【特集】回遊性を高めてエリア全体ににぎわいを 荒尾市中心市街地(熊本県荒尾市)
熊本県の西北端に位置する荒尾市では、市街地の競馬場跡地が「あらお海陽スマートタウン」として生まれ変わり、そこから人の流れ、にぎわいをJR荒尾駅周辺へ広げる取り組みが進んでいる。
競馬場跡地に新たなまちが誕生
「のあそびマルシェ」で子どもたちの人気を集めていたのは、焚き火ブース。マシュマロを焼いて食べられる。「子どもたちに火や刃物の扱い方を教え、自立できるようになってもらいたい」という思いのもと、のあそびlaboが展開。福岡と熊本の県境に位置する荒尾市を訪ねた。有明海に面したこのまちは、かつて三井三池炭鉱で栄えた歴史があり、現在も世界文化遺産「万田坑(まんだこう)」や西日本最大級の遊園地「グリーンランド」、ラムサール条約湿地「荒尾干潟」など、見所がいくつもある。
開放感あふれる魅力的なまちだが、炭鉱の閉山とともに人口減少が進み、2012(平成24)年には市民に親しまれていた荒尾競馬場が閉場された。
競馬場跡地と周辺を含めた35haの広大な土地をどうするのか。荒尾市から相談を受けたURは、計画策定から関与し、その後、荒尾市とまちづくり基本協定を締結し、土地区画整理事業を受託。約150名の地権者それぞれの意向に寄り添いながら、荒尾市と共に整備を進めてきた。
10年の年月を経た今、整備された跡地には新たな道路が通り、商業施設がオープン。有明海に面して瀟洒(しょうしゃ)な集合住宅が並び、戸建て住宅も次々に建ち始めている。
さらに今春には市の保健・福祉・子育て支援施設がこの地に移転、6月には「道の駅ウェルネスあらお」がオープン予定。公園やビジネスホテルの建設も予定されている。一帯がウェルネスをテーマにしたコンパクトなまち「あらお海陽スマートタウン」として生まれ変わりつつあるのだ。
荒尾駅前で一般車両を通行止めにし、人工芝を敷いて開催したマルシェ。荒尾商工会議所青年部や西原町商店振興会も含め、キッチンカーなど数多く出店。日が暮れるほどに人々が集まってきた。
JR九州の園田さん。荒尾在住で、まちづくりに関わり始めて、地元の魅力を再発見していると話す。荒尾駅周辺に人の流れとにぎわいを
そして今、荒尾市が取り組んでいるのが、人々が回遊するまちづくりだ。荒尾市産業振興課課長の松尾謙一郎さんが説明してくれた。
「荒尾市は、子どもからお年寄りまで誰もが心豊かに健康に過ごせるまちづくりを目指しています。あらお海陽スマートタウンから、500m離れたJR荒尾駅まで人の流れを呼び込んで、空き店舗が増えている駅周辺にも、にぎわいを創出し、エリア全体の価値を高めていきたいと思っています」
荒尾駅のリニューアルに向けて、地元の人たちが望む駅前の使い方を探ろうと一昨年から行っているのが、社会実験だ。地元の人気イベント「のあそびマルシェ」の開催に合わせて駅前広場の一部を通行止めにし、人の過ごし方や交通への影響などを検証している。
「開催前は交通への影響を懸念していましたが、問題はほぼありませんでした。車両の交通を止められたことが驚きで、開催できて自信につながりました。私どもに社会実験をしようという気づきはなく、URさんに提案いただいたおかげで実現できました」
荒尾市産業振興課係長の五藤貴之さんはそのように話す。
左からURの松岡、のあそびlaboの中村さん、荒尾市の松尾さん、五藤さん、URの上ノ町。
競馬場跡地を整備して生まれ変わりつつある「あらお海陽スマートタウン」の全景。地域交流施設「道の駅ウェルネスあらお」が6月にオープン予定だ。
対岸に雲仙・普賢岳を望む有明海に面して建つ眺望抜群の集合住宅。スマートタウン内に有明海沿岸道路が延伸予定で、荒尾北ICの整備も進められている。
住宅地や商業施設など複数のエリアで構成される「あらお海陽スマートタウン」。商業施設が開業し、人の流れを呼び込んでいる。
海側の上空からの荒尾市街地の眺め。
荒尾駅前でのイベントは夕方からスタートした。社会実験で検証する地元の人が望むかたち
訪ねた昨年の10月25日は、DK–Live(デジタル掛け軸)と「のあそびマルシェ」のコラボイベントに合わせた社会実験の日。夕方以降の人の動きを検証するため16~20時の開催で、飲食を中心に15店以上が並んでいた。
人工芝で寝転んで遊ぶ子どもたちや、その横でクラフトビールを片手におしゃべりに花を咲かせる大人たちの様子を見ながら、「ふだんはバスレーンのある所に、人工芝を敷いてテーブルやベンチを置いたことで、大人も子どももこんなにゆったり過ごせるんですね」と口にしていたのは、のあそびマルシェを主催する(一社)のあそびlabo理事の中村光成さんだ。本業は医師。奈良県出身で縁あって荒尾へ。趣味のアウトドア活動で培ってきた技術を社会に貢献したいと、のあそびlaboを設立した中村さんは、荒尾のまちづくり活動のキーパーソンでもある。
来場者に話を聞くと「夕方からの開催なので出かけやすかった」「エリア内で子どもが自由に遊んでくれるので、親はおしゃべりや飲食を楽しめてうれしい」「DKの光のショーが見事で、駅前が賑わっていた頃の様子を思い出した。また開催してほしい」と、皆さん楽しまれていた。
駅前での社会実験には、JR九州の協力も不可欠だ。JR九州工務部設備課の園田めぐみさんは、利用者が望むかたち、実態に即した整備を進めるうえで、社会実験の開催と検証はありがたいと話す。「シール貼り形式で来場者からアンケートをとる工夫や、AIカメラなど新技術の導入はURさんならではだと思いました」とも。AIカメラの導入について、URの松岡 拓は「荒尾市さんが知りたい、調べたいことに、より精度を上げて応えたい。ラインを跨いだ人や車の数をカウントして滞在時間をデータ化し、映像を残さないAIカメラの活用で、駅改修の際に役立つデータが得られるのではないかと思いました」と説明する。
URは荒尾駅前に事務所を構え、まちづくりをサポートしている。担当3年目となる上ノ町文も、まちの方たちの役に立ちたいという熱い思いを抱いている。
「敷地や電力を提供してくださるJR九州さんをはじめ、多くの方の協力があっての社会実験です。イベント実施に必要な手続きや準備の流れ、必要な書類をマニュアルにまとめて関わる人たちに共有することで、駅前広場がさらに使いやすくなることを目指しています」
上ノ町は、荒尾は魅力的な人が多く、まちの人に育ててもらい感謝しているという。前述の中村さんは荒尾の魅力を「海があって夕陽がきれいで、マツタケがとれるような山もあること。ほどよくいろいろなものが集まっていて、人や団体の横のつながりもある。とても居心地がいいまち」と語っていた。ゆるやかに暮らしがつながるこのまちは、回遊性が高まることで新たな動きが生まれる。そんな大きな可能性を秘めている。
【妹尾和子=文、菅野健児=撮影】
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