【団地最前線6】森之宮・森之宮第2団地(大阪府大阪市)
「健康・医療・介護」を体験できるモデルルーム誕生
緑豊かな大阪城公園に隣接し、大阪の中心部へもアクセスしやすい森之宮地域。
この地で団地を中心に、高齢化社会へ向けた先駆的な取り組みが行われている。
自宅で安心して暮らし続けるためのモデルルームも誕生した。
行政、医療機関、大学、URが連携
森之宮第2団地の6号棟を訪ねると、扉に「自宅で安心して暮らす! 『健康・医療・介護』を体験できるモデルルーム」と書かれている住戸があった。
中へ入ると、「転倒予防・介護予防のお部屋」「介護・医療のお部屋」「認知症を知るお部屋」と名づけられた3つの部屋があり、転倒予防のための家具の配置の工夫や便利グッズの紹介、最新の医療機器や福祉器具、認知症の情報などがわかりやすく展示・紹介されている。
URの団地内に昨年12月にオープンしたこのモデルルームは、スマートエイジング・シティの実現に向けた取り組みのひとつで、この地で森之宮病院などを展開する社会医療法人 大道(おおみち)会と、2025(令和7)年に森之宮キャンパスが誕生予定の大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科が監修した。
「スマートエイジング・シティとは、高齢化が進むなか、住民が住み慣れた場所で安心して暮らし続けられるように、健康寿命の延伸や生活の質の向上などを、多様な主体の連携のなかで進めていくまちづくりです」と説明するのは、大阪市城東区役所保健福祉課長の椿谷康夫さん。大阪府・大阪市が提唱していて、森之宮地域はモデル地区に指定されている。
城東区のなかでも高齢化率が高く、単身世帯も多くて住民の孤立化が心配されている森之宮地域。それをふまえ、城東区と森之宮病院、URの3者は2015年に「森之宮地域におけるスマートエイジング・シティの理念をふまえたまちづくりに関する協定」を締結。翌年には「孤立化防止ネットワーク会議」を立ち上げ、健康教室や単身者の見守りなどを行いながら、地域をあげて元気で暮らせる高齢者を増やし、健康寿命を延ばして孤立化を防止する取り組みを行っている。
大阪公立大学も、2年ほど前からオブザーバーとして活動に参加。昨年10月31日には、大阪公立大学、城東区、森之宮病院、URの4者で連携協定が新たに締結された。大学が加わることで最新の研究やICTの活用、多世代の交流などが期待されている。
モデルルームに込められた思い
モデルルームには専門分野の知識や最新の情報が注ぎ込まれている。大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科の樋口由美教授は、事前に団地住民に行ったアンケートの結果もふまえてモデルルームの仕様を考えたという。
「転倒予防・介護予防のお部屋」を担当した同研究科の上田哲也助教は、自宅ですぐに取り入れられるヒントをちりばめるとともに、座ったままできる体操やスマートウォッチを利用しての健康状態の可視化などICTも活用。
「認知症を知るお部屋」には、認知症の人の行動の意味への理解が広まることで、お互いがやさしい気持ちで過ごせるようにという同研究科の横井賀津志教授の思いが込められている。
「介護用品は日々進化していて、5~6年前には不可能だった要介護の方の在宅療養が、今は可能になっています」と話すのは、「介護・医療のお部屋」を監修した大道会の在宅事業部統括管理者の安井学さんだ。モデルルームは在宅療養を支える最新機器の展示場でもある。「退院後の生活を不安に思う方もたくさんいますので、賃貸住宅でも設置できる手すりや器具のことなど、モデルルームでぜひ知って参考にしていただきたいです」と大道会のソーシャルワーカー藤井由記代さんは言う。
多様な人材と環境が揃う地域
「団地を地域の資源として、いつまでも長くいきいきと安心して住んでいただきたいですし、そのためにもモデルルームを通して、介護する人、される人、どちらにもやさしい介護・医療の在り方などを知っていただきたいです」と話すのは、URの杉田恵子だ。森之宮地区に関わるようになって、課題を吸い上げ対応する関係者の連携体制、そして病院から特別養護老人ホームまで団地のまわりに揃っている環境の素晴らしさを実感していると言う。その活動内容や今回お話を聞いた方々の思いはここには書ききれないが、関わる人たちの熱い思いが、地域をあたたかい空気で包んでいることは間違いない。大阪公立大学のキャンパスがオープンしたら、若い人が増えて、まちは変わるだろう。その変化も楽しみだ。森之宮地域の取り組みが広く注目を集める日は、遠くないかもしれない。
【妹尾和子=文、青木 登=撮影】
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