【特集】公共交通と歩行者中心のコンパクトシティへ(鳥取県米子市)
かつて山陰の商都として栄えた米子市。
公共交通を生かした歩行者にやさしいまちづくりを通して、
中心市街地の活性化を図ろうという活動を、URは側面から支援している。
公共交通を利用して地元を再発見
昨年11月10日、米子市の中心部は2つのイベントが開催され、たくさんの人でにぎわっていた。米子駅近くにあるコンベンションセンターでは、「第3回よなご公共交通ふれあいフェスタ」が開かれ、多目的ホールに集合したバスやタクシーなどの実物に、子どもたちは大喜び。地元高校生と伊木隆司米子市長、大会実行副委員長とのトークセッションも開催され、「使いたくなる公共交通とは?」をテーマに、高校生たちが活発に市長と意見を交換していた。
駅前通りでは実証実験「YONAGO STREET WALK!!」を実施。車道に2カ所、市民がくつろげるスポットが作られた。駅に近い所は「だんだんステーション」と名付け、木製のデッキを設置。フードやドリンクの出店があり、通りを眺めながら市民たちが秋のひと時を満喫。反対車線には「だんだんラボ」と名付けた人工芝のエリアが出現。ジャズの生演奏を聴きながら、親子連れやカップルが思い思いに過ごしていた。
ほかにもグリーンスローモビリティの体験乗車や、遊覧船の運航があり、市内の公共バスは終日無料。この日は市民の皆さんが自転車や公共交通を利用して、あらためて米子市中心部に目を向ける一日となった。






妄想のまちを現実のものにする
「YONAGO STREET WALK!!」は米子市が主催、URと米子商工会議所青年部などが協力して実施された。米子市総合政策部課長の相野秀樹さんに、米子市が抱える課題について伺った。
「米子市はコンパクトなまちで、バスや鉄道など公共交通網が充実しています。ところが公共交通を利用する人は少なく、買い物客は車を使って郊外店舗に流れ、中心市街地の空洞化が進んでしまいました。市では、まちの中心部を車中心から公共交通と歩行者中心の空間に転換し、『歩いて楽しいまちづくり』を目指しており、今日のイベントはそのための実証実験という位置づけです」
人々が車を降りてまちを歩き、店に立ち寄り、そこに長くとどまれば、まちにはにぎわいが生まれる。今日の実験は、中心市街地に人々が集まるための空間と仕掛けを作り、市民の皆さんの反応を見ることが目的のひとつだった。
市民の側から動きを起こすのは、米子のまちの活性化のために何かしたいと活動する㈱ヨナゴデザインの4人。米子商工会議所青年部で活動を共にした彼らは、2022(令和4)年にURが声がけして立ち上げた仮称「妄想会議」のメンバーだ。これは「将来まちがこうなったらいいな」という姿を妄想して自由に発言する会議。この日の遊覧船の運航やシェアサイクルによるツアーは、この妄想会議から出てきたアイデアだ。
「今日は予想以上に多くの人々が外で過ごされていて、皆さんこういう空間を望んでいるんだなと、手応えを感じました」とヨナゴデザインの下田由美さん。
「URの方が外部の目で指摘してくださることで、米子のよさを再認識することが多々ありました。そのひとつが、遊覧船が走る川の存在。市内の中心部まで船が入れるのはとても魅力的で、観光だけでなく、市民の足としても有効活用できるのではないかと思っています」と話すのは、ヨナゴデザインの大丸修二さんだ。
米子市の相野さんも「車の通行への影響が思いのほか少なく、この取り組みに可能性を感じました」と満足の表情だ。
妄想のまちの姿が、少しずつかたちをとり始めている。担当するURの吉田英雅は、「妄想から、今日のようにアクションを起こして、一歩踏み出せるところまで来ました。今日のイベントの結果を次につなげながら、URは皆さんが軽やかに次の一歩を踏み出すお手伝いをしていきます」と目を細める。
けっして妄想では終わらせない。メンバーのまなざしは、しっかりと米子の未来を見据えている。


【武田ちよこ=文、菅野健児=撮影】
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