【特集】北本団地(埼玉県北本市):住宅付店舗
地元を愛する若者たちがつくる
団地の憩いのスペース
完成から50年がたった北本団地。
かつての活気が失われつつあるアーケード商店街にジャズが流れるコミュニティースペース「中庭」が誕生した。
この場所をつくったのは、地元愛にあふれた30代の若者たちだ。
団地の空き店舗からジャズが流れる
五月晴れの日曜日の昼下がり。団地商店街の一角から、女性の歌声が流れてきた。ピアノに合わせ、ベースがしっかりリズムを刻む。曲はジャズのスタンダード「サマータイム」。思い思いの場所で耳を傾けるのは団地に住む人たちだ。
ここは埼玉県中東部の北本団地。今日は、空き店舗を活用した新しいコミュニティースペース「中庭」オープンの日。お披露目を兼ねてジャズライブが行われている。
「中庭」は地元北本市の若者たちがつくるまちづくりの合同会社「暮らしの編集室」が運営する拠点。この取り組みがユニークなのは、実際の運営者が店舗2階に住んでいることで、ジャズライブでベースを弾いていたのがその人、落合康介さん。落合さんはプロのジャズベーシストで、妻の加奈子さんは、「中庭」のシェアキッチンでカフェを始める。「暮らしの編集室」のメンバーに誘われて、ふたりで北本団地に引っ越してきた。
店舗が閉まっている?そこには可能性しかない
北本団地は誕生から50年。住民の高齢化が進み、子どもの数も減っている。2020(令和2)年3月、URは北本市と、高齢化への対応やコミュニティー活性化のために「まちづくりに関する連携協定」を結んだ。市長との最初の面会時に紹介されたのが、暮らしの編集室のメンバーたちだった。
彼らは1986(昭和61)年生まれの中学の同級生が中心。北本団地に住んでいたり、今も住んでいる、職場があるなど、全員が北本市とつながりをもち、新しいまちの可能性を生み出す「まちづくりチーム」として活動している。
「僕が住んでいた頃、団地の商店街にはみんなが集まる駄菓子屋さんがあって、公園に行けば友達がたくさんいました。いま、商店街の大半はシャッターが閉まっていますが、僕らから見たら、そこには何かが始まる可能性があふれています」
メンバーの1人で、北本団地で育った吉川将太さんはそう話す。
こうしてコミュニティースペースをつくるプロジェクトが始まった。面白いのは、北本市によるふるさと納税型クラウドファンディングで改装や設備資金を募ったこと。返礼品がないにもかかわらず、200万円もの資金が集まった。
1階のシェアキッチンの内装は、暮らしの編集室メンバーの若山範一さんが手掛けた。
「外と中の境をあいまいにして、外の空間を内に引き込みたかった」と話すように、開口部が広い開放的な空間が生まれている。
店舗2階の住まいの部分は、これまでも「MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト」を手掛けてきたMUJI HOUSEが担当。MUJI HOUSEは情報発信も手掛け、親会社である良品計画も無印良品エルミこうのす店が店舗の活動を支援。今回のプロジェクトはURと北本市、暮らしの編集室と合わせた5者が連携して進められた。
地域に開かれた場に自治会も期待
北本団地が完成した年に入居した北本団地自治会長・佐藤利彦さんは、「団地のアーケードは商店が20軒も軒を連ねていた時代もありましたが、今では人通りも少なくなってしまいました。『中庭』ができて、若い人たちがどんなことをやってくれるのか、とても楽しみにしています」と期待を寄せる。
「中庭」2階での暮らしを始めた落合康介さんは、「地域の人と関わり、地域に根ざした音楽活動をしたいと思っていました。ここが団地の皆さんの憩いの場になればいい」と笑顔で語る。
URでこのプロジェクトを担当する新谷英朗(しんがいひであき)は、「住宅付店舗のMUJI×URリノベーションはUR初ですし、そこに実際に住みながら地域活性化に取り組む点も先進的です。団地以外の人にもこの場所の活動や2階の暮らしぶりをPRして、若い世代に北本団地を知ってもらいたい。そして、ここが地域に開かれたオープンな場になることを期待しています」と話す。
北本団地の新しい試みに期待したい。
【武田ちよこ=文、青木 登=撮影】
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