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【団地最前線4】日の里団地(福岡県宗像市)

URPRESS 2022 vol.70 UR都市機構の情報誌 [ユーアールプレス]

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日の里団地 福岡県宗像市

日の里らしさを受け継ぐ
サスティナブルで先駆的なまちづくり

築50年を経た団地の再生で、全国から注目を集める取り組みがある。
メディアでの紹介や視察が相次ぐこの団地が目指すのは、新旧のよさがミックスされた新たなかたちの「サスティナブル・コミュニティ」だ。

クライミングもできる生活利便施設が誕生

注目を集めているのは、福岡市と北九州市の間、宗像市にある日の里団地だ。昭和40年代の開発以来、通勤や通学に便利で、自然も豊かなベッドタウンとして栄えてきた九州最大級の大規模団地だが、50年の時を経て住民の高齢化や建物の老朽化が進み、現在、官民連携による団地再生が進められている。

日の里団地で話題の中心となっているのは、2021(令和3)年5月にオープンした「ひのさと48」。既存の団地住棟を活用した地域の人のための生活利便施設だ。訪れてまず驚いたのは、虹色に彩色された外観や庭に面した広いテラス。クライミング用のホールドが設置された壁面もある。テラスにはテーブルや椅子が置かれ、心地よい空間が広がっている。

内部にはクラフトビールの醸造所やコミュニティーカフェ、DIYスペースのほか、保育園や地域の子どもたちの発達支援施設などがあり、放課後や週末には地元の子どもたちや団地の住民、また県外からも大勢の人が集まってくる。

「ひのさと48」(右端)は日の里団地東街区の端、道路沿いに立つ。庭を挟んで広がる戸建て(64戸)エリアには塀や柵がなく、共有の緑地や広場を設けている。最寄りのJR鹿児島本線・東郷駅から徒歩約15分。また、駅の近くには日の里一丁目団地がある。
団地の住民からは「ひのさと48ができて、子どもたちの姿が見えたり、声が聞こえたりしてうれしい」との声も。
地域の人々の交流の場、子どもたちの遊び場として活用されている「ひのさと48」(左)の庭。右側に広がるのが戸建てエリア。
「ひのさと48」では野菜やホップも育てている。

日の里らしい官民連携の団地再生

「ひのさと48」が建つのは、日の里団地の一部を、住友林業や西部(さいぶ)ガス、東邦レオなど11社でつくる共同企業体にURが譲渡したエリア。2020年3月に宗像市と共同企業体、URで連携協定を締結し、官民連携での団地再生「日の里・宗像モデルプロジェクト」を推進中だ。

「URは日の里団地の団地再生事業においては、地域住民の意向などもふまえ、生活利便のための機能を導入すること、緑豊かな団地環境と調和した整備計画とすることなど、日の里団地だけでなく地域全体の魅力向上への取り組みを公募条件としました」とUR団地マネージャーの得丸史郎は説明する。

譲渡した団地住棟1棟が生活利便施設「ひのさと48」として生まれ変わり、その他の住棟は解体整備されて戸建てエリアに。その結果、従来の日の里団地の住棟と「ひのさと48」の間に戸建て住宅が広がる珍しい配置になっている。

このプロジェクトのコンセプトは「サスティナブル・コミュニティ」だ。

「日の里地区で育まれてきた住民の思いや日の里らしさが、これから関わる人にも受け継がれていくことを目指しています。その意味で、ひのさと48は新たな開発とかつての景色が同居する、日の里に溶け込んだ場所となっていると感じています。プロジェクトが話題になったり、かつて日の里に住んでいた方から問い合わせがあったり、プロジェクトに共感して転入された方がいらっしゃるなど、多くの方に興味をもっていただいていることを実感しています」と宗像市都市再生部都市再生課の内田忠治課長は話す。

宗像市の内田課長。官民連携で新しいかたちの団地再生に挑戦している。
中学生のアイデアから生まれたクライミングウォール。設置費用はクラウドファンディングで。目標額を上回る270万円以上が集まった。近隣の高校の部活動でも使用されている。
日の里団地の再生に取り組むメンバー。後列左から、東邦レオの吉田さん、URの得丸、西部ガスの今長谷さん。前列左からURの真鍋と山田。

地域に必要なものをまずはつくってみる

「ひのさと48」の管理・運営を担っているのは共同企業体に属する西部ガスと東邦レオだ。中心となって活動しているのは、西部ガスまちづくりソリューショングループマネジャー今長谷(いまはせ)大助さんと東邦レオディレクターの吉田啓助さん。強力なタッグで、いろいろな人を巻き込みながら、地域のためにとさまざまなチャレンジを続けている。テラスの椅子やテーブル、日除けのシェード、さらにはクライミングウォールの設置、またバーベキューや花火イベントの開催も地域の人の要望を受けて実現した。URの山田悠介と真鍋皓平は「毎週来るたびに何かが変わっていて楽しみ」と言う。

「地域の方々の圧倒的な信頼を得るために何ができるのかを考え、地域のために必要なものをつくっていくのが僕らの仕事」と話す今長谷さん。吉田さんは「ここに相談すれば、すぐかたちになるよね、という空気感を大事にしています。そして、まずは一度やってみて検討する。その結果、風景が変わっていく。関わる人が増え、企画が出やすい豊かな場にしておくことが大事だと思っています」と。そんなパイオニアの2人が口を揃えるのが、団地との関係性だ。

「この緑豊かな団地の環境があり、団地に住んでいる方が来てくれることで、ひのさと48は存在しています」

秋からは戸建て住宅の入居がスタートし、若いファミリーの住民も増える。「ひのさと48」をにぎわい、情報発信の拠点として、近接する日の里一丁目団地を含め、宗像市と共同企業体、URが一緒になって取り組むミクストコミュニティづくりが、どんなふうに広がり、展開していくのか。多くの期待が寄せられている。

団地住棟を利用した「ひのさと48」。「Co-Doingスペース」やウクレレ工房、有機野菜栽培事業者なども入居。
ひのさと48の「ひのさとブリュワリー」。宗像市特産の大麦の活用にヒントを得てクラフトビールの醸造を始めた。
子どもたちの提案でホップを栽培中。
夕方には売り切れることが多いクラフトビール。地場の果物やコーヒーなどを使った限定フレーバーも人気がある。

【妹尾和子=文、菅野健児=撮影】

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