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【復興の「今」を見に来て!第19回】岩手県盛岡市

URPRESS 2019 vol.62 UR都市機構の情報誌 [ユーアールプレス]

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建設が進む南青山災害公営住宅(6月現在)。奥に地元のシンボルでもある岩手山(岩手県最高峰 標高2,038m)の姿が見える。

ノウハウを詰め込んだ災害公営住宅を内陸部に建設中

裾野をゆったりと広げる雄大な山容。伐採した杉林の先に、岩手県民になじみのある岩手山の姿が現れたとき、その場にいた人たちは声を上げた。現場は「IGRいわて銀河鉄道」で盛岡駅から一つ目の青山駅近くの南青山地区。東日本大震災津波で被災した人のための災害公営住宅の建設予定地だ。現在は杉林の伐採と基盤整備を終え、建物の建設が進められている。

整備前は鉄道用地でこのような防雪林だった。雪の減少と除雪能力の向上で防雪林は必要なくなった。
列車通過時は作業を中断。また一気に切り倒さず細かく分けて作業するなど安全確保と、振動・騒音の軽減に配慮しながら杉を伐採した。

戻りたくても戻れない人のために

今、なぜ東日本大震災津波の災害公営住宅の建設が内陸部の盛岡市内で進んでいるのか、と思う人がいるかもしれない。理由を岩手県県土整備部建築住宅課の古川亜子さんが説明してくれた。

「東日本大震災津波により沿岸部は甚大な被害を受け、かなりの方が内陸部に避難されました。内陸部の民間の賃貸住宅を借り上げた仮設住宅で暮らしている方のなかには、既に学校や仕事、病院など生活基盤を築いて、このまま内陸部に留まることを希望されている方が多く、内陸部での災害公営住宅の建設が必要とされていました」

古川さんは被災地である釜石市出身。復興事業に携わりたいとの思いで県に就職したという。

岩手県内では他にも災害公営住宅を整備しているが、ここ南青山地区の住宅整備をURに依頼したのは、鉄道隣接地の造成を伴う難事業であり、迅速かつ確実に住宅建設を進める必要があったからだという。

「URさんは地域の特性や状況に応じた多くの住宅供給の実績があり、入居者の利便性や快適性を把握した住宅仕様のノウハウもお持ちです。団地再生やまちづくりなど、これまで多くの実績を蓄積してきた都市・住宅事業のトップランナーであるURさんに、そのノウハウを活かした展開、自治体などへの支援や、少子高齢化など日本社会が抱える課題への配慮も期待しました」

地元との調整や入居予定の方との意見交換、URとの工事調整など、南青山災害公営住宅の整備事業全般を担当する岩手県建築住宅課の古川さん。
住宅の完成イメージ。住宅はRC造3、4階建ての4棟。2DK~4DKまで3タイプ99戸。エントランスのアクセント壁や集会所の和室に岩手県産の木材の利用を検討中。2号棟に高齢者の見守りやコミュニティー形成を支援する「支援センター」が入る予定。
南北に長い敷地のため、中央にオープンスペースを配置。入居予定の方々の願いどおり、全戸のバルコニーから岩手山を望める。

入居される方に喜んでもらいたい

2017(平成29)年に岩手県・盛岡市から要請を受けたURは、計画・協議を進めて19年9月に南青山災害公営住宅の建設工事に着手した。

「東側には線路、西側には戸建て住宅が隣接し、道路からのアクセスもよくない場所です。まずは鉄道の運行を止めないことを第一に、近隣への振動や騒音の低減、工事車両の出入りなどにも気を遣いながら工事を進めています」

とUR岩手復興支援本部の羽入久仁(はにゅう ひさひと)は話す。

南北に細長い敷地内に2棟ずつ合計4棟の集合住宅(99戸)が並び、中央にオープンスペースを設けた配置。この住宅には、沿岸部の災害公営住宅整備の経験を含めURがこれまでに蓄積してきたノウハウがちりばめられている。

いずれの棟からも集まりやすい中央エリアに造られる集会所は、1階部分が住棟とウッドデッキでつながり、階段なしでアクセスできる造り。入居予定の方々の要望を受けて、土足で入れる土間空間をメインとし、広い台所を備え、外から中の様子が見える集会所となるように配慮している。お住まいの方だけでなく、地域の方の利用も考慮し、「お茶っこ」はもちろん、お祭りやイベントなどもできる広いスペースを確保した。

建築・計画を担当するURの岡本佳久は、入社後すぐ3年間携わった岩手県沿岸部での震災復興支援の経験を、ここで活かしていると話す。

「5年前はまず建てることが大命題でしたが、今は先輩たちが培ってきたノウハウを活かして、コミュニティー形成に配慮した災害公営住宅の整備を進めています」

沿岸部の災害公営住宅で喜ばれた共同花壇の設置もそのひとつ。また、伐採した杉材を利用して各戸の表札を入居者ご自身でデザインしてもらうことも、UR側からの提案で実現した。

完成予定は今年12月。

「工期が大変厳しく、現場はてんやわんやですが、入居される方は心待ちにされていると思うので、なんとか工期に間に合わせるべく頑張っています」

と基盤整備・計画を担当するURの辻 賢三。

入居された方々がバルコニーから岩手山を望み、喜ぶ姿を願いながら、関係者の奮闘が続いている。

隣接する線路は、IGRいわて銀河鉄道のほかJRの貨物列車も利用するため、運行時刻と調整し、作業を進める。
左からURの岡本、羽入、辻。事業の進め方はもとより、周囲にお住まいの方への丁寧な説明、何かあったときの迅速かつ誠実な対応を心がけている。

妹尾和子=文

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