【特集】大野駅西側に、復興の土台となる新しい施設がオープン(福島県大熊町)
新しいまちづくりが進む福島県の大熊町、双葉町、浪江町を訪ね、現地の皆さんの話を聞いた。
大熊町では大川原地区、大熊西工業団地に続き、JR大野駅周辺の下野上(しものがみ)地区の復興事業が進行中。
3月には駅西側エリアに新しい施設が完成し、人々の交流に期待が高まっている。
駅西にオフィスと商業施設がオープン

3月15日、大熊町のJR大野駅西側エリアには、新しいまちの誕生を祝うたくさんの人たちの笑顔があふれていた。
この日、グランドオープンしたのは、大熊町産業交流施設「CREVA(くれば)おおくま」と、その隣に展開する商業施設「クマSUN(さん)テラス」。3階建ての「CREVAおおくま」にはオフィスが入り、一般の人も利用できる多目的ホールやコワーキングスペースも完備。「クマSUNテラス」には、地元の皆さん待望のコンビニをはじめ、飲食店やショップ、キッズルームなどが開業し、かつてこの地にあった商店街のにぎわいを彷彿とさせた。駅と施設の間には芝生の交流広場も完成。早春の一日、ここで思い思いに過ごす人々の姿もあった。
復興事業は工期との戦い

東京電力福島第一原子力発電所の事故により、長期にわたる全町避難を余儀なくされた大熊町だが、避難指示解除にあわせ、復興に向けて確実に歩を進めている。
最初の復興拠点と位置付けられたのは大川原地区で、2019(令和元)年5月にはここに大熊町の新庁舎が開庁。公営住宅の入居が始まり、交流施設、医療・福祉施設、教育施設も順次完成した。
次いで「働く場の確保」として、大熊西工業団地を整備。現在、ここには次世代グリーンCO2燃料技術研究組合などが進出している。
そして今回、震災前に町の中心部だった下野上地区の大野駅西側エリアに、二つの施設が完成した。
完成した「CREVAおおくま」を感慨深げに眺めているのは、大熊町復興事業課の鈴木修さん。
この土地の基盤整備を担当した。
「すごいものができたな、と率直に思います。本来、これだけの規模の開発ですと10年くらいかかるのですが、今回はほぼ半分の期間で完了させなければなりませんでした。そこが大変なところでしたね」と鈴木さんが説明する。
まず用地確保のために、町民のもとを訪れて交渉。県外に避難している方を訪ねると、「町民が帰還するための施設を整備するなら」と快く協力してくれる人が多かったという。
「そういう町民の想いを受けての工事でした。通常はまず基盤整備事業を行い、道路や下水道など地べたを整える工事を終えてから建物の計画を立てますが、今回は同時進行です。途中、コロナ禍もあり、工期通りに完成させるために、毎日が戦いでした」
震災前のまちは取り戻せないが、例えば昔の水路を残したり、なじみのある木を植栽したりして、町民が昔のまちを思い出せるようになるものを意識したと教えてくれた。
大野駅西側には社会教育複合施設も計画中で、これらの3施設が完成すると、下野上地区が大熊町の復興の土台となる。オフィスや商業施設に人の動きが見えてきて、「いよいよこれからだな」という思いだと鈴木さん。交流人口や関係人口が増え、この場所からにぎわいを取り戻していくことに期待を寄せている。





貴重な体験を次のステップに
URは大熊町から復興再生計画の策定支援を受託、町とともにこれらの土地の基盤整備事業を行ってきた。大野駅西エリアの基盤整備を担当するURの久保咲乃は、入社2年目。最初の赴任地が大熊町で、いきなり復興現場の最前線を担当した。
「工期が短いだけでなく、建築や土木など関係する人も多く、それらの調整のために定例会議を呼びかけるのも、日程の調整が大変でした」と振り返る。
設計が固まる前に工事が動き始める状態だったので、急な計画変更も多々あり、対応が難しい場面もあった。
「大変でしたが、さまざまな工事が並行して動く現場を経験したことは、自分のレベルアップにつながったと思います。復興の仕事に携われたことに感謝しています」と久保。
「戻ってくる町民の皆さんや、移住してきた方々にとって、ここが住みやすく、交流しやすいまちになることが願いです」と話す二人。大熊町の鈴木さんもURの久保も、すでに次の事業に向けてギアを入れ直していた。

【武田ちよこ=文、菅野健児=撮影】
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