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【特集】お菓子を“かすがい”にまちを元気にしたい 高蔵寺ニュータウン(愛知県春日井市)

  • URPRESS 2025 vol.83 UR都市機構の情報誌 [ユーアールプレス]

2024年6月、春日井製菓(株)とURは「地域連携・協力に関する連携協定」を締結した。
「まちを元気にしたい」という共通の思いのもと、日本三大ニュータウンのひとつ、高蔵寺ニュータウンを舞台に面白いことを始めている。

思い出が詰まった「団地味ラムネ」

関係者の心配をよそに多くの人が集まった「高蔵寺ニュータウン沸く湧くサミット」。

春日井製菓は名古屋市に本社を構え、春日井市などに工場をもつ老舗菓子メーカー。「おかしな実験室」という部署があり、材木をつなぎ止める「鎹(かすがい)」のごとく、お菓子をかすがいに、成果(製菓)を出すべく前例のないことに取り組んでいる。

9月にはURと春日井製菓の協業で、高蔵寺ニュータウンにあるUR賃貸住宅をモチーフにした「団地味ラムネ」なるものが誕生した。ラムネ一粒ずつのパッケージに印刷されているのは、一般の方たちから寄せられた「高蔵寺ニュータウンの幸せな思い出」。その数、300に上る。このラムネはくちどけが良いので、子どもから高齢者まで喉に詰まる心配がない。さらに原材料はエネルギー源でおなじみのぶどう糖。

「ラムネはみんなに優しいんです。みんなの思い出がこのまちを元気にするという思いから生まれた団地味ラムネ。ラムネをつくるのが目的ではなく、人とのつながりをつくるプロジェクトなのです」

笑顔でそう説明してくれたのは、春日井製菓販売(株)おかしな実験室室長の原 智彦さん。ラムネで人とのつながりをつくるとは!?

高蔵寺ニュータウンの幸せな思い出を直接お尋ねする「思い出聴かせて会」を今年1月に開催。書くのは難しくても話すことならできるという人の声を拾った。
これが「団地味ラムネ」。700の応募作の中から300の「幸せな団地の思い出」作品がパッケージに印刷されている。1袋25粒入り。八大アレルゲン不使用だ。
団地味ラムネの写真

多業種がつながって地域に貢献する

URと春日井製菓が協業を始めたのは2023年。春日井製菓が創業95周年を迎えるにあたり、一緒に地元愛知を盛り上げようと他社に呼びかけて、学びのイベント「おかしなサマースクール in 愛知」を企画した。UR中部支社も参加し、団地の空室に夏の思い出を自由に描く「団地の部屋壁芸術祭」を開催。これが大好評で、翌24年には高蔵寺ニュータウンを舞台とした映画「人生フルーツ」の野外上映会を団地内で開催した。

そしてこの夏は高蔵寺ニュータウン外にお住まいの方にもこの地へ来てもらうことを目的に、藤山台団地を舞台に、部屋や屋外スポットを巡りながらの謎解きゲーム「高蔵寺ニャータウン 団地でニャゾ解き大作戦!」を企画。参加者に話を聞くと、「団地に初めて来た」という声が多く、その広さや緑の多さに皆さん驚いていた。

このイベントで汗を流しているのは、同スクールの参加企業メンバーだ。昨年は29社だったが、今年は46社に。昨年参加した人たちが声をかけて仲間を増やしたという。主催者が楽しみながら企画・運営するイベントは、参加者にもその楽しみが伝わる。

「春日井製菓さんは地域に貢献するというしっかりとした考えをお持ちで、あくまで地域の方が主役で自分たちは伴走支援というスタンスも我々と共通しています。そして我々にはない多業種の人とのつながりをお持ちで、それを地域のために活かそうとされている。日頃お付き合いのない企業とつなげていただけてありがたいです」とURの須藤弘臣(ひろおみ)は語る。

一方、春日井製菓の原さんは、「うちの会社の経営理念は『おいしくて、安心して多くの人々に愛され続けるお菓子作り』です。幅広い世代が4万人も住んでいらっしゃる高蔵寺ニュータウンで、お菓子を世代の『かすがい』にしていただき、ゆるやかに人々がつながっていけたら」と話す。

8月9日に高蔵寺ニュータウンの藤山台団地で開催された「おかしなサマースクール in 愛知」の謎解きゲームの参加者。「団地がこんなに広いとは」と驚いていた。
高蔵寺ニュータウンには藤山台団地を含め8つの団地がある。この開けた空間は、土管すべり台のある広場。
謎解きゲームで団地を巡る親子。小学生の姉妹は「団地に来るのは初めてで、楽しい」、お父さんは「謎解きの設問が難しすぎず簡単すぎず絶妙」と。
謎解きイベントのパンフレット。昭和、平成、令和、それぞれの時代に隠された「団地の記憶のピース」を書き込み、集めて進むことで高蔵寺ニュータウンの歴史を知ることができる仕組みになっている。
謎解きイベントの会場のひとつ、リノベーションされた令和の部屋。リノベーションを手がける参加企業の情報も得ることができる。

仲間をつくるにはまずは自分たちが仲間に

左から春日井製菓の原さん、新城さん、URの須藤、池本。原さんは最近、藤山台団地の住民に。「団地に住んでいるというと、いろんな人が遊びに来てくれて楽しいです」。

7月30日には、高蔵寺をよくしたい仕掛け人11名に「この地の今を聞かせて」もらう「高蔵寺ニュータウン沸く湧くサミット」をURと春日井製菓で開催した。当日は定員を超える100人が来場。原さんに押し切られて登壇者の一人となったURの池本誠一は、「とにかく巻き込み力が強いんです」と笑う。打ち合わせなし、台本なし、スライドなしで、原さんが聞き手となって登壇者の話をぐんぐん引き出し、会場は大いに盛り上がった。

サミットの前後に実施した「高蔵寺へのイメージ」のアンケート結果について、春日井製菓おかしな実験室の新城明久さんは「サミット後、『わくわくする』と答えた人が5・17倍に。そして『不安』と答えた人がゼロになったんです」とうれしそうだ。自分の住むまちへの安心と希望がふくらんだ人が増えたのだ。

ラムネで過去(思い出)を聞き、サミットで現在を聞き、次は12月に、未来に向けた話、仲間と描く夢を聞くイベントを予定している。その後は「団地味ラムネ」を活用して人をつなぎ、夢の実現へのフェーズに移行するとのこと。

「孤立している方たちが誰かの夢に寄り添えたり、自分の夢に誰かが乗っかってくれるきっかけになれば。仲間になれば防災や防犯にも絶大な力を発揮しますからね」

そう話す原さんが続けて口にした「地域で仲間づくりをするには、まずは自分たちが仲間にならないと」という言葉も印象に残った。

「池本さんや須藤さんのような熱い気持ちの人たちがURにはいるんです。ときには衝突しながらも、互いの苦しみ、理想にはだかる困難を理解し合うことで、より愛おしくなり、仲間になります」

両者が地域の人たちを大切にしながら仲間づくりに取り組んでいることは、「思い出」の募集の際にWEBでだけでなく、対面で直接聞く機会を設けたり、サミットのチラシに「心を込めて開催しますので」というひと言が添えられていることからも感じられる。人の思いが、人の心を動かすのだ。

高蔵寺ニュータウンの未来に夢を抱く人が着実に増えている。

【妹尾和子=文、菅野健児=撮影】


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