【特集】みさと団地(埼玉県三郷市):小型モビリティ
ハイテクと「共助」を融合させ
安心して暮らせる団地へ
団地の中をスイスイ移動できる小型モビリティに乗って、ちょっと買い物へ。
そこで友達と出会って、おしゃべりに花が咲く。
近い将来、団地ではこういった新しい移動手段が普及して、新たなにぎわいが生まれる。そんな研究が始まっている。
団地の皆さんが外に出る機会をつくる
桜の花びらが舞う4月上旬の土曜日。埼玉県三郷市にあるみさと団地の中を、見たこともない小型モビリティが走り回っていた。
この日は、withコロナの団地屋外での“新しい暮らし”を提案する企画「STAY DANCHI in みさと」が開かれていて、小型モビリティはその目玉だという。
大人が座ったまま移動できるのが、パーソナルモビリティ「ウィル」。子どもを乗せて動き出したのは、自動運転ロボット「ラクロ」。おなかの中に荷物を入れて、無人で移動しているのが自動宅配ロボット「デリロ」だ。
子どもたちは「ラクロ」に乗って団地の広場を動き回る。周囲で見守る大人たちは、興味津々という表情で、これらの小型モビリティの動きを追っている。
一方、広場では産直野菜やお魚が並ぶ「ぷちマルシェ」が開かれ、キッチンカーからはいい匂いが漂ってきた。その横の桜の木の下では、パナソニックと渋谷の未来創造ラボ100BANCHによる移動コミュニティー「BOX SQUARE」が展開され、団地の人々は世代を超えた会話を楽しみつつ、好きな場所で思い思いに春の午後を過ごしている
URの森下佳代子は、企画の目的をこう話す。
「外出を自粛している団地の皆さんが、屋外で気分転換できる企画を考えました。さらに、そこで小型モビリティを体験してもらい、未来の団地の暮らし方ってこんな感じなんだ、と少しでもイメージをふくらませてもらえたら、という思いもあります」
団地の移動支援をパナソニックと共同研究
URは2020(令和2)年12月、団地の移動支援を介した共助型サービスを、パナソニック㈱と共同で研究する協定を締結した。その縁から、パナソニックもこの日の企画に出展した。
URの鈴木綾子は、「郊外の団地は敷地が広く、スーパーにさえ行きづらい人がいます。移動手段がないため、家に閉じこもりがちになる高齢者も多く、ベビーカーを押す若い人たちも、同じように大変です。URとしては、多様な世代がいつまでも安心して暮らせる団地の仕組みをつくりたい。そのために、このみさと団地を舞台に、パナソニックさんとともに新しい移動支援の共同研究に取り組み始めたところです」と説明する。
みさと団地は、団地の規模や、団地内に公道がないこと、駅前に大型商業施設が集積されていることなどの理由で、共同研究の場として選ばれた。将来事業化を考えたとき、これらの商業施設の協力が得られれば、移動の範囲がさらに広がる可能性を秘めている。
パナソニックでこの事業を担当するモビリティ事業戦略室のプロジェクトリーダー・柳沼裕忠さんは、「団地に本来豊富にあるアナログ的な人間力と、パナソニックのデジタル技術を融合し、新たな『共助』の姿をつくりあげることが、解決の糸口になるのではないかと思うのです」と説明する。
パナソニックの豊田恩津水(とよだいづみ)さんは、この研究のために実際にみさと団地に移り住み、団地の暮らしを体験中だ。
「暮らしてみると、団地の中を行き交う人が少ないなと感じています。目的がないと人は外に出てこないんですね。でも、団地には緑も多いし、ちょっとひと休みできる気持ちのよい空間がたくさんあります。ここに住む人たちに、もっと気軽に外に出てもらえれば、そこで人と出会い、コミュニケーションが生まれます。私たちが考えるのは、単なる移動手段ではありません。そこから団地が活性化していくことが目的です」(豊田さん)
実際にパーソナルモビリティに乗った人は、「乗って移動するだけで楽しい!」と大喜び。将来、足が弱っても、こういうモビリティがあれば出かけるのが億劫ではなくなるはずだ。外に出ることが楽しい。人が行き交うことで団地が活性化する。URが目指す未来の一歩が、ここみさと団地で始まっている。
【武田ちよこ=文、青木 登=撮影】
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