【特集】団地育ちのエビを交流の求心力に 新多聞団地(兵庫県神戸市)
全国のUR団地の中で唯一、エビの陸上養殖に挑戦している新多聞(しんたもん)団地。
今年の夏休みには、小学生たちが養殖の仕事を体験しにやってきた。
団地育ちのエビを、世代間交流を促すきっかけにしようという挑戦が続けられている。
陸上養殖の現場を小学生が体験
 本日の体験に参加した小学生たちと記念撮影。後列右から、水槽の管理を担当する割石さん、URの太田優里、水野真希、吉村成翔、廣田将也、陸上養殖を担当する白井。
本日の体験に参加した小学生たちと記念撮影。後列右から、水槽の管理を担当する割石さん、URの太田優里、水野真希、吉村成翔、廣田将也、陸上養殖を担当する白井。7月22日、神戸市の新多聞団地集会所に、小学生と保護者たちが集まってきた。URが行う陸上養殖の体験プログラムに参加するメンバーだ。これは「こどもわーくin神戸2025」((一社)地域みらい創造センター主催、神戸市共催)の取り組みとして実施。「こどもわーくin神戸」は、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環で、子どもたちが神戸の海に関わる仕事を体験するイベントだ。
このなかでURの陸上養殖は、ちょっと異色だ。保護者からも「この団地は知っていましたが、まさかここでURさんがエビの養殖をしているなんて、初めて知りました」という驚きの声が多く聞かれた。
URが新多聞団地でエビや魚の陸上養殖の共同研究を始めたのは2022年(※本誌73号で紹介)。団地の元診療所の建物を利用して、人工海水が循環する2~3メートル四方の水槽を設置。完全閉鎖循環型陸上養殖の手法で、当初はヒラメやカワハギ、現在では主にバナメイエビの養殖に取り組んでいる。
※【団地最前線 SPECIAL】新たな団地の魅力創出に魚の養殖、始めました!新多聞団地(兵庫県神戸市)
 まず団地集会所で座学。陸上養殖について学んだ。
まず団地集会所で座学。陸上養殖について学んだ。 団地の診療所だった建物の1階が養殖の現場。この水槽の中でバナメイエビが育っている。
団地の診療所だった建物の1階が養殖の現場。この水槽の中でバナメイエビが育っている。
収穫したエビをカフェに買ってもらう
この日の「陸上養殖プログラム」は、まずURがなぜ陸上養殖に挑戦するのか、そのねらいや方法などを集会所で学んでから、実際の養殖現場へ移動。管理を担当する割石(わりいし)博明さんに教わりながら、子どもたちは水槽からエビの脱皮殻をすくいとり、餌やりを体験。
作業が終わると、再び集会所に戻り、第二のミッション。ここでとれたエビを、団地商店街にあるコミュニティーカフェ「ちーさん家」に買ってもらうための提案書の作成だ。子どもたちは分担しながら、これまで学習した養殖エビのセールスポイントを用紙に書き込んでいく。最後に、営業用の名刺をもらい、全員で提案書と名刺を持って、お店に売り込みに行くのだ。
その前に、まずは収穫作業。再び養殖場に向かい、食べごろに育ったバナメイエビを網ですくう。エビフライが大好物という3年生は、エビが飛び跳ねるのに驚いた様子。生き物のパワーに少々たじろぎながらも、全員で無事に収穫を完了。トロ箱に詰めたら台車に載せて、団地商店街の「ちーさん家」まで運んでいく。
店ではオーナーの大西智恵子さんが出迎えてくれた。一人ずつ、まず名刺を差し出してあいさつしてから、提案書を見せてエビをアピール。その結果、すべてのエビをお店で買ってもらえることになった。
無事に任務を終えた子どもたち。最後は「ちーさん家」特製のお弁当が待っていた。もちろんおかずは団地で育った大きなエビフライ。新鮮なエビは、頭からしっぽまでおいしさが詰まっていた。
 この建物が養殖場だ。
この建物が養殖場だ。 生きたエビをすくいとるのは、なかなか難しい。子どもたちは真剣だ。
生きたエビをすくいとるのは、なかなか難しい。子どもたちは真剣だ。 「ちーさん家」の大西さんと、1人ひとり名刺交換してから、エビのよさをアピールしてセールス。
「ちーさん家」の大西さんと、1人ひとり名刺交換してから、エビのよさをアピールしてセールス。 「ちーさん家」にエビを買ってもらう交渉に行く前に、URのスタッフと名刺交換の練習をした。
「ちーさん家」にエビを買ってもらう交渉に行く前に、URのスタッフと名刺交換の練習をした。団地育ちのエビで地域を盛り上げたい
「ちーさん家」の大西さんは、この団地で生まれ育った。自身が子育てするようになったとき、「子どもを育てるにはここがいい」と団地に戻り、コミュニティーカフェを開いたという。
団地で育ったエビは、ちーさん家に定期的に供給され、お店では予約制でちらし寿司やエビフライ、海鮮パスタなどにしてお客さんに出している。
「とにかく新鮮ですし、どれも好評です」と大西さん。「店のお客さんは、この団地が好きな人ばかり。養殖が軌道にのって、新多聞団地が有名になるといいな、と応援してくれています」
エビの管理を任されている割石さんは、近隣に住んでいる。定年退職後、地域に貢献できればと週3回、養殖場で水槽の確認や自動給餌機への餌の補給などを行っている。
「ここでは稚エビを水槽に入れて成魚に育てる中間育成を行っていますが、課題は安定供給ですね。バナメイエビはこれまで神戸市の阪急百貨店で何度か販売したことがあり、団地の方々や子どもたち向けの見学会も開催。NHKが取材に来るなどメディアにも取り上げられ、少しずつ認知度が上がってきました」と割石さん。
URの数ある団地の中で、陸上養殖を行っているのはここだけ。「だから面白い」と話すのはURの白井 伸だ。
「団地で行う陸上養殖は、持続可能なまちづくりのためのひとつの試みです。ここでエビを育てることが、団地ににぎわいを生み出し、子どもから高齢者まで多様な世代が暮らし続けられるまちになればと考えています」
それを聞いた大西さんが、団地の商店街で「エビ祭り」ができないかと提案した。「エビすくいや、エビの串焼きなんかいいですよね」と盛り上がる。これぞ「地産地消」ならぬ、「団地産団地消」。養殖エビが笑顔の花を咲かせるのを期待したい。
 「こんな大きなエビフライ、食べたことない」と子どもたちが大喜びした本日のお弁当。
「こんな大きなエビフライ、食べたことない」と子どもたちが大喜びした本日のお弁当。 「小学校まで車が通らない遊歩道だけで行けるんです。これが団地のよさ」と話す大西さん。
「小学校まで車が通らない遊歩道だけで行けるんです。これが団地のよさ」と話す大西さん。 エビフライを思い切りほおばる、おいしい!
エビフライを思い切りほおばる、おいしい!【武田ちよこ=文、菅野健児=撮影】
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