【団地最前線5】川口芝園団地(埼玉県川口市)

人と人との接点を増やして 多文化共生の先進地へ
東京への通勤が便利な川口芝園団地は、1990年代後半から外国の方が
多く住むようになった。文化や生活習慣の違いの理解を進め、
今は多文化共生の先進地として注目されるようになっている。
あそび場と子ども食堂に集う人々
昨年12月の土曜日、川口芝園団地の集会所には、たくさんの子どもたちの声が響いていた。この日は、子ども食堂「世界料理厨房(キッチン)」と「あそび場」が、隣同士の部屋で開かれていた。運営するのは、世界料理厨房のメンバーと、川口こども食堂、学生たちのボランティアグループである芝園かけはしプロジェクト、それにURの職員たちだ。
子ども食堂「世界料理厨房」は昨年4回開かれた。運営を手伝う川口こども食堂代表の佐藤匡史(まさよし)さんは、「URさんから、団地に住む高齢の日本の方と、外国から来た子育て世代の人たちの交流の場をつくれないかという話を伺い、子ども食堂が、それを埋める一つのきっかけになるのでは、という思いで協力しています」と説明する。
団地に住む2人の中国出身の女性が中心になって、毎回団地の人たち数名が調理を担当し、これまでも中国の地方料理を作ったりして好評だという。
「一緒に料理を作り、みんなで食べると、人と人の距離が近づきます。これまでの活動で世界料理厨房は外国の親子にはかなり浸透しましたが、高齢の日本の方がなかなか出て来られない。そこが課題です」と佐藤さんはいう。
今後は、日本の昔の遊びを外国の子どもたちに教えるイベントなどを企画して、高齢の方に手伝ってもらうかたちで参加を促したいと、皆で考えているという。



出会いの機会をつくり知り合いを増やす
世界料理厨房で受け付けを担当していたのは、芝園かけはしプロジェクト代表の圓山王国(まるやまおうこく)さん。同プロジェクトが2015年に誕生したときからの創設メンバーで、都市工学を専攻する大学院生だ。
「団地のコミュニティーづくり、特に外国の方が多い川口芝園団地でのコミュニティーづくりは重要なテーマです。ぼくたちは、住民同士の顔が見える活動の推進と、生活トラブルの解消を2つの柱に活動を進めています」
コロナ禍前には、多文化多世代の人たちが集える交流イベントを、月1回のペースで開いてきた。クリスマスやハロウィンなど季節のイベントをはじめ、各国の料理を持ち寄る食事会や、外国語を習う教室などで、住んでいる人たちも企画や運営にかかわるようにしながら、さまざまな人が出会う場をつくってきた。
生活トラブルに関しては、ゴミの出し方などを多言語で説明するパンフレットを作成して、URの管理サービス事務所で配布した。このパンフレットを作るときには日本と外国双方の方に集まってもらい、内容や表現を話し合ったという。
「そのとき日本の方から、中国料理の香辛料のにおいが気になる、という意見が出たんですが、日本人が焼く魚のにおいだって、外国の人には気になるのかもしれないという意見が出ました。話し合う場を持つことで、自分の立場を客観視し、相手の立場になって考えることができるようになったのです」と圓山さん。
「このプロジェクトの役割は、自然には交わりにくい人たちが、交われる機会をつくること。団地自治会や子ども食堂、URさんとも連携しながら、イベントやワークショップなどいろいろな人が参加できる機会を少しずつ増やして、顔見知りになる場をつくっています」と話す。




共存と共生で多文化共生を目指す
芝園かけはしプロジェクトの設立を働きかけた芝園団地自治会事務局長の岡﨑広樹さんは、「学生さんたちは、高齢の方にとっては孫のような存在で、外国の人とは世代が近く、2者の間をちょうど取り持てる存在です。そんな彼らの活動が日本人と外国人との接点をいくつもつくってきた結果、2022年度には自治会役員に4人の外国出身者が生まれました。もちろん現実の問題はまださまざまありますが、『共存』と『共生』をキーワードに、これからも多世代・多文化の人たちが住みやすい『ゆるやかな共生』を目指していきます」と話している。
URの伊藤公晴は、「この団地にはプレイヤーがたくさんいるので、彼らの活動がいいかたちで進められるよう、URは支援に徹します。多国籍の人たちが住んでいることは、この団地の個性。自分たちも楽しみながら、ゆるやかに支援していきます。継続することが大事ですから」と話してくれた。
帰り際に通った団地の広場では、中国の子どもたちが遊んでいた。明るい笑い声に、この団地の希望が感じられた。

【武田ちよこ=文、菅野健児=撮影】
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