【団地最前線 SPECIAL】新たな団地の魅力創出に魚の養殖、始めました!新多聞団地(兵庫県神戸市)
新たな団地の魅力創出に魚の養殖、始めました!
団地の建物が、魚たちの養殖場に?
そんなユニークな研究を始めたのが、神戸市の新多聞(しんたもん)団地だ。
だが、そもそも団地で魚の養殖なんて、できるのだろうか?
団地活用の新たな一手 陸上養殖
「陸上養殖」という言葉を聞いたことがあるだろうか。魚介類の養殖というと、海で行う海面養殖を思い浮かべる人が多いが、最近では海だけでなく、陸上に人工的につくった環境下で行う養殖が増えているという。それが陸上養殖だ。
陸上養殖にはかけ流し式と閉鎖循環式があり、閉鎖循環式は排水が少なく、どんな場所でも行うことができる。例えば廃校になった学校の教室が養殖場になっている例もある。
そこに新たな養殖場が誕生した。なんとURが管理する団地で、魚たちの養殖が始まっているという。さっそく現場である神戸市の新多聞団地を訪ねると、診療所として使われていた2階建ての建物の1階が、件(くだん)の養殖場になっていた。
屋内には常に人工海水が循環する2~3メートル四方の水槽が5基置かれ、そのうち3基の水槽でバナメイエビとヒラメ、カワハギの稚魚が育っている。
いったいなぜ、魚の養殖を?このユニークな取り組みを担当するURの長野光朗に単刀直入に聞いてみた。「持続可能で活力あるまちづくりを目指すというミッションの実現に向け、URでは地域の特性に応じて、既存団地の建物や屋外空間の活用を進めています。そのアイデアを検討するなかであがってきたのが、陸上養殖だったのです」
団地育ちの魚でにぎわいを生む
昨年12月、完全閉鎖循環型陸上養殖のノウハウを持つウイルステージとUR、URの団地管理を手掛けるJS(日本総合住生活)の3者によって、新多聞団地での陸上養殖の共同研究が始まった。この研究は2024(令和6)年3月まで続けられる予定で、「その間に、陸上養殖を団地のにぎわいづくりや、交流の場づくり、地域の人の就業の場づくりなどにつなげていくことができるか検討していきます」と長野が説明する。
育った魚やエビを、例えば団地のイベントで活用する、団地育ちの魚として地域のお店で販売する、子どもたちに養殖の現場を見てもらい学習の場にするなど、活用の可能性はさまざまある。それらを今後、共同研究のなかで検討していくという。
安心安全な魚を育て地域を活性化
養殖場の水槽は24時間暗視カメラでチェックされており、給餌や水温管理はIoTを使い自動で行っている。完全閉鎖型なので換水の必要がなく、排水が出ない。まさに団地に合った養殖施設で、餌の補充や、死んだ魚の処理などの作業を週2回行うため、近隣の高齢者を雇用している。
養殖場の管理を担当するJSの松本直樹はこう話す。
「団地環境整備の仕事を長年担当してきましたが、まさか魚の養殖場が加わるとは、想像もしませんでした(笑)。でも、国内の漁獲量減少や世界的な人口増による食糧難等の社会課題を考えると、陸上養殖の取り組みは課題解決の一端となり得る意義のある事業です。ここで育てた魚やエビを使って地産地消や特産品の創出を興せれば、地域活性化につながるのではないでしょうか」
完全閉鎖循環型陸上養殖のノウハウを持つウイルステージ代表取締役・大谷洋士さんは、廃校を使った養殖などを手掛けているが、団地は初めて。
「人が快適に住める建物は、魚たちにも快適で、ストレスなく安定して育ちます。ですから団地は、養殖に向いていると思います。いつかエビ棟やヒラメ棟など、団地の1棟が丸ごと養殖場になる、ということがあるかもしれませんよ(笑)。私どもの養殖方法は、薬剤などを使わない完全オーガニックで安全安心な魚介類を育てることができるので、将来的にはまちなかに養殖漁業の産業拠点をつくることもできるのではないかと考えています」
水槽の魚たちに熱い視線を送りながら、URの長野がこう締めくくった。
「魚とエビが育ったときに、どんな仕掛けをするか、新たな団地の魅力を生み出すのが今から楽しみです」
【武田ちよこ=文、菅野健児=撮影】
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