【復興の「今」を見に来て!第22回】岩手県盛岡市
岩手山を望む災害公営住宅が完成
新しい暮らしが始まった
JR盛岡駅で2両編成のIGRいわて銀河鉄道に乗り換え、走り出すとすぐに線路の脇に真新しい集合住宅が見えてきた。URが岩手県からの依頼を受けて造った災害公営住宅「県営南青山アパート」だ。
避難した人たちの新しい住まい
ここは岩手県で最後に整備された災害公営住宅。URに依頼した理由を、岩手県建築住宅課の古川亜子さんはこう話す。
「南青山アパート整備事業は、市街地の鉄道に近接した建設用地の造成をともなった難易度の高い事業です。沿岸部から内陸部に避難された方の住宅再建を迅速に進めるためにも、予定期間内に完成させる必要があり、これまでのノウハウと経験豊富な人材をもつURさんに依頼しました」
URは2019(令和元)年に建設工事に着手、昨年12月に建物は無事に完成した。建物が造られたのは、線路に沿って防雪林が植えられていた場所だ。
「鉄道の運行を止めず、近隣の住宅地への振動や騒音を低減させながらの工事。工期も厳しいなかでしたが、心待ちにしている入居者をお待たせするわけにはいかないと、何とか期日通りにやり遂げました」とURの担当者は安堵の表情を見せた。
10年目に始まった快適な暮らし
南青山アパートは全部で99戸。今年の2月半ばから入居が始まった。その真新しい部屋に招いてくださったのは、釜石市から避難してきた佐々正弘さん、順子さん夫妻。4階の住宅のベランダに出ると、右手に雪をかぶった岩手山の堂々たる姿が見えて、心がなごむ。
「景色がいいでしょう。室内の広さは十分だし、引き戸のトイレなどバリアフリーが徹底されていて、高齢の私たちにも暮らしやすい。1階に各戸専用の物置スペースがあるのもうれしいですね。雪かき用のスコップや漬物樽だとか、雪国の暮らしにこういうスペースは欠かせないですから」
こう話す正弘さん。自宅は津波で全壊し、これまでは息子家族の住む盛岡市で、民間アパートを借りて住んでいた。
「同じアパートの人とは、会えば挨拶をする程度。同じような境遇の人はいないので、共通の話題がないんです。でも、ここに入居するときに参加した町内会の交流会では、同じ釜石市の人が何人もいて、『大変だったね』と話せば親近感がわいてきます。10年はあっという間。みんなに助けられてここまできたので、これからは自分たちでやっていきたいと、そういう思いでこのアパートの入居を決めました」
こう話す順子さんの表情は明るかった。
URのノウハウを生かして
新しい住宅に住む人たちのコミュニティーづくりにも、URのこれまでの災害公営住宅づくりのノウハウが生かされている。線路に沿った南北に細長い敷地に建つ4棟の中央に、集会所と「青山コミュニティ番屋」と呼ばれる常駐型復興支援拠点が置かれている。集会所は入居予定者からの要望を受け、高齢者が利用しやすいよう土足で入れる土間空間をメインにした。正面には、他の災害公営住宅で喜ばれた共同花壇を作り、春には入居者たちが花を植えるイベントを開催予定だ。
入居前から地域の町内会とも連携をはかって交流会などを開催。昨年10月には、URの提案で、建設時に伐採した木を使った表札づくりのワークショップを開いて好評だった。入居者同士はもちろん地域も巻き込んで、新しい暮らしが始まっている。
【武田ちよこ=文、菅野健児=撮影】
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