【特集】多摩ニュータウン貝取・豊ヶ丘団地(東京都多摩市)
団地に灯るランタンに誘われて
2500人を超す人々がやってきた
いま、多摩ニュータウンでは、アーティストやクリエイターを巻き込んださまざまな試みがあちこちで生まれている。
昨年10月12〜18日に開催された「ランタンフェスティバル2020」もその一つ。
ゆるやかなネットワークでつながる若い世代が知恵を出し合い、多様な世代を引き付ける参加型イベントとして盛り上がった。
2つの団地をつないで交流を促進
八角形の印象的な建物の軒先に吊るされた無数のランタンが、日暮れと同時に美しさを増す。昨年10月17日の土曜日、「ランタンフェスティバル2020」の会場には、大勢の人が集まっていた。
地域の魅力再発見を目的に開催されたこのイベントは、2019年に続いて2回目の開催。飲食は屋外に限定し、建物の中には人を入れないなど感染予防対策が実施されるなか、団地の住民を中心に地域の人々が久しぶりのイベントを楽しんだ。
主催者の一つ、URのグループ会社、日本総合住生活(JS)の担当者、鋤柄(すきがら)さやかは言う。
「第1回の反響が予想以上に大きく、地域の皆さんの期待を感じていたので、2020年は地域との関わりを深めたいと考えました。そこでニューマチヅクリシャさんに声をかけたんです」
「ニューマチヅクリシャ」とは、一級建築士事務所スタジオメガネの横溝 惇さんが立ち上げたまちづくり組織だ。ニューマチヅクリシャが主催者として加わったことで、ランタンフェスティバルは、住民を巻き込んでパワーアップすることとなった。
横溝さんは多摩ニュータウンの団地商店街に事務所を構え、商店街の活性化を支援。これまでもニュータウン内のさまざまなイベントに関わってきた。
「多摩ニュータウンは、段階的な開発の特性から団地間の往来があまりない」と言う横溝さん。だからこそ団地同士をつなぐイベントにしたいと、ランタンフェスティバルは隣接する貝取と豊ヶ丘という2つの団地をまたいで行うことにした。イベント期間中、団地をつなぐ遊歩道には、そぞろ歩く人々の姿が普段以上に見られた。
ランタンに込められた住民の夢や希望
メイン会場に飾られたベトナム製のランタンとは別に、ガチャガチャ(カプセル玩具)のカプセル約2000個で作ったランタンが、商店街アーケードや街路樹に飾られた。これは、横溝さんがイベントへの参加を呼びかけた女性2人のアート&デザインユニット、「ミッケリミッケ」が中心となり、団地住民や近隣大学の学生ボランティアと共に制作し、飾りつけたものだ。
カプセルは、ガチャガチャを設置している大型スーパーや近所の商店に頼んで、捨てられているものを分けてもらったりした。ランタンにつける短冊には、郵便局や児童館を回って人々に願い事を書いてもらった。
「“どんなイベントなんですか?”と皆さん興味津々で協力してくださいました。このランタンには皆さんの気持ちがこもっているんです」とミッケリミッケの吉田実香さん。
イベントに関わって地域の人のやさしさに触れたと語る吉田さんも、多摩ニュータウンの住人だ。
在住クリエイターが団地に新しい風を呼ぶ
あまり知られていないが、多摩ニュータウンには、アーティストやクリエイターが多く住んでいると横溝さんは言う。
「多摩ニュータウンには、新しさを受け入れる柔軟さと懐の深さがあると思います。だから、都心を離れて活動したいアーティストやクリエイターが暮らしやすいんじゃないかな」
2020年のランタンフェスティバルはSNSでも積極的に発信され、広く注目を集めた。その背景には豊かな緑と都心からの程よい距離、ゆったりと暮らせる環境に惹かれてニュータウンに移り住んでいるアーティストやクリエイターの存在があったのだ。
住民を巻き込みながらゆるやかにつながり、地域に根ざした活動を開始したクリエイターたち。この新しい流れについて、多摩ニュータウンの再生に取り組むURの小西智剛は言う。
「恵まれた周辺環境に加えて、新しいパワーが根付き始めていることも、多摩ニュータウンの魅力と捉えています。都心に毎日通勤する必要がなくなりつつある時代に、多摩ニュータウンはますます注目されるのではないでしょうか」
昭和の時代に比べて活気がなくなったと言われる多摩ニュータウンだが、住民一人ひとりがゆるやかにつながり楽しく暮らすという、新しい時代の空気が着実に生まれている。
【牧岡幸代=文、青木 登=撮影】
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