【特集】古さが魅力に! 地域の価値を再発見(長野県小諸市)
浅間山の南麓に位置し、小諸城址懐古園をはじめ歴史文化が残る小諸市は、
ここ数年で移住者や、空き家を改装して店舗にする人が急増。
イベントも頻繁に開かれ、まちが活気づいている。
移住者が教えてくれたまちの魅力

小諸のまちが、いま脚光を浴びている。移住者が増え、この5年間でカフェや家具店など空き家を改装した店舗が50店もオープンしているのだ。また、小諸駅近くに2021(令和3)年にできた「まちタネ広場」では、春から秋にかけて毎週末のように珈琲やワインにちなんだマルシェやスポーツ体験など、さまざまなイベントが市内外の主催者によって開かれ、大勢の人が集まる。いずれもコロナ禍前には考えられなかった状況だと地元の人は口を揃える。いったい何が起こっているのだろうか。
「コロナ禍前に関東で実施したアンケートで、小諸市の認知度が20代で非常に低くて。このままでは誰も知らない、誰も訪れないまちになるという危機感がありました」
そう説明するのは、こもろ観光局まちづくり支援室室長の五十嵐均さん。小諸といえば島崎藤村のゆかりの地。そんな認識があるのは40代以上の人なのだという。そこで小諸市は、Ⅴチューバー(バーチャルユーチューバー)と組んだり、屋外での写真展示イベントを開催したり、新たな切り口での観光PRに着手。そうした取り組みの効果に加え、移住してきた芸能人が小諸の魅力をSNSで積極的に発信したこともあり、若年層の来訪が増加した。
一方、小諸駅周辺地域で公民共創のまちづくりをサポートするURは、こもろ・まちたねプロジェクト連絡会議の一員として、まちタネ広場の整備や駅前広場再編に向けた社会実験等に関わっている。
「社会実験を通して自分たちの思い込みが間違っていたことに気づかされました」と話すのは、北国街道沿いで「そば蔵 丁子庵」を営む依田利宣さんだ。
「URさんが実験結果をデータで示してくれて。懐古園や小諸城大手門まで来ている人が、その先のまちなかには足を運んでいないこと、大手門に来るのは関東の人と思っていたら、実は佐久や上田など近隣の人が多い、といったことが数字で明確になったんです」
そこから市と観光局、民間、URの連携による、来訪者にまちなかの回遊を促すにはどうすべきかの話し合いが加速したという。移住者が増えていることも後押しした。
「小諸は新幹線が通らなかったこともあり、一時期衰退したまちなんです。市民は落ち込み、開発もされず、古い建物が残っています。我々が古くてどうしようもないと思っていたところを、移住者や若い人たちが、それが魅力的だ、かっこいいと言ってくれて。外の人たちが小諸の価値を見出してくれました」と依田さん。
とはいえ、見ず知らずの人に家を貸すのに抵抗のある人も多いはずだが、そこは行政が積極的にサポート。市職員の有志らが立ち上げた「おしゃれ田舎プロジェクト」メンバーが起業したい人と大家さんをつなぐなど、仲間づくりもサポートしながら歴史的資源を活かしたまちづくりをもり立ててきた。










旧家をまちの活性化の拠点に
その波に乗るように、昨年、URはまちタネ広場に隣接する、明治期に建てられた歴史ある家屋を取得した。
「まちが盛り上がっているこの機会に、大手門公園一体の活用に資するよう、まちの活性化の拠点とするための場として取得しました」
とURの大岡奏子は説明する。取得後間もなく、運営事業者を公募し、活用の準備を進めている。この家で生まれ育ち、今は近隣の市で暮らす市川八寿子さんは、家族の思い入れがある家を手放す決意について……。
「URさんが市とまちタネ広場を作ってくださって、たくさんの人が集まり、駅や懐古園から大手門へのよい動線になりました。母が高齢になり家の維持も難しくなり、URさんとの出会いがとてもよかったので、家屋も有効活用していただけないかとご相談しました。使えるところは残してくださると聞いて喜んでいます」
大手門の隣接地にはカフェもオープンした。こちらは丁子庵の依田さんが、「大手門からまちなかへ人を導くハブになれたら」との思いで旧家を改装して始めた店だ。
移住者だけでなく、地元の人からも空き家を再生させる動きが広がっている小諸。まちの財産を生かしながら、未来につなぐための挑戦が続くこのまちで感じたのは、出会った人々の「小諸愛」の深さ。
「まちが元気になると、店の売上もあがるんです」。そんな地元の人の言葉も印象に残る探訪だった。


【妹尾和子=文、菅野健児=撮影】
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