【楽しい団地】泉北桃山台一丁団地(大阪府堺市)
堺市とタッグを組み、新しい拠点をつくる
1967(昭和42)年にまちびらきした泉北ニュータウン。
URは地元堺市とともにニュータウンの魅力を見つめ直し、多様な世代が生き生きと暮らす、新しいコミュニティーづくりをスタートさせている。
団地の機能をコンバージョンする
泉北ニュータウンにある桃山台一丁団地を舞台に、URが堺市とともに取り組むのは「団地コンバージョン推進モデル事業」。コンバージョンとは、用途転用といった意味で、団地の機能を、「食」「遊」「職」など、「住む」以外の用途に転用して、さまざまな世代の人が交じり合うミクストコミュニティをつくり、団地ににぎわいを取り戻すのがねらいだ。2017(平成29)年にURから堺市に声をかけて取り組みが始まった。
「泉北ニュータウンの約半分が公的賃貸住宅で、その3割がURさんの団地です。完成から50年以上経過した団地は、人口減少や高齢化が課題となっており、それを解決したいという思いがURさんと合致しました」と堺市でこの事業を担当する三木愛子さん。
まず手掛けたのは住戸のリノベーション。堺市とURの若手職員で意見を交わしながら、北欧の価値観と団地本来の和の空間の融合「#Japandi」(ジャパンディ)をテーマとしたリノベーション住戸を企画。これが若年層に受け、若い世代の入居が進んだ。
さらなる展開として、URと堺市が取り組んだコンバージョン事業が、新しいかたちのコミュニティーづくりだ。
「手探りのスタートでした。まず皆さんが何を求めているかを探るため、イベントを開催して何度もアンケートをとりました。そこから、常設の飲食の場がほしい、気軽にご近所づきあいができる場所がほしい、みんなで物をシェアしたりする場所がほしいといった声が多いことがわかってきました」とURの松尾知佳が振り返る。
そこで団地の集会所の一部を、団地の人だけでなく、地域の人々も気軽に出会い、集い、何かを始めるきっかけとなる拠点にコンバージョンすることにした。名前は団地住民の投票により「ももポート」に決定。URと堺市は、昨年3月に、この拠点を運営する人(運営者)、各種企画を実施する人(プレーヤー)と、これらの活動をサポートする人(サポーター)を募集することから始めた。
見直されるニュータウンの魅力
堺市でこの事業を担当する高松 俊さんは「コロナ禍によって働き方が見直され、会社に行くことが必須でなくなってきた今、住宅地であるニュータウンの価値が見直されています。ここは公園が多く緑道も整備されていて、環境は抜群ですし、車で10分も走れば田園地帯が広がります。都市の利便性と田園地帯の両方のいいとこどりができる場所が、この泉北ニュータウンです。家の近くでお店を始めるのもいい。団地のカフェでテレワークするのもいい。ニュータウンの潜在的な魅力を引き出して、新しいにぎわいを生み出していければ」と団地の可能性を語る。
「サポーターの方々も年齢層は幅広く、自分の得意なことを生かしたい、空き時間に手伝いたいなどのお申し出もあり、期待が高まっていると感じています」とURの船塚清隆。「拠点が触媒になり、新たな化学反応が楽しみ」と笑顔を見せた。
プレーヤーが決定
外部の力を借りて発進
「ももポート」の運営は南海フードシステムに決定した。南海フードシステムは南海電鉄のグループ会社で、地域の利便性向上と、地域の価値向上にチャレンジしたいと手を挙げた。
「この取り組みを、鉄道会社の新しいビジネスモデルにしたいと考えています。URさん、堺市さんと話し合いながら、ともに住民の課題を解決していきたい」と社長の寺田 成さん。カフェの店長を任された同社の今橋沢美さんは、「お住まいの皆さんと仲良くなって、毎日来たいと思っていただけるような店づくりをしていきたい」と意気込んでいる。
また、URとともに運営を支援するフォーシーカンパニーは、地域の方々の参加を得ながら、イベントなどで機運づくりを進めてきた。今後も拠点運営の持続化に向けて取り組んでいく。
「ここに拠点ができたら、団地の人だけでなく、外の人ともつながれるのではないかなと期待しています。具体的にはカフェでブックシェアのサークルなどを始めたいと考えています。そして、皆さんにここが自分のまちだと愛着をもってもらえるようにしたいですね」と担当する畑 史子さんは言う。
「ももポート」が団地に住む人や地域の人々のリビングルームとして活用され、「ここに来れば誰かに会える」というようなみんなに愛される場所になる。そんな日は近いと感じた。
【武田ちよこ=文、菅野健児=撮影】
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