【特集】鹿沼への思いをもった人が つながる公民連携のまちづくり 栃木県鹿沼市
民間が主体となり、それを行政が後押しするスタイルのまちづくりで注目を集める地域がある。
栃木県中部の鹿沼(かぬま)市だ。
地域の資源を生かした持続可能な「リノベーションまちづくり」が進められている。
銀座通りに新たな拠点が誕生
昨年9月17日、鹿沼市の中心部、銀座通りにまちづくりの新たな拠点が誕生した。歴史あるビルの一角をリノベーションした「kanuma commons(カヌマ コモンズ)」という名のスペースだ。1階に「小商い」のための貸し店舗スペース、2階に使い方を限定しない会員制のスペースがある。
かつて日光例幣使(れいへいし)街道沿いの宿場町だった鹿沼は、歴史・文化が残るまちだ。とはいえ、呉服店など大店(おおだな)が並び華やかだったという銀座通りは、現在はシャッターが下りた店舗が多い。そこで、2021(令和3)年から鹿沼市のまちづくりをサポートしているURがスペースを借りて、kanuma commonsをオープン。地元の「鹿沼銀座エリアリノベーション共同体」と共に運営している。
共同体の代表である風間教司さんは、「鹿沼をよくしていきたいと思う人が集い、つながる場にしたい」と話す。風間さんによれば、地元の40代以上の人には銀座通りがにぎやかな頃の記憶があり、今も何かと話題にのぼる特別な場所とのこと。「このまま銀座通りを放っておいていいのかという思いもありました」と話す。その言葉にうなずくのは、共にまちづくりを進める鹿沼市都市計画課の塩澤孝さん。鹿沼は住むとわかる暮らしやすいまちだと塩澤さんは言う。
「鹿沼市は宇都宮市や日光市に隣接し、都内から東武特急で80分とアクセスも良好です。地元民イチ押しのいちごやニラそばなどの特産物をはじめ、キャンプ施設やゴルフ場、そして歴史ある建物や祭りなどの文化が残る、バランスのとれた穏やかなまちです」
URが民間と行政の橋渡し役に
鹿沼市が目指しているのは、今ある建物を生かした公民連携で行うリノベーションまちづくりだ。
進めるうえで鹿沼市さんからは『民間が主体で、必要なところを行政が後押ししていきたい』とのお話がありました」とURの矢野聡は、鹿沼市の取り組みの特徴を説明する。URの役割は、「民」の発想を生かして行うまちづくりを、「公(行政)」が後押しする仕組みづくりであり、公と民の橋渡し役。そのスタートアップの場として現地に設けた拠点がkanuma commonsだ。
事業を継続できる応援の場に
運営の主体となる鹿沼銀座エリアリノベーション共同体のメンバーには、自分たちの経験からの学びやつながりを、まちのスキーム(枠組み)に広げていきたいという思いがある。原点は、風間さんが大学卒業後、自宅の一角を改装して始めた喫茶店。
「思いがけず地域の方々が来てくださり、こんなことやって大丈夫なのか、これで食べていけるのかなど、声をかけられて(笑)。お店がコミュニケーションの場になり、人がつながり、挫けそうなときも支えられて続けてこられました」と風間さん。その後、空き家を仲間と共に改装して雑貨ショップやゲストハウスにしたり、事業を始めたい人に紹介したり。プロデュースした物件は市内で30件以上。市外からの移住者も多いという。
「京都や鎌倉でお店を開きたいわけではなく、鹿沼のこの規模感で豊かな暮らしを願う人たちがいます。その人たちを応援して、まちを盛り上げたい」と風間さん。
気軽にチャレンジできる場を設け、困ったときは相談にのり、事業を継続できるように応援する。そんな仲間とつながれる場をもつことで、活動のスピードが速まり、循環すると考えている。そして市はそれらの活動を後押しする。
「今回の取り組みをきっかけに、さまざまな人と人が出会い、つながり、鹿沼に何かが起こる予感がしています。ここはそのシンボル的存在です」と塩澤さん。
11月29日のkanuma commonsのオープンデー(開放日)には、地元出身者をはじめ、最近引っ越してきた人、また宇都宮でまちづくりに携わる人たちなどが集まった。夜の交流会では自己紹介をし、お酒を飲みながら話はどんどん広がっていく。宇都宮から参加していた人たちは「今、鹿沼がアツイんです。学ぶことがたくさんあります」と力強く語っていた。
鹿沼をよくしていきたいという思いのある人たちが、肩ひじ張らず、温かいハートをもってつながり始めている。
【妹尾和子=文、菅野健児=撮影】
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