【特集】大切なのは、日頃からの「助け」を求め合える関係づくり 花畑(はなはた)団地(東京都足立区)
今年度、管理開始から60周年を迎える花畑団地では、昨年から地区防災計画づくりが進められてきた。それは、いざというときに支え合える関係づくりでもある。
大学生が企画した楽しい防災キャンプ
7月29日の土曜日、花畑団地で「はなはた防災キャンプ(以下、防災キャンプ)」が開かれた。オープニングを飾る和太鼓の勇壮な演奏に引き寄せられてやってきたという人たちを含め、会場の花畑団地東集会所と集会所前広場には、厳しい暑さにもかかわらず、子どもから年配の方まで幅広い年代の人たちの姿があった。
広場に設置された起震車や煙幕ハウス(煙体験テント)で発災体験をしたり、かまどベンチを活用した炊き出しのカレーやキッチンカーでの軽食を楽しんだり……。室内では、防災すごろくや防災クイズ、蜜蝋でのキャンドルづくりなどに多くの人が挑戦。なごやかな時間が流れていた。
防災キャンプの主催は、文教大学花畑団地防災イベント実行委員会だ。2021(令和3)年に花畑団地の隣に開設された文教大学東京あだちキャンパスに在籍する学生が中心となって企画。30名以上の学生がスタッフとして参加し、足立区や自治会の人たちと協力しながら盛り立てていた。
そもそものきっかけは、22年8月にスタートした「花畑ささえあいプロジェクト」。URが事務局となり、地区防災計画づくりを中心としたワークショップを5回開催した。自治会メンバーや地域の人と共にこのプロジェクトに参加していた文教大学国際学部国際観光学科・海津ゆりえ教授のゼミ生有志が、防災キャンプを企画したのだ。
「ワークショップに参加しているうちに、自分たちも何か企画したいと思うようになったのです」とゼミ生の三浦大和(やまと)さんはいう。
策定された地区防災計画の発表会も防災キャンプの中で行われ、三浦さんを含む学生4名が前に出て、ワークショップで学んだことや地域の人と交流できた喜びなどを語った。地区防災計画は、水害時と震災時に分けて、地域の被害想定を示し、日頃の備えや災害対策本部の体制・役割などをまとめている。
助けを求める、求められたら応じる習慣
地区防災計画づくりを始めた背景には、花畑団地でよりよい団地づくり・地域医療福祉拠点化に取り組むなか、浮き彫りになった課題がある。住民へのヒアリングから、「団地に若い世代が少ない」「災害への備えが不安」「地域間連携が希薄になってきている」などの声が寄せられたのだ。そこで……
「防災という皆さんに共通の課題を軸に交流することをきっかけとして、地域関係者でゆるやかな連携体制が構築できたらとの思いがありました」とURの遠田真知子は説明する。
防災士でコミュニティデザイナーでもある「いのちとぶんか社」の葛西優香さんの協力のもと、遠田たちは団地自治会や文教大学をはじめ、地域の保育所や病院、福祉施設、事業所などを訪問して趣旨を説明。1年かけて「花畑ささえあいプロジェクト」の仲間を増やしていった。
阪神淡路大震災と東日本大震災を経験している葛西さんのモットーは、「共助を伝える。共助を創る」。防災で大切なのは「助けを求める」「求められたら応じる」ということを習慣にしておくことだと語る。
「平時からつながっていないと、いざというときに助け合えません。花畑団地は約1600戸あります。住んでいる方の顔が見えにくいのが現状ですが、見えないところにもニーズがありますので、いろいろな価値観をもった人が無理なく参加できるような防災訓練を今後開催したいと考えています」
共助の大切さは、ワークショップを通して、多くの人に共有されている。
「イベントの企画はひとりで作成できても、よりよいかたちで実行するには、人に助けを求める必要があります。ワークショップで人とのつながりができ、話し合いや恐れず助けを求めることの大切さを学んだので、今回のイベントが実現できました」と話す文教大学の三浦さん。学生メンバーのほとんどは、ワークショップで初めて花畑団地を訪れたとのこと。以前は大学と最寄りの谷塚駅(東武スカイツリーライン)の行き来だけだった学生たちが、今では団地自治会が運営する集会所のコミュニティースペースに遊びに来て、団地の人と交流している。
「自治会の方たちにとてもよくしていただいているので、何かあったら自分たちもお手伝いしたい。地区防災計画はつくって終わりではなく、必要に応じて更新していきたい」と語る三浦さん。その言葉にプロジェクトに関係する人たちが大きくうなずいていた。
【妹尾和子=文、青木登=撮影】
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