【特集】浪江駅周辺整備事業がスタート「なみえルーフ」が新しいまちのシンボルに(福島県浪江町)
浪江町は避難指示区域が一部解除となり、世界的建築家が立案した「浪江駅周辺グランドデザイン基本計画」の実現に向けて動き出していた。
人と人がつながるなみえルーフ

昨年10月21日に起工式を行い、いよいよ浪江駅周辺整備事業が動き出した浪江町。世界的な建築家である隈研吾氏、アートプロデューサー伊東順二氏らが手がけた新しいまちのグランドデザインを象徴するのが「なみえルーフ」だ。
これはJR浪江駅から商業施設まで、ひと続きにつながるアップダウンのあるダイナミックな大屋根で、波のような曲線がまちのにぎわいを表している。駅前にはなみえルーフに囲まれた芝生広場が広がり、公営住宅や民間住宅のエリア、人々が集う緑空間へと続く浪江の新しいまちの顔が誕生する。
最も大切にしているのは人と人のつながり。昔からの町民も、移住してきた人も、みんなが大屋根「なみえルーフ」に集まり、さまざまなつながりをつくっていく。
「震災前の浪江町は、近隣の市町村からも客が来るほど飲食店が多い、にぎやかなまちでした。当時のにぎわいは戻らないかもしれませんが、新しいまちは、これまで以上によいまちになる。そんな期待でいっぱいです」
こう話すのは、浪江町市街地整備課の髙倉沙織さん。
「隈先生の作品は人を呼ぶ力があるので、完成すると国内外からたくさんの人が視察に来られると思います。その方々に浪江の魅力を知ってもらい、魅力を発信してもらって、まちににぎわいを呼び戻したい。ここをにぎわいの発信源にしたいんです」と髙倉さんは期待を込める。
浪江町は雑誌『田舎暮らしの本』の「住みたい田舎ベストランキング」で、昨年から2年連続で1位に輝いている。移住者への手厚い補助制度が整っており、子育て世代の移住者も増えている。これから生まれる新しいまちは、未来志向のデザインに、再生可能エネルギーを活用し、環境にも配慮した最先端のまち。あらゆる世代に住みやすいまちになるだろう。
ソフト、ハードの両面から町を支援
「住民からも期待する声は多く、浪江町が発行する『浪江駅周辺整備事業まちづくりニュース』が情報ソースになっています」と話すのは、町とともにこの情報ソースの編集を手がけるURの田村彩由郁(さゆか)だ。
田村は昨年度、浪江町の髙倉さんらとともに浪江駅周辺整備事業についての意見を聞く住民ワークショップを計3回、開催した。
「昔からお住まいの方や、地域で活動するプレイヤーたちから、積極的な意見を多数いただきました。皆さん、このまちをよくしたい思いにあふれ、この事業への関心が高いことがわかりました」
URが運営する「情報発信・交流スペースなみいえ」も、地元にすっかり定着した。ここには町内で行われるさまざまなイベントが書き込まれたカレンダー「なみ☆カレ」があり、「ふらりとやってきて、このカレンダーを見ていく人や、ここで情報交換する人などに利用されています」と田村。
URの篠原 楓はハード面から浪江町を支援する。電線共同溝や道路などの基盤整備工事の発注や工事業者との打ち合わせ、工事の品質管理など業務は多岐にわたる。
「かなりの規模の面的整備を行うことになるので、土木技術や設計面のノウハウ、排水計画や全体の照明の配置など、技術的な面でも支援していければと思っています。私自身、復興の現場に携わるのは初めての経験ですが、計画や設計の段階から関われて、やりがいを感じています」と話してくれた。



新しいまちににぎわいを取り戻す
浪江駅周辺整備事業は工事が始まったばかり。
「復興は、整備して終わりではありません。これを機に人々が戻り、集まり、まちのにぎわいが戻ることが目標です。そのためにも、より多くの方に使ってもらえるよう、私たちは役場と町民の間をつなぐ存在でありたいと思っています」とURの田村。
たくさんの人に「この新しいまちに住んでみたい」と思ってもらえるように、URはこの地域の物産展を首都圏の団地で開催するなど、情報発信も積極的に行っていく。
URの篠原も「ここに住みたいと思ってもらうためには、安全安心なまちづくりが重要。車道と歩道の段差のないフラットな道路や、完成後の維持管理も考慮した設計を提案するなど、ハード面からも支えていきたい」と話す。
「髙倉さんに、ともに復興を進める仲間だと言ってもらえるのがうれしい」と話すURのふたり。URは町と一体になって、希望があふれる新しいまちづくりを進めていく。


【武田ちよこ=文、菅野健児=撮影】
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