【特集】トップランナーのプライドを持って 「一日過ごすことができるまち」を目指す(鹿児島県鹿児島市)
南九州一といわれる繁華街が、鹿児島市の中心を占める天文館エリアだ。
昨年4月には新しい複合商業施設「センテラス天文館」が開業しまちはにぎわいを増している。だが、地元の人々には危機感があった。
来街者をもっと増やすために、市と地元の皆さん、それにURが動き出した。
はじめてのホコ天に市民が集う
昨年10月最後の日曜日、鹿児島市の最高気温は24度。この陽気に誘われるように、人々が集まり、にぎわう通りがあった。鹿児島一の繁華街、天文館の照国表参道だ。この日、参道の約270メートルが、午前11時~午後3時まで歩行者天国になったのだ。
通りに並んだキッチンカーの前には、順番を待つ長蛇の列。その先ではライブ演奏や大道芸人のパフォーマンス、足湯、子どもの遊び場などがあり、たくさんの人々の笑顔がある。子どもから中高年まで年齢もさまざまな市民が、イベントを心から楽しんでいた。
この取り組みは、歩行者天国社会実験として、鹿児島市、まちづくり法人(一般社団法人)「天文館みらいマネジメント」が主体となり、鹿児島国際大学とURが全面的に協力して実施された。
天文館の未来を考えるワークショップを開催
URは2021(令和3)年に鹿児島市からの要請を受け、鹿児島市中心市街地エリアのまちづくり支援を行っている。
この日の歩行者天国には、関係者の予想を大幅に上回る多くの方が来場したが、天文館地区への来街者はここ数年、落ち込み続けている。市の歩行者通行量調査によると、1998(平成10)年に1日約23万人だった歩行者が、2020(令和2)年には約9万人にまで減少した。このまま何も手を打たなければ、中心市街地が空洞化する恐れもある。危機感を抱いた市や商店街の人々が動き出した。
まず、公共空間を活用しまちづくり活動を担う団体として、天文館商店街振興組合連合会など複数の組織が連携して、天文館みらいマネジメントを設立することにした。法人の設立に際し、関係者は目指すまちの未来像や具体的な取り組み内容決定に向けた技術的支援を市へ要請。要請を受けた市はワークショップの実施などをURへ相談した。
「URは専門家の協力を得て、現状認識の共有、まちの未来像や、やりたいことなどの意見交換を行うワークショップを実施し、意見のとりまとめなどの支援を行いました」とUR九州支社の田中耕介が説明する。
このワークショップには、鹿児島市職員と天文館みらいマネジメントの関係者10名ほどが参加。話し合いを重ねた結果、「一日過ごすことができるまち」を目指すことにした。天文館みらいマネジメントの歩行者天国社会実験への参画は、このビジョンに向けた第一歩だったのだ。
目指す未来像に向けてスタートを切った
鹿児島市でこの事業を担当する市街地まちづくり推進課の岩山和史さんは、「歩いて楽しめるまちを目指して、URさんの力も借りながら、地元の皆さんとともに取り組んでいきます。URさんが持つまちづくりの豊富な経験に期待しています」と話す
天文館みらいマネジメント理事長の有馬勝正さんは、「コンパクトシティやウォーカブルなどの国の施策に取り組みたくても、地元と自治体だけでは難しい。現場で実行に移すところをURさんに手伝ってもらったことに感謝しています」と振り返る。
今回の社会実験で、URは効果検証に関する支援も担い、来街者向けアンケートにもこだわった。 「ワークショップで『新たな担い手がほしい』との意見が多かったため、専門家の助言や他事例を参考に、『今後、まちづくり活動に参加したいか』と問う項目を入れました。今後につながる貴重な声を得られたと考えています」とURの久保田絢子が言う。
有馬さんは「外部から参加したいという方がけっこういらっしゃるんです。これはとてもうれしい」と喜びつつ、 「天文館は常に鹿児島の先端をいくまちでした。そのプライドとオリジナリティと感性をもって、皆さんの力を借りながら、にぎわいのあるまちをつくっていきたい」と話す。
鹿児島市、天文館みらいマネジメント、そこにURが加わった取り組みは、始まったばかり。マグマシティ鹿児島市の中心市街地が、魅力あるウォーカブルなまちになるよう、URはこれからも着実にバックアップしていく。
【武田ちよこ=文、菅野健児=撮影】
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