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【特集】鹿沼への思いをもった人が つながる公民連携のまちづくり 栃木県鹿沼市

URPRESS 2022 vol.72 UR都市機構の情報誌 [ユーアールプレス]

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民間が主体となり、それを行政が後押しするスタイルのまちづくりで注目を集める地域がある。
栃木県中部の鹿沼(かぬま)市だ。
地域の資源を生かした持続可能な「リノベーションまちづくり」が進められている。

銀座通りに新たな拠点が誕生

昨年9月17日、鹿沼市の中心部、銀座通りにまちづくりの新たな拠点が誕生した。歴史あるビルの一角をリノベーションした「kanuma commons(カヌマ コモンズ)」という名のスペースだ。1階に「小商い」のための貸し店舗スペース、2階に使い方を限定しない会員制のスペースがある。

かつて日光例幣使(れいへいし)街道沿いの宿場町だった鹿沼は、歴史・文化が残るまちだ。とはいえ、呉服店など大店(おおだな)が並び華やかだったという銀座通りは、現在はシャッターが下りた店舗が多い。そこで、2021(令和3)年から鹿沼市のまちづくりをサポートしているURがスペースを借りて、kanuma commonsをオープン。地元の「鹿沼銀座エリアリノベーション共同体」と共に運営している。

共同体の代表である風間教司さんは、「鹿沼をよくしていきたいと思う人が集い、つながる場にしたい」と話す。風間さんによれば、地元の40代以上の人には銀座通りがにぎやかな頃の記憶があり、今も何かと話題にのぼる特別な場所とのこと。「このまま銀座通りを放っておいていいのかという思いもありました」と話す。その言葉にうなずくのは、共にまちづくりを進める鹿沼市都市計画課の塩澤孝さん。鹿沼は住むとわかる暮らしやすいまちだと塩澤さんは言う。

「鹿沼市は宇都宮市や日光市に隣接し、都内から東武特急で80分とアクセスも良好です。地元民イチ押しのいちごやニラそばなどの特産物をはじめ、キャンプ施設やゴルフ場、そして歴史ある建物や祭りなどの文化が残る、バランスのとれた穏やかなまちです」

1階のkanuma Standは貸し店舗スペース1階のkanuma Standは貸し店舗スペース。訪ねたときはパンとタコスのお店が入っていた。
kanuma commonsの2階のkanuma Basekanuma commonsの2階のkanuma Base。大型モニターやキッチンもある。仕事やイベントなど使い方は自由。
kanuma commons(カヌマ コモンズ)の外装kanuma commonsは明治・大正・昭和と増改築が繰り返されてきた板屋ビルヂングの中にある。
夜の交流会の様子kanuma Baseの11月29日のオープンデー(開放日)には夜の交流会も開催。仕事を終えた社会人や大学生が集まった。

URが民間と行政の橋渡し役に

鹿沼市が目指しているのは、今ある建物を生かした公民連携で行うリノベーションまちづくりだ。

進めるうえで鹿沼市さんからは『民間が主体で、必要なところを行政が後押ししていきたい』とのお話がありました」とURの矢野聡は、鹿沼市の取り組みの特徴を説明する。URの役割は、「民」の発想を生かして行うまちづくりを、「公(行政)」が後押しする仕組みづくりであり、公と民の橋渡し役。そのスタートアップの場として現地に設けた拠点がkanuma commonsだ。

事業を継続できる応援の場に

運営の主体となる鹿沼銀座エリアリノベーション共同体のメンバーには、自分たちの経験からの学びやつながりを、まちのスキーム(枠組み)に広げていきたいという思いがある。原点は、風間さんが大学卒業後、自宅の一角を改装して始めた喫茶店。

「思いがけず地域の方々が来てくださり、こんなことやって大丈夫なのか、これで食べていけるのかなど、声をかけられて(笑)。お店がコミュニケーションの場になり、人がつながり、挫けそうなときも支えられて続けてこられました」と風間さん。その後、空き家を仲間と共に改装して雑貨ショップやゲストハウスにしたり、事業を始めたい人に紹介したり。プロデュースした物件は市内で30件以上。市外からの移住者も多いという。

「京都や鎌倉でお店を開きたいわけではなく、鹿沼のこの規模感で豊かな暮らしを願う人たちがいます。その人たちを応援して、まちを盛り上げたい」と風間さん。

気軽にチャレンジできる場を設け、困ったときは相談にのり、事業を継続できるように応援する。そんな仲間とつながれる場をもつことで、活動のスピードが速まり、循環すると考えている。そして市はそれらの活動を後押しする。

「今回の取り組みをきっかけに、さまざまな人と人が出会い、つながり、鹿沼に何かが起こる予感がしています。ここはそのシンボル的存在です」と塩澤さん。

11月29日のkanuma commonsのオープンデー(開放日)には、地元出身者をはじめ、最近引っ越してきた人、また宇都宮でまちづくりに携わる人たちなどが集まった。夜の交流会では自己紹介をし、お酒を飲みながら話はどんどん広がっていく。宇都宮から参加していた人たちは「今、鹿沼がアツイんです。学ぶことがたくさんあります」と力強く語っていた。

鹿沼をよくしていきたいという思いのある人たちが、肩ひじ張らず、温かいハートをもってつながり始めている。

今は営業している店舗が少ない銀座通り今は営業している店舗が少ない銀座通り。鹿沼は昔から木工職人が多く、ユネスコ無形文化遺産に登録された鹿沼今宮神社祭の彫刻屋台が続くまちだ。
銀座通り近くの末広町通り銀座通り近くの末広町通りには、空き家を改装した南インドカレー店や菓子店、軍鶏焼居酒屋などが並ぶ。
人気エリア「ネコヤド路地」雑貨ショップやベジタリアン対応のフレンチレストラン、焙煎所など古い建物を改装したショップが集まる人気エリア「ネコヤド路地」。銀座通りから歩いて10分ほど。
喫茶店「日光珈琲・饗茶庵」風間さんが自宅で始めた喫茶店「日光珈琲・饗茶庵」
掬翆園(きくすいえん)銀座通りのすぐ近くには、掬翆園(きくすいえん)がある。四季折々の変化が楽しめる日本庭園だ。
板屋ビルヂングの1階奥の様子板屋ビルヂングの1階奥には、雰囲気のある飲食店が入っている。
左から鹿沼市の塩澤さん、鹿沼銀座エリアリノベーション共同体の風間さん、URの矢野さんの画像左から鹿沼市の塩澤さん、鹿沼銀座エリアリノベーション共同体の風間さん、URの矢野。今は「共助」が求められる時代との考えで、行政任せにせず、みんなでまちづくりを進めている。URは鹿沼市のまちづくりに関し、幅広く各部署からの相談にも対応している。

【妹尾和子=文、菅野健児=撮影】


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