佐藤可士和展で「団地の未来」について考えた
この春、国立新美術館で開催された「佐藤可士和展」は、クリエイティブディレクター佐藤可士和さんの約30年にわたる活動を多角的に紹介する大規模な展覧会。
展示内容に加え、20代を中心に連日多くの人が来場したことでも話題を集めている。
会場では佐藤可士和さんが携わったURの「団地の未来プロジェクト」も紹介され、3月2日には、館内でプロジェクト関係者によるトークセッションが開かれた。
クリエイティブの力を多くの人に伝えたい
「これも、そうなんだ」
ユニクロに楽天、セブン-イレブンに今治タオル……おなじみのロゴや商品が並ぶ会場のあちこちから、そんなつぶやきが聞こえてくる。さらに進めば、プロデュースした企業の社屋や病院、幼稚園の紹介、アートワークのコーナーもある。佐藤可士和展はデザインの力や可能性を示す構成になっていた。この展覧会で可士和さんが目指したのは、一般の人たちに「クリエイティブの力」を楽しく伝えることだという。
「クリエイティブってうまく使えば、すごくパワフル。クリエイティビティは誰もが持っているものなので、意識して活用すれば問題が解決したり、もっといいことが起きたりすると思うのです」
と可士和さん。アスリートでなくてもスポーツの力を、歌手でなくても音楽の力を感じているように、クリエイティブの力をたくさんの人に感じてほしい。クリエイティブを意識する人が増えれば、全体がいい方向へ進むと考えている。
初めての挑戦
団地とコミュニティー
手がける仕事は多岐にわたるが、いずれもメディアととらえ、何を伝えたいのか、発信したいのか、それが伝わる方法を考えて展開するという可士和さん。会場で紹介されているURの「団地の未来プロジェクト(PJ)」も同様だという。築50年になる横浜市磯子区の洋光台団地をモデルケースとして、団地のもつ魅力を社会に発信する「団地の未来PJ」。建築家の隈研吾さんと佐藤可士和さんの監修のもと、洋光台駅前広場や北集会所・広場、住棟の改修などが進み、洋光台団地は活性化し、明るく心地よい空間に変身している。
団地やコミュニティーの仕事は初めてで、挑戦でもあったと話す可士和さん。
「これは社会課題解決PJ。クリエイティブの力で少しでもお手伝いできるのであれば、ぜひお役に立ちたいと思いました」と参加への思いを語る。
UR理事長の中島正弘は、自分たちで具現化できずにいた課題の明確化を、可士和さんをはじめPJメンバーの力を借りて進められたという。
「可士和さんは常にユーザー目線で、ユーザーにとって何が大事なのかを考えて、あるものを活かしながら工夫されます。相手の困りごとを見つけてアプローチする姿勢は、URのまちづくりにとっても非常に大事なことです」
PJメンバーによるトークセッション
3月2日に開かれた「団地の未来」のトークセッションでは、PJメンバーである清野由美さんの進行のもと、はじめにURの中島からPJの経緯(1970年代に建てられた団地の老朽化、住民の高齢化が進むなか、ハードとソフト両面からの団地のバリューアップの取り組み)を説明。テレワークに適した住居の提案や、団地内へのキッチンカーの導入など、団地活性化のための最近のURの取り組みも紹介した。
そして隈研吾さんからは、長年きれいにメンテナンスしながら住民が仲良く暮らしている日本の団地は世界の宝だという力強い発言があった。
隈さんと共に可士和さんが洋光台団地を歩いて感じたのは、住棟の間隔や向き、植栽や広場など、「いい意味でのゆるさ」だったという。そして関わるほどに、「集まって住むパワー」を感じ、その魅力、豊かさを考えるようになったと話す。たくさんの知恵、違った価値観を取り入れながらPJを進めたいとオープンイノベーション形式にし、ブックディレクターの幅允孝さんにも声をかけた。幅さんは洋光台団地に誕生したコミュニティーカフェに、テーマごとにセレクトした3冊の本とレジャーシートが入ったバスケットを置き、団地内に持ち出せるようにした。
「団地全体をライブラリーにと考えました。世代、時代を超えて同じものを共有できるのは本の魅力です」と幅さん。
そして東京大学大学院教授の大月敏雄さんは、このPJが10年かけて人間関係を耕し、丁寧に成果を蓄積してきた稀なものであると説明。支えてきたURを称え、今後への期待を寄せた。可士和さんにとっても、関わった仕事のなかで、このPJほど期間が長く、多くの人が関わっているものはないとのこと。
「もっといろんな方に参加してもらい、共に創っていかれたら。このPJをモデルとして、社会を変えていかれたら最高です」と締めくくった。
※佐藤可士和展は5月10日まで開催予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響により、4月25日以降の開催は中止となりました。
【妹尾和子=文、菅野健児=撮影】
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