【特集】リノベーションまちづくりを目指す 銀座通りに新たな風が吹く(栃木県鹿沼市)
都内から特急列車で約80分。自然豊かで歴史文化が息づく鹿沼市の中心市街地、銀座通り周辺で、公民連携によるリノベーションまちづくりが進み、新たな展開をみせている。
ここから人がつながり活動が広がる

かつては大店(おおだな)が並び、華やかだったものの、シャッターが下りた店舗が増えて久しい銀座通りに、最近、変化が現れているという。
「これまで見かけなかった若い人や、自分の世界をもった感じの人の姿を見かけるようになりました」
そう話すのは鹿沼市都市計画課の山本和弘さんだ。吸引力となっているのは、銀座通り沿いに2022(令和4)年にオープンした、まちづくりの拠点「kanuma commons」(以下、コモンズ)。歴史あるビルの一角をURが借りて、地元で事業を営む人たちが鹿沼をよりよくするために集まって組成した「鹿沼銀座エリアリノベーション共同体」と共に運営するスペースだ。
1階は小商いのチャレンジを応援する貸店舗スペース、2階は会員制(25歳以下は無料)のフリースペースという形態は変わらないが、人のつながりや活動が広がっている。平日は学校帰りに勉強する学生の姿もあり、週末はマルシェやオペラコンサート、勉強会などジャンルも規模もさまざまなイベントが開かれている。また、学生会員が始めたDIY部で蔵を掃除したりコモンズの壁に断熱材を詰めるなど、建物の課題を自ら解決してきた。キャンドル部やプレゼン部なども誕生し、部活動も盛んだ。




コモンズの1階では昨年5月から「銀座コーヒー」が営業中。こだわりのオーガニックメニューを提供するこのカフェを営むのは、熊本から移住した20代のカップルだ。店主の今村 暖(だん)さんは、祖父のこんにゃくの仕事を引き継ぐために、23年秋に鹿沼に来て、しばらくはほぼ孤立状態だったという。
「こんにゃくの仕事が一段落して、まちに出てみたのですが、誰も歩いてなくて。しばらくして、コモンズに貸店舗スペースがあることを知って、すぐにカフェをやると決めました。自分たちで人を探して会いに行くより、ここに人を呼んじゃおうと思ったんです」
それからの動きは早かった。力を貸したのは、コモンズのメンバーだ。事業計画や収支計画作成までサポートした会計士もいれば、テイクアウトカウンターの制作にはDIY部が奮闘した。オープン後はSNSで情報を発信。海外からの人を含め来店客のほとんどが鹿沼に来るのは初めてだという。
「銀座コーヒーの価値を認めて、コーヒーを飲むために鹿沼にやって来る人がいる。そんなふうに銀座通り周辺の価値をもっと高めて人を呼べたら、鹿沼市が目指すコンパクトシティのモデル地区になると思います」
そう語る鹿沼市の山本さんは、コモンズができて、行政と民間との距離が縮まったと感じているとのこと。コモンズでは「市の施策や補助制度などを説明する会」や、「若手社員と若手創業者を地域で育てるための勉強会」なども開催している。

物件の相談も増加 URも古民家を取得

移住者を受け入れ、若者の挑戦を応援する、これは鹿沼では自然なことなのだろうか。鹿沼銀座エリアリノベーション共同体の鷹羽(たかのは)知子さんが答えてくれた。
「京都から日光へ続く例幣使(れいへいし)街道沿いの宿場町だったことや、林業が盛んで木工職人が多く、祭り好きな人が多いこともあり、鹿沼には外からの人を受け入れる土壌があるのかもしれません。URさんとご縁があって鹿沼市との協定が結ばれてから、三位一体といいますか、公民の連携がしやすくなりました。若手を育て、移住者を受け入れることで、他にはない個性のあるまちになっていく、いい感触があります」
まちの変化に伴い、空き家の所有者や出店希望者からの物件の相談も増え始めた。URも銀座通り沿いの古民家を取得。広がりつつあるリノベーションまちづくりの流れを、さらに加速させるための活用を検討中だ。
「歴史的資源を守り、民間投資を誘発するための取得です。こうした物件を民間事業者が活用していくことを、市も後押しする機運が高まるなか、事業の立ち上がりをURが支援しています」
URの有馬明日香が説明する。公民の橋渡し、連携の仕組みづくりという役割を通じて、URは鹿沼のまちづくりをさらなるステージに進めていく。





【妹尾和子=文、菅野健児=撮影】
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