【特集】未来のビジョンを共有して まちなかを、もっと楽しく!岐阜県中津川市
かつて中山道の宿場町、中津川宿として栄えた中津川市の中心市街地。
歴史・文化が残るまちの価値を見直し、理想のまちの将来像をみんなで考える。新たなまちのビジョンづくりが動き出している。
空洞化しつつある中心市街地
名古屋駅からJR中央本線快速で約1時間20分。中津川駅に降り立ち改札を出ると、正面に連なる山々が目に飛び込んできた。中心市街地までは駅から歩いて10分ほど。中津川宿の面影が残る魅力的な街並みだ。ただ平日だからか、歩いている人が少ない印象を受けた。その話をすると、中津川市商業振興課課長補佐の土屋敦さんが説明してくれた。
「中心市街地は、社会情勢の変化や高齢化、後継者不足などもあり、商店や人口が減少し、商店街の維持が難しくなっていまして。最近はあまり人がいない状態です」
昔は中心市街地に集まっていた市役所や病院等の都市機能も地区外に移転している。このままでは中心市街地の衰退が予想されるなか、市では2018(平成30)年に「中心市街地活性化基本計画」を策定。計画が23年度で終了するにあたり、次の動きがスタートした。
関わる人の声を聞くプレイスメイキング
日本屈指の木材産地であり、製紙業をはじめ製造業が盛んな中津川市。全国に知られる和菓子処でもあり、馬籠や苗木城跡など観光名所へのアクセス拠点でもある。
「他地域の方からは、文化も産業もあって、リニア中央新幹線の駅もできるのに、中津川市の何が問題なのかと言われることがありますが、まち自体が魅力的でないと人は来てくれません。個人商店や歴史・文化的資産など、中心市街地がもつ"面白み"をもっと高めていく必要があります」と語るのは、土屋さんと共にまちづくりを進めている中津川市都市建築課主任の大山徹さんだ。
一方、中津川市で中心市街地のまちづくりを支援しているURは、公共空間を活用した「プレイスメイキング」に関するフォーラムを開催。その考えに中津川市が共鳴、URは市が行う社会実験を企画段階から全面的にサポートした。将来のまちづくりの担い手となる人を探し、集まった人の声を聞き、公共空間を活用する仕組みづくり、居心地のよい空間づくりに役立てるためだ。1回目の社会実験は、2021年10月に都市緑地公園で開催。マルシェをはじめ、アーティストや大学生によるワークショップ・展示などが行われ、3日間で延べ約2900人が来場した。
「民間の人と一緒にイベントを行う経験がなく手探りでしたが、事業者や来場者、また市の内部からも予想を大きく上回る反響がありました」と大山さん。手応えを得て、今年度は市が主体となって毎月社会実験を開催するなど、関わる人の拡大を図っている。
先々を見据えたまちのビジョンを
URは社会実験の実施と並行して、「中心市街地活性化基本計画」をより具体化するまちづくりのビジョン策定も提案した。将来像として、どういうまちを目指すのか、具体的にどこから手をつけていくのかなどを関係者で議論し共有するためだ。その提案を受けたとき、正直なところ自分たちは消極的だったと、土屋さんと大山さんは振り返る。
「既存計画があるなかで、新たにビジョンをつくることに抵抗感がありました。けれどもURさんに根気強くご説明いただき、より具体的で実践的なビジョン策定の議論が必要なことを理解しました。一歩先を見据えたご提案に感謝しています」と大山さん。昨年度、ビジョンのたたき台を市と一緒に考えながらとりまとめたURの松野範久は、その思いを次のように語る。
「やらなくてもすぐに問題はないかもしれませんが、さらに上のまちづくりを目指すには、プラスアルファとして先々を見据えた取り組みの必要性を感じていました」
目指すのは、整備ありきではなく、中心市街地の魅力をとらえ直し、伸ばしていくための共通理解となるビジョンづくりだ。そこには、この夏、中心市街地にオープンする市民交流プラザや、隣の美乃坂本駅付近に新設されるリニア中央新幹線の新駅との関係も重要なポイントになる。
今年度、中津川市では実際にビジョンを策定すべく、多くの関係者を巻き込んだビジョン策定会議を立ち上げた。地元の人や事業を始めたい人、中心市街地の事業者や20~30代の若手事業者などへのヒアリングやワークショップを重ねている。回を重ねるにつれ、さまざまな要望や提案、人の紹介などが寄せられるように。同時に、大規模開発ではなく、中津川市のよさを生かしたまちづくりを望む声が多いことが明確になったという。
URは、今後も市のビジョンづくりをサポートしながら、ビジョン実現のために必要となる一歩先のアクションを提案し、まちづくりを支援していく。
【妹尾和子=文、菅野健児=撮影】
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