楽しい団地 グリーンヒル寺田(東京都八王子市)
ゆるやかにつながる「場」が人々を元気にする
扉を開けると、ふわっと珈琲の香りに包まれた。ここはURの団地「グリーンヒル寺田」の商店街にあるコミュニティースペース「グリーンヒルおひさま広場」。この日は住民による「Cafeおひさま」が営業中で、お客さんが来店するたびに、お店のスタッフと、またお客さん同士がなごやかに語り合う光景が繰り広げられていた。
2016(平成28)年に誕生したこの「おひさま広場」は、週4日は誰でも利用できる「Cafeおひさま」に。そのほか八王子市や近くにある法政大学の学生が主催する住民向けのイベントの会場などにも姿を変え、幅広く活用されている。月2回、金曜日の夕暮れどきのミュージック&カフェ「Friday After5」も恒例だ。
幅広い世代が集い
活気あふれるカフェ
高尾山の山裾に位置する「グリーンヒル寺田」は環境がよくて暮らしやすいと長く住み続ける人が多いこともあり、高齢化が進んでいる。そこで数年前から、URは法政大学と八王子市と三者協定を結び、地域の方々と共に「グリーンヒル寺田」のコミュニティー活性化に取り組んできた。何度かイベントを続けるなかで、住民の方々から、いつでも気軽に立ち寄れる場がほしいという要望があり、団地内の空き店舗だったスペースを改修。法政大学の学生たちによる壁塗りワークショップなどの協力も得て、コミュニティースペース「おひさま広場」が誕生した。運営の支援に尽力してきたURの清水真道は「幅広い世代が集い、学び、働き、安心して暮らしていける活気あふれるまちをつくることを目的に活動してきましたが、誰でも気軽に立ち寄れるスペースができたことで、皆さんの活動が広がり、とてもいい雰囲気になっています」と説明する。
カフェのスタッフは現在15名ほど。40~80代で全員ボランティアだ。愛情たっぷりのハンドドリップ珈琲をはじめ飲み物は1杯100円。食べ物の持ち込みも自由で、何時間いても問題ない。オープン当初はマシンで淹れた珈琲を紙コップで提供していたそうだが、スタッフが自宅からカップ&ソーサーや花を持ち寄ったり、手作り品を飾ったりして息を吹き込み、現在のようなあたたかな雰囲気に。
この場ができて、生活さらには人生が大きく変わったという人もいる。カフェスタッフの岡野宣子さんは、この団地で暮らして35年。かつては子どもの声が響いてにぎやかだった団地も、子どもたちが自立して出ていき寂しくなったという。地域活性化のお手伝いができればとカフェのボランティアに参加した。
「嫌なことがあっても、ここに来ると気分が明るくなって元気になるんです。若い方のアイディアや行動力にも刺激を受けています」
その岡野さんが頼りにしている若手の山田久美子さんは、家族の転勤で関西からこの団地に移り住んで8年目。知り合いのいない土地で子育てをしながら、たまには外で珈琲を飲みたいと思っても、近くに飲める場所がなかった。珈琲マシンだけでも置いてもらえないかとスーパーなど数軒にお願いしたものの難しく、残念に思っていたときに、「Cafeおひさま」のオープン情報をキャッチ。ご近所付き合いも、ましてや地域活動に参加したことなどなかったそうだが、珈琲を淹れるボランティアならできるかも、と応募。そしてカフェに関わり、人生が180度転換したと微笑む。
「ここに来るとほっとして、まるで実家に帰ったような感覚です。知らない人と話ができるし、何かあればすぐに相談できる。自然とご近所の方たちとも知り合いになって、一生ものの宝物のような出会いもありました。子どもたちも顔見知りの人が増えて見守ってもらえて、我が家にとってはプラスなことばかりです」
山田さんの小学生の娘さんは放課後、カフェに直行、高校生の息子さんも時々ボランティアで参加し、年配の方々にかわいがられているという。
「使わなくなったおもちゃを譲ったり、困っている人がいれば誰かが助けたり。誰も無理していないのに、気楽に、ゆるく、こんな関係が保てるなんて……」
数日来店のないお客さんがいれば、「〇〇さん、最近見ないけれど、どうしているかしら?」「元気よ、寒いから出てこないだけ」といった会話が自然に交わされる場。桜まつりや七夕、ハロウィンなどこの場を会場にした住民主催のイベントも増えている。昨年のクリスマス会では住民の方々が演奏やマジックなど特技を披露。近隣の小学校の先生方など団地の枠を越えて老若男女100名以上が集まり、大いに盛り上がった。
カフェに集う方たちの笑顔やお話から「おひさま広場」がなくてはならない場になっていることが伝わってくる。団地コミュニティーの理想のカタチを見た気がした。
妹尾和子=文、菅野健児=撮影
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