【特集】何かを始めたい市民がつながり 未来を拓くまちづくりへ 長野県諏訪市
東京の新宿駅からJRの特急で約2時間。
諏訪湖の最寄り駅、上諏訪駅に着く。
諏訪市では今、未来のまちの姿を考える2つの会議を両輪にして、市民パワーがしなやかに動き出している。
未来のまちを考える2つの会議
上諏訪駅を出て5分も歩けば、目の前には諏訪湖が広がっている。諏訪といえば諏訪大社や温泉があり、夏には諏訪湖の花火大会、冬には湖面が凍る御神渡(おみわた)りと、観光要素には事欠かない。だが、上諏訪駅周辺に目を向けると、商店街の人通りは少なく、あまり活気が感じられないのが現状だ。
「社会的に少子高齢化が進むなか、上諏訪駅周辺を再び活気あるまちにしたいと、新たなまちづくりに取り組み始め、2022(令和4)年にはURさんと協定を結びました」と諏訪市都市計画課の堀川さおりさんが説明する。
堀川さんたちは、まちづくりのための2つの会議を並行して進めている。URはその立ち上げや運営をサポートしている。
「未来ビジョン策定会議」は、諏訪の青年会議所や商工会議所、商店街や観光協会といった各団体の代表や学識経験者がメンバーとなり、昨年6月にスタート。今年度中に、上諏訪駅を中心としたエリアの未来ビジョンを策定する。




一方の「エキまちカイギ」(上諏訪駅周辺の未来のまちづくりを楽しむ会議)は誰でも自由に参加できる。自分が欲しい未来に向けて、「こんなことをやりたい」と提案し、意見を聞き仲間を募る場で、会議には堀川さんなど市の職員とUR職員もサポートメンバーとして参加する。登録している市民メンバーは50人ほど。
この会議に参加している東野唯史(あずのただふみ)さんは、ゲストハウスのリノベーションの仕事がきっかけで諏訪市に移住。解体される建物の木材や古道具などを集めて販売するリビルディングセンタージャパンを2016年に開業した。この店には、古材や古道具をレスキューするという東野さんの考えに共鳴する人たちが県外からたくさんやってきて、まちに新たなムーブメントが生まれている。
「エキまちカイギで『まちづくり会社をつくりたい』という構想を発表したところ、賛同するメンバーが多くいて、実現の後押しになりました。さらに、まちづくり会社で取り組むリノベーション物件のスタッフに、エキまちカイギのメンバーからも参加がありそうです。この会議は他の人のアイデアを聞くことができるだけでなく、人材と出会う場にもなっています」と東野さん。市民だけでは動かしにくい案件には、市やURのサポートも依頼でき、「この会議があることで、さまざまな場を提供してもらっています」。







東京で公共の文化施設の企画を担当していた石田名保子さんは、地域おこし協力隊として20年に諏訪市に着任し、退任後、諏訪市に定住。子どもたちの通学路に1軒も書店がないことに気づいた石田さんは、エキまちカイギに参加して「上諏訪駅周辺に本屋さんがほしい。子どもたちが溜まれる文化拠点をつくれないか」と提案した。すると一緒にやろうという人が集まってきて、2月に古本市を開催することになった。ここでも何かを始めたい市民がつながり、応援する、いい関係が生まれている。石田さんは「これが文化的な場づくりのキックオフになれば」と期待している。
スモールステップでまちづくりを続ける
URの持田真也は、「ビジョンをつくって終わりではなく、その先の担い手の活動も見越して、エキまちカイギを立ち上げました。今後もこの2つの会議がまちづくりの両輪になるようサポートしていきます」と話す。
「皆さんが生き生きとプライドを持って暮らす、魅力的なまちになっていけば、ここを訪れてみよう、住んでみようか、という方も増えていくはずです。ないものを欲しがるのではなく、人のつながりを大切にしながら、いろいろな人の活動をみんなが助ける。そんなスモールステップを踏みながらまちづくりをしていきたい」
そう話す堀川さんの言葉に、メンバーたちがうなずく。歴史ある上諏訪のまちに、しなやかな風が吹き始めている。
【武田ちよこ=文、菅野健児=撮影】
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