【特集】20年先を見据えた中心市街地のまちづくり(三重県津市)
三重県の県庁所在地である津市。
古くは城下町、伊勢神宮への参宮街道として発展してきた
歴史あるまちの中心地、大門・丸之内地区で新たな動きが進んでいる。
お城前公園が寛ぎの飲食スペースに

津市の中心市街地で進められている「大門・丸之内地区のまちづくり」。その取り組みの一環として、津城跡のお膝元で「ふらっと大門・丸之内@お城前公園」という公園空間活用実験が行われていると聞いて、昨年11月の平日にお城前公園を訪れた。キッチンカーや出店ブースが並び、芝生広場でのんびり飲食を楽しむ人々や、ランチを買い求める近隣のオフィスワーカーの姿があった。津市の実家に帰省中で親子3代で訪れたという女性は「まちなかの人気店が集まっているので、ここで一度に購入できてありがたい」と話していた。



異なる特性をもつエリアが集結
「大門・丸之内地区のまちづくり」の大きな特徴は、特性の異なる地域が集まり、関係者が多岐にわたることだ。対象エリアは、三重県を南北につなぐ国道23号と、通称フェニックス通りの交差点(三重会館前)を中心とした半径約500メートルに及ぶ約58ha。交差点の東側には津観音や飲み屋街、伊勢神宮への参宮街道として発展してきた商店街がある。一方、西側には津城跡やお城前公園、市役所があり、百五銀行など地元を代表する企業ビルが並ぶ。歴史も課題も異なるエリアが集まっているのだ。
津市都市計画部で大門・丸之内まちづくりを担当する副参事の酒井亮さんによれば、戦後にぎわっていたこの辺りが変わり始めたのは、郊外に大規模商業施設ができてから。特に平成に入ってからが顕著だという。
「徐々に中心市街地の衰退が始まりました。国道の西側は平成20年代にオフィスビルが次々建て替えられて集約・再編が進んだ一方で、東側の津観音に向かう大門大通り商店街沿道は空き家、空き店舗が目立つようになりました」
そこで、地域の再生に向けた取り組みが2021(令和3)年からスタートし、23年3月にはエリアプラットフォーム「大門・丸之内 未来のまちづくり」を組織。そして、(1)人が集い、交流、活動できるまち(2)楽しく歩いて回遊できるまち(3)エリア価値の高いまち(4)魅力情報が発信されるまち(5)持続可能なまち、を目標に掲げる「津市大門・丸之内地区未来ビジョン」が策定された。
「従来、このようなビジョン策定は行政が担ってきましたが、今回は計画段階から官民連携で進めました」と津市の酒井さん。複数の自治会や商工団体、商店街をはじめ市民や企業、行政など、エリアプラットフォームの参加メンバーは総勢80名近くに及ぶ。
URは未来ビジョンの策定やエリアプラットフォームにオブザーバーとして参加している。
「これほど、いろいろなステークホルダーが参加し、協力できているのは、官民それぞれが役割りを確認し、自分ごととして取り組んでいるからだと思います。専門家の講演会の開催やシェアサイクル、社会実験の実施サポートとその効果・検証など、今後もURがもつ知見やネットワークを通じて支援していきたいです」とURの深津俊介は話す。

社会実験の結果をハード整備に生かす
23年には大門と丸之内でそれぞれ道路空間活用実験を行った。居心地のよい空間の演出に取り組み、通行量の大幅増や、来場者、出店者の満足度が高かったことに手応えを感じて、24年のお城前公園での公園空間活用実験につながった。
「人の流れや空間づくりを今回の公園空間活用実験でしっかり検証して、今後のハード整備につなげていける社会実験にしたいです。今回は実店舗をもたない人の出店も多くありました。一人でも多くの人にこの地域の魅力を知っていただきたい。そして実店舗の誘致や出店につながったらうれしいです」
そんな思いを語るのは、公園空間活用チームのリーダー金峰知彦さん。津市大門に店舗を構えるDarts&Dinning Bar FIXの代表でもある。一方、津市の酒井さんは今の思いを次のように語る。
「本格的に動き出して2年、いい取り組みになっていると思います。まちの姿がどう変わったか見えないと言われることもありますが、関係者の意向をうかがいながら、ひとつずつ進めていきます」
さまざまな課題に官民が連携しながら、丁寧に着実に、20年先を見据えたまちづくりが進んでいる。




【妹尾和子=文、菅野健児=撮影】
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