【特集】密集市街地の課題を解消し「燃えない・燃え広がらないまち」へ 豊町・二葉・西大井地区(東京都品川区)
地震による火災危険度などが高かった密集市街地で始まった、防災まちづくり。事業に協力する住民のための賃貸住宅や防災広場など、安全・安心なまちづくりへの取り組みが進行中だ。
建て替えや移転希望の住民の受け皿住宅が誕生
JR横須賀線西大井駅、東急大井町線戸越公園駅、都営浅草線中延駅に囲まれた品川区豊町・二葉・西大井地区。都心間近でありながら、細い道路や路地に沿って昔ながらの個人商店や低層住宅が並ぶ、どこか懐かしい風景が広がるエリアだ。
2022(令和4)年4月。エリアの中心部に新たなランドマークが誕生した。周囲を緑の植栽に囲まれた瀟洒(しょうしゃ)な6階建ての「コンフォール品川西大井」だ。“従前居住者用賃貸住宅”であるこの建物は、災害に強いまちづくりに向け大きな役割を担っている。品川区都市環境部の小川 晋木密整備推進課長がその経緯を説明する。
「この地域は、明治後期からの耕地整理による広い区画がありました。それが関東大震災による都心部からの人口流入で急激に市街地化され、密集市街地が形成されました。そのため、現在でも緊急車両の進入が困難な狭隘な道路や隅切り※のない道路交差部が多く、公園が少ないなどの課題があります。そうした危機感が浮き彫りになったのが02年に東京都が行った地域危険度測定です。豊町5丁目が火災危険度で都内全5073町丁目の第1位、二葉3丁目が総合危険度で第2位という結果が出て、現在実施しているさまざまな防災事業を始めるきっかけとなりました」
以来、06年から順次、老朽建築物の除却、防災生活道路や防災活動広場の整備などを目的とした密集住宅市街地整備促進事業がスタート。老朽建築物の除却や建て替え支援の助成を行う不燃化特区支援事業、延焼遮断帯の形成等への助成を行う都市防災不燃化促進事業を導入。区主導による「燃えない・燃え広がらないまちづくり」が進められてきた。
しかし、事業に協力して古い家を建て替えたり移転したくても、工事期間中の住居や移転先に困る人も多い。そうした人々の受け皿となるのが従前居住者用賃貸住宅だ。慣れ親しんだまちに住みながら安全なまちづくりに協力する住民の生活再建の一助となり、事業のスピードアップと住民の安心感に大きく貢献している。
※角地に建物を建てる際、道路に面している角を切り取り、道路状にすること。道路の交差部の見通しをよくし、通行の安全を確保することが目的。
災害時に役立ち住民が憩う防災広場
「コンフォール品川西大井」の建設・管理を担っているのは、品川区から事業者としての要請を受けたURだ。品川区とURは03年にこの地区のまちづくりに関する協定を締結。安全なまちづくりのパートナーとして、品川区が進める密集市街地における防災性・居住環境の向上を目指した事業実施の調査や調整、技術的支援を行っている。
今回の事業でも、URが培ってきた知見やノウハウが大いに発揮されている。たとえば、「コンフォール品川西大井」が建つ土地のあらましだ。当地区のような密集市街地でまとまった土地を確保するのは困難なため、品川区とURが行ったのは“土地の交換”だ。URは区との協定に基づいて複数の土地を不燃化促進用地として取得。その土地を品川区の所有地と交換。それぞれ、従前居住者用賃貸住宅と、品川区が必要とする防災広場などの事業用地として活用することを決めたのだ。
「区では無接道や狭小、不整形などの用地の取得は難しく、また、用地を取得する場合、手続きにも時間を要します。区に代わってURさんが迅速に用地の先行取得を行ってくださり、事業が大きく促進されています」と小川課長は話す。
現在、「コンフォール品川西大井」の土地との交換地では、品川区が着々と防災広場の整備を進めている。そのうちのひとつが「ゆたかしいのきひろば」だ。緑に囲まれた広場には、子ども用の遊具や健康遊具のほか、かまどベンチやマンホールトイレ、防災倉庫を整備。シンボルツリーの桜も植えられ、地域の防災拠点や地元住民が実施する防災訓練の場として活用されるだけでなく、平時には地域の人の憩いの場ともなっている。
URの鶴川登紀久は「この地域は区画自体がとても広いうえに、住民の方々の生活や状況がそれぞれ違うので、品川区さんと一緒に住民の方に寄り添いながら一歩一歩事業を進めています。従前居住者用賃貸住宅や防災広場ができることで、住民の方々の防災への意識や事業への認知度も着実に上がっています。これからも、防災性の向上というボトムアップと、まちの価値向上というバリューアップを目指して、品川区さんの支援に取り組んでいきたいです」と意欲を語る。
来年度は、新たに2つの防災広場も完成予定。品川区が目指す都市基盤が整備された災害に強いまちづくり、「燃えない・燃え広がらないまち」の実現に向けて、事業は地道に、そして着実に前へと進んでいる。
【阿部民子=文、菅野健児=撮影】
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