【特集】中心市街地の「原っぱ」がまち活性化の鍵になる(岡山県津山市)
岡山県北東部に位置する津山市では、
人口減少や中心市街地の空洞化という問題に対して、〈人づくり〉を核に
市と地元高校生、市民がゆるやかに連携しながら新たな挑戦を始めている。
高校生たちが帰ってきたくなるまち

津山市は岡山県で3番目の人口を誇るが、津山駅と津山城跡の間に広がる城下(しろした)地区と呼ばれる中心市街地は、高齢化が進み人口が減少、空洞化に歯止めがかからないのが現状だ。この城下地区の中心部にあったホテルが移転して生まれた跡地が、昨年9月、「城下スクエア」として生まれ変わった。といっても、そこには天然芝の広場があるだけで、建造物はいっさいない。
取材に訪れた昨年11月16日は、折しも岡山県北部を中心に「森の芸術祭」が開催され、津山も会場のひとつになっていた。城下スクエアと、隣接する歴史的建物である森本慶三記念館では、つやま城下ハイスクールの写真展とトークセッションが行われた。
つやま城下ハイスクールとは、津山市内すべての高校生・高専生が参加できるプラットフォーム。学校の枠を超え、持続可能な地域社会を維持するためのさまざまな活動に取り組んでいる。
この日、展示された高校生たちの写真には、学校生活の一瞬や、毎日利用する駅、まちの風景や夕焼け空など、さまざまな津山が写っていた。撮影した高校生たちは「自分で写真を撮ることで、今まで知らなかった津山に出会えた」と口をそろえた。
つやま城下ハイスクールの世話役は「高校卒業と同時に津山を出て、そのまま戻らない“18歳の崖”にブリッジを架けたいという思いから、活動を始めて5年。1期生は大学生となり、就職した子もいますが、たとえば今日の写真展に卒業した大学生が手伝いに来てくれるように、脈々とつながっている実感があります。確実に18歳の崖にブリッジが架かり始めています」と手ごたえを感じていた。
津山商業高等学校の片岡和昌先生も「他校の生徒と一緒に活動する生徒たちの成長を感じます」と活動を応援する。
新見市の大学に通うOGの河本はるのさんは、「他校の生徒だけでなく、たくさんの地元の大人と関わることができたのも、いい経験でした。さまざまな活動を通して、津山のまちの魅力に気づきました」と話してくれた。


社会実験を続けて〈人づくり〉の場をつくる
中心市街地に誕生した芝生の原っぱ「城下スクエア」だが、その跡地利用に関しては、これまで数回社会実験を行ってきた。
「行政ではまずハードを作り、そこから活動を起こすことが多いのですが、津山市は先に社会実験を重ねて、市民の思いを積み上げた結果が、原っぱになりました。この積み上げ方は新しいと思います。このような市の思いを支えていきたい」と話すのはURの土屋 禎(ただし)だ。
URは2020(令和2)年に津山市とまちづくり連携協定を締結。城下地区のまちづくりビジョンの策定や、社会実験をサポートしてきた。
「広い視野を持つURさんの知見に助けられている」と話す津山市産業経済部次長の小須田(こすだ)純さんは、「ここを〈人づくり〉の場にしたいという思いがありました。隣に森本慶三記念館、背後に津山城跡が控えるこの地には、教育、つまり人づくりの歴史があります。この歴史をつないでいくのが、行政の仕事。城下スクエアは、市民が自由に活動する場です。これからも社会実験を続け、必要だと思う物が出てきたら、あとから付け加えればいいんです」
城下スクエアに隣接する森本慶三記念館の館長、森本信一さんは、「これまではあまり市民との交流がなかったのですが、今後は城下スクエアと連携して、中心市街地の活性化に寄与できればうれしい」と話し、建物の一部でカフェを開くアイデアもあると教えてくれた。
実際に城下スクエアでは、高校生たちが遊ぶ姿がよく見られるようになった。若者が集まる→店ができる→人が来る。これを繰り返していけば、中心市街地が変わっていくのでは、という期待がある。津山市ではいま城下スクエアを核にして、市と森本慶三記念館、UR、それに高校生たちがゆるやかに連携して、新たな魅力創出の準備を整えつつある。


【武田ちよこ=文、菅野健児=撮影】
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