【特集】 大学とコラボ
1.自分らしく手を入れて暮らせるDIY対応リノベーション住宅
DIYができるセルフリノベーション特区を設けたURの男山団地。
関西大学と連携し、住む人自らが手を加えて楽しめる、新しいコンセプトの部屋を提案している。
男山団地(京都府八幡市)
環境を整え、DIYを全面的にサポート
京都・大阪のベッドタウンとして、総戸数約4600戸を有する男山団地。2015年からは、「男山関大リノベ」と称するプロジェクトを展開。関西大学の学生による設計プランを主軸として、子育て層や若い世代にアピールするリノベーション住宅を5回にわたって提供し、人気を博してきた。
一方、2016年からは団地内にセルフリノベーション特区「ココロミタウン」を新設。賃貸住宅の退去時の原状回復義務を一部免除し、住んでいる人がDIYやセルフリノベーションに挑戦しやすくする試みを実施してきた。団地内の店舗には、DIYに必要な工具や作業スペースを備えた「だんだんラボ」も設立。気軽にDIYに取り組めるだけでなく、常駐している関西大学の学生やDIY好きの住民にアドバイスを受けられるDIYへのサポート体制など、環境も整えている。
その2つを合体して2019年に登場したのが、“DIY対応リノベーション住宅”だ。ココロミタウン内の住戸を中心に関西大学で建築を専攻する修士課程の学生が設計提案。住んでいる人が自由にリノベーションでき、多様な暮らし方ができる個性あふれる3戸の住戸を発表した。
手を入れながら自分らしい住まいに
そのなかの一戸、「自分で作っていく住まい」と名付けられた部屋にお邪魔した。住んで半年という石原毅之(たかゆき)さんは26歳。もともと実家が男山団地にあり、環境の良さと便利さ、職場の近さなどから、団地内で1人暮らし用の部屋を探していたところ、このリノベーション住宅に出会ったという。
壁や収納を取り払ってワンルームにリノベーションされた部屋は、開放的で明るい雰囲気。ベッドやテーブルなどをコーナーごとに配置し、居心地がよさそうだ。
「部屋のベースカラーが僕の好きなブルーで、ひと目で気に入りました。窓ガラスが、もともとのすりガラスから透明ガラスに変えてあるので、外の景色がよく見えるんです。
朝は団地の緑が見えるダイニングの窓辺、夜は枚方の夜景が見えるリビング側へテーブルを動かして、外を見ながら食事をして楽しんでいます。ベッドを置いたコーナーの窓から月がすごくきれいに見えるのも、住んでみての発見でした」
ベッドサイドには大きな天体望遠鏡を置き、窓には星柄のカーテンをかけて、天体観測コーナーに。この部屋に暮らす楽しさが隅々から伝わってくる。
料理やDIYなど新しい趣味が増えたのも石原さんにとっての大きな変化だという。
「入居時のプレゼントに、腰かけ兼用靴箱のDIYキットをいただいたんです。今までまったくDIYの経験がなかったんですが、“だんだんラボ”に行って、教えてもらいながら作りました。毎朝、玄関でこの靴箱に座って靴をはいていると愛着がわくし、充実した生活を送っている気持ちになります」
これからは、部屋のコンセプトのように自分で手を入れていきたい、という石原さん。
「だんだんラボで、偶然この部屋を設計した学生さんにお会いしたんです。どうやって住んだらいいかお聞きしたら、『好きなように改造してもらっていいですよ』って、言ってくださって。大切に住みながら、少しずつ自分らしい部屋にしていきたいですね」
2.仕切り板の開閉で自在に変化するモダンな空間
吉祥寺に近い人気エリアに、大学生の設計アイデアをもとにリノベーションした住戸がある。
無垢材を使用したルーバーの間から光が広がる部屋は明るく、さまざまな表情を見せて楽しませてくれる。
グリーンハイツ武蔵境通り(東京都西東京市)
無垢の木の“ルーバー”が壁代わり
「うわぁ、素敵!」玄関の扉を開き、室内が見えた瞬間、思わず声が出た。その様子に、「驚きますよね。僕も最初、驚きました。訪れる皆さん、同じような反応をされます」と笑顔で応じてくれたのが、「グリーンハイツ武蔵境通り」のこの部屋にお住まいの下村智樹さんだ。
驚いたのは、白を基調とした室内に、木の板が重なるように縦に並ぶモダンな室内の様子と、奥の部屋まで空間がつながる明るく開放的な雰囲気だ。
ルーバーとよばれる無垢の木で作られた羽根板が壁の代わりになっているのが、この住戸の大きな特徴。360度回転するルーバーは、角度によって光や風を取り込んだり、また壁となって空間を仕切ったりできる優れもので、室内の5カ所に設置されている。1枚ずつ角度を変えるたびに、部屋の印象が変化する。
インパクトのある写真で部屋を即決
下村さんがこの部屋に住み始めたのは2018年の春。名古屋から東京への異動が決まり、インターネットで住まいを探していたときに偶然見つけて即決したという。
「写真にインパクトがあって選びました。壁がない代わりに、ルーバーがあって、全体的に白いトーンなのも魅力的でした」
ふだんはルーバーを閉めて部屋を仕切っていることが多く、キッチンで料理しながらリビングに置いてあるテレビを見たいときに一部を開けたり、掃除のときに開け放つという使い方だという。
この斬新な住戸は、URのグループ会社である日本総合住生活が日本女子大学と法政大学の学生を対象に行ったリノベーションコンペティションで、2015年度の最優秀賞に輝いた作品をもとにリノベーションしたものだ。
「大学生が設計した部屋だと聞いて驚きました。すごいアイデアだなあと。写真で見ていたよりも、実際に住んでみると広く感じます」
全部開ければひと続きの部屋のような開放感があり、閉じれば壁のようになって落ち着く。
また、ダイニングキッチンは、広々としていて収納スペースも豊富。ガスコンロは3口あり、使い勝手のよさは、ふだんから自炊している下村さんのお墨付き。
平日は5時頃に起きて近隣を1時間ほどランニングしてから出勤。休日は多摩湖まで続くロードをジョギングしたり、平日用のおかずを作り置きしたり……と、多くの人が憧れる、お手本のような生活スタイルの下村さん。風と光が通るこの部屋のように、軽やかに自分らしい暮らしを楽しんでいる。
3.女子大生の感性で団地に新しい風を吹き込む
女性ならではの視点が盛り込まれた住まいが、新たな人々を呼び込む魅力的なファクターとなっている。 洛西ニュータウンを舞台に進む、京都女子大生によるリノベーションプロジェクト「京女×UR」だ。
洛西ニュータウン(京都市西京区)
団地の良さを活かし今風にリノベーション
若い世代にも受け入れられる団地をつくり、団地の未来を考えたいと、2013年から始まった「京女×UR」。2年に一度、京都女子大学(京女)の学生を対象にしたリノベーションコンペを実施している。家政学部生活造形学科の井上えり子准教授の指導のもと、学生の自由な発想でつくられた住戸は76戸。毎回募集後すぐに埋まり、洛西ニュータウンのフラッグシップといえる存在になっている。
4回目となる2019年のコンペでは、フルリノベーションに加え、床や壁など表層部のみを変えるインテリアコーディネイトプランも施工。審査にURの若手女性職員を加え、より若い感性を重視したコンペとなった。プロジェクトを見守るURの団地マネージャー西山 亨は、「自分たちの自由なアイデアでリノベーションし、実際に住んでもらえることが、学生さんたちにとって大きな魅力になっています。一生懸命取り組む姿には頭が下がります」と話す。
今回選ばれた2つの住戸を見学した。一つ目は、「古きよきもの」をコンセプトにしたインテリアコーディネイト住戸。ドアを開けると、目に飛び込んでくるのがヴィンテージ調の床だ。リビングダイニングの隣りの和室には、市販の布を貼った建具を使用。季節によって入居者が自分で布を取り替えることも可能だ。
もう一つが「変化する暮らし」と名付けられたフルリノベーションプランだ。キッチンと和室をつなげ、LDKとの仕切り壁の一部を開口したワークルームが特徴。パントリーにもなる棚を設けるなど、女性目線の細やかなアイデアが随所に光る。
「井上准教授が学生さんによく言われているのが、『100人中80人に受け入れられるプランをつくるのはURの仕事。あなたたちは100人中10~20人が大好きになるプランをつくりなさい』ということです。そして生み出された、『京女×UR』の住戸が若い方や新しいライフスタイルを求める方にも好評をいただいています」と西山。若い感性が、団地に新風を巻き起こしている。
自分らしく手を入れて暮らせるDIY対応リノベーション住宅:【阿部民子=文、菅野健児=撮影】
仕切り板の開閉で自在に変化するモダンな空間:【妹尾和子=文、青木 登=撮影】
女子大生の感性で団地に新しい風を吹き込む:【阿部民子=文、菅野健児=撮影】
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