいけなくなったから連載を終えなければならなかったのなら、もっと釈然としない気持ちになっていただろう。

ついこのあいだ、一年ぶりに宮城県の石巻にいった。かつての取材は車での移動だったけれど、私は運転免許を持っていないので、自由時間がたくさんあっても徒歩の移動しかできない。石巻に滞在すると、だから私はこれといった用もなく、中心街をただぐるぐる歩いていた。朝にランニングをするのが習慣なので、早起きして日和山を上ったり、川沿いを走ったりもしていた。

今回の石巻でも、知人と待ち合わせた時間まで、町をぶらぶら歩いた。石ノ森先生の漫画キャラのモニュメントやベンチ、旧観慶丸商店のビルだけでなく、ちょっとした路地や石畳、長い石段もがなつかしい。ひとりで飲んだ屋台のバーがなくなっていたり、おしゃれなお店ができていたり、あたらしい橋ができていたりする。新規オープンの飲食店を見つけると、自分の住んでいる町ではないのにわくわくする。定期的に訪れた町だから見つける新発見であり、感じるなつかしさである。

今まで、仕事や休暇で旅をしてきて、再訪を願いながらかなわない場所のほうが多い。再訪できても、まったく町が変わってしまって、記憶とまったく重ならず、旅の記憶ごと失ったような心許ない気持ちになることも多い。そう思うと、やっぱり人と町にも縁のあるなしが存在するように思えてしまう。震災後の縁と考えると、うしろめたさは消えないものの、でもやっぱり、東北の町との縁ができたことは、すでに故郷を持たない私にはとてもありがたいことだ。

プロフィール

かくた・みつよ

作家。1967年、神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。1990年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。『対岸の彼女』(文藝春秋)での直木賞をはじめ著書・受賞多数。最新刊は『銀の夜』(光文社)。

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