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【特集】薬剤師の卵たちが高齢者を元気に!堤団地、宝台団地(福岡県福岡市)

  • URPRESS 2025 vol.83 UR都市機構の情報誌 [ユーアールプレス]

福岡市内の4団地では、大学の薬学部と連携して、健康イベントや学生との交流会が定期的に行われている。
若い力が高齢者によい刺激を与える一方、学生たちも気づきを得ている。

薬学部2年生が全員団地にやってくる

堤団地の集会所で行われた「お月見飾りづくり」が無事終了。参加した団地の皆さんと、福岡大学の学生や教員たちで記念撮影。

9月11日、福岡市にある2つの団地で、福岡大学薬学部の学生との交流イベントが開かれた。

堤団地集会所では「お月見飾りづくり」に団地に住む11人の女性たちが参加。薬学部2年の学生たちは、参加者を4つのテーブルに誘い、おしゃべりを楽しみながらお月見飾りづくりに取り組んだ。

堤団地に近接する宝台団地で行われたのは、「けんこう体操&おしゃべり会」。こちらには団地に住む男性5人、女性2人が参加し、学生たちとブレパサイズダンスという健康体操を行い、その後はテーブルに分かれておしゃべりをしながらトランプで楽しんだ。

これらは今年度から始まった福岡大学薬学部2年生の必修課程「早期臨床体験Ⅱ」の1コマ。年間5回、堤団地、宝台団地をはじめとする福岡市内のURの4つの団地で行われ、学生たちは必ずどこかの団地での交流会に準備段階から参加する。

団地の参加者には高齢者が多いが、学生たちは上手にコミュニケーションをとっているように見えた。

「私は早口なので、大きな声でゆっくり、はっきり話すように心がけました」と話すのは、2年生の本多佑凪(ゆうな)さん。

「参加して感じたのは、相手の話を聞く傾聴力の大切さです。最初は自分も相手も緊張していて、話が盛り上がりませんでしたが、相手の話をしっかり聞いていると、いろいろ話してくれるようになりました。また、受け取った薬の内容がわからず自分で調べたと話す方がいて、薬が数種類あるときは、一つひとつに、これはどういう薬なのかを書き込むべきだな、という気づきがありました」

こう話す学生を前に、担当する福岡大学薬学部の冨永宏治准教授は「まさにそれを求めていたのです」とうなずいた。

「一般の方が感じていることを知り、それをどう自分に取り込んでいくのかを考える。この早期臨床体験の目的は、そのきっかけをつくることにあるのです」

「お月見飾りづくり」では準備や受付も学生が担当。受付すると、すぐに別の学生がテーブルに案内していた。
作り方を説明しながら、おしゃべりの花が咲くテーブル。
三方にお団子を載せて、かわいいお月見飾りのできあがり。
宝台団地の集会所では、モニターに映るインストラクターの動きに合わせ、脳を活性化するブレパサイズダンスに取り組んだ。
体操のあとは、トランプを楽しんだ。
学生と一緒に折り紙をしている写真
学生たちは参加者とのおしゃべりから、相手の話を聞く傾聴力の大切さを感じていった。
学生と折り紙をしている写真

学生には気づきが高齢者には笑顔が

同大薬学部とURの縁は、3年前にさかのぼる。宝台団地の近くにある2つの薬局に、団地に住む高齢者、特に一人暮らしの高齢者が抱える問題を未然に防ぐ取り組みができないか、と団地自治会から相談があり、そこからURと福岡大学薬学部、2つの薬局が話し合って生まれたのが「宝台健康アカデミー」だ。

その目的は、団地に住む高齢者との交流の場をつくること。テーマを「健康」に設定し、薬学部の学生もアテンドに加わって、健康講話や身体測定などの健康チェック、健康や薬の相談などを定期的に行っている。

この「宝台健康アカデミー」のアシスタントを経験した薬学部5年の島田菜々海さんは、「最初は参加される方との共通の話題が思いつかず、何を話したらいいのかわかりませんでした。でも、食事はどうされていますか? など生活のことを伺えば、それをきっかけにいろいろ話してくれることがわかりました」と振り返る。

同じく5年生の土工朝沙妃(どこうあさひ)さんも「患者の皆さんが相談したいことは、薬のことだけではないので、もっと広く健康について学ぶ必要があると思うようになりました」と教えてくれた。

冨永先生も「薬剤師に大切なのは、患者さんの生活の背景に気づくこと。ですから学生時代に一般の方たちの生活の場に近づく体験は、とても貴重です。こういう体験の場を提供してくださるURさんに感謝しています」という。

UR九州支社でこの取り組みを担当する大野真由美は、「こちらこそ皆さんと一緒に取り組むことで、UR単独で行うよりもイベントの幅が広がり、参加者にも喜んでいただけています」と話す。

「学生が参加するイベントでは、参加者から『学生と話すのは本当に楽しくて元気になる』といった感想をいただきます。普段接する機会の少ない学生と交流できるイベントが、ご高齢の方の外出機会の創出や日々の暮らしの刺激になるのが理想です。それが学生にとってもプラスになる、そんな関係になっていければと思います」

目下の課題は、参加者をどう広げるか。一度でも参加すれば、気に入ってリピーターになる方が多いので、そこから口コミで広がることに期待を寄せている。

お話を伺った皆さん。右から、福岡大学薬学部5年の島田さん、同5年の土工さん、薬剤師であり薬学博士でもある冨永准教授、2年生の本多さん、URの大野。
全30棟、約900世帯が住む堤団地は、博多や天神までバスで簡単にアクセスできる立地。

【武田ちよこ=文、青木 登=撮影】


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