社会課題を、超えていく。 UR都市機構

【特集】今よりも、さらに強く! 住み続けたいまちをつくるために 宿毛市事前復興まちづくり計画(高知県宿毛市)

  • URPRESS 2026 vol.86 UR都市機構の情報誌 [ユーアールプレス]

30年以内に発生する確率が60~90%といわれている南海トラフ地震。
想定されている大規模な津波などの災害に備え、速やかにまちの復興を進めるための「事前復興まちづくり計画」を策定した高知県宿毛市を訪ねた。

公共施設を高台移転 避難困難地域を解消

高台の造成地に市役所をはじめ公共施設を集積。ヘリポートもある。ここは希望ヶ丘と名付けられた。

宿毛(すくも)市は高知県の西南端に位置し、すぐお隣は愛媛県愛南町。市域の84%が森林地帯で、人口約1万8000人の7割が、松田川の河口から宿毛湾に面した低地部に暮らしている。普段は穏やかな宿毛湾だが、外洋に向かって扇形に広がる地形のため、南海トラフ地震の被害想定では津波の最大浸水深が25m(中心市街地は5~10m)とされている。

「沿岸部は埋め立て地のため地盤が弱く、巨大地震によって液状化し、最大2.4mの地盤沈降が予想されています。地盤が下がると浸入した海水が排水されず、長期にわたって広範囲が浸水することになります」と宿毛市危機管理課の大串一生さんが説明する。

宿毛市で南海トラフ地震に備えた事前防災の取り組みが始まっている。まず2022(令和4)年、宿毛駅の北側に広がる山地を造成して、市役所と統合保育園が高台に移転。その後、警察署、土木事務所の移転も完了し、現在は海上保安署を建設中。小学校も高台移転を予定している。また、22年には津波避難タワーが2カ所完成し、避難困難地域を解消した。

高台に移転した宿毛合同庁舎。
高台に移転した宿毛市立きぼうが丘保育園。
宿毛駅に近い「駅前公園津波避難タワー」。遊具と同じ色合いのタワーは、子どもたちにも親しみやすい。
普段は穏やかな宿毛湾。海岸に沿って市街地が迫っている。

事前復興まちづくり 計画策定にURも協力

次に宿毛市が取り組んだのは、「宿毛市事前復興まちづくり計画」だ。これは被災後、どのようにまちの早期復興を進め、どのようなまちをつくるのか。その基本的な考え方と方向性を市民の皆さんと一緒に考え、とりまとめるもの。その基本は「たとえ津波に襲われても、その次の地震には耐えられるような、被災前よりも災害に強く、安全で安心に暮らせるまちを取り戻すことです」と大串さん。「被災後も宿毛市に住み続け、仕事を続けられるような、復興まちづくりの計画を策定しました」

URは東日本大震災や能登半島地震からの復旧・復興支援の経験を生かし、これまで和歌山県那智勝浦町、高知県黒潮町などで事前復興まちづくりを支援してきた実績がある。宿毛市とも21年度から協定を結び、事前復興まちづくり計画策定支援と、高台造成の技術的支援を行っている。

「東日本大震災後の復興事業で見えてきた課題もあります。その教訓と、今後の人口減少もふまえ、適正な規模の実効性の高い計画づくりが必要だと考えています」と、計画策定支援を行うURの古川和毅はいう。

事前復興まちづくり計画策定にあたっては、有識者、地元の住民代表、漁協や商工会の関係者もメンバーに入った策定委員会を設け、議論を重ねた。URはここにアドバイザーとして参加。「計画策定後の運用が重要。計画を地域に定着させ、場合によっては見直しも必要です」と古川は話す。

事前復興まちづくり計画策定にあたって、各地域でワークショップを開催した。
毎回テーマを決めて意見を出し合い、防災意識を向上させながら、まちの復興の姿について話し合った。

防災に終わりはない 自分ごとになるように

津波による浸水が想定されている4つのエリアでは、市の主催で市民参加のワークショップを2年間で6回開催した。さらに、高校生を対象にしたワークショップも実施。どのようなまちにしたいか、高校生に夢を語ってもらう一幕もあった。

「ワークショップの目的は、皆さんに防災の意識を高めてもらうことと、その後の復興について考えてもらうことです。被害を受けてから考えるのでは遅い。平時の今、被災が想定されるエリアの人たちと冷静に話すことが重要でした」と宿毛市危機管理課の頼田匡平さんは振り返る。

事前復興まちづくり計画では、被害が想定される4つの地域を対象に、エリアごとに居住の規制や高台移転、災害リスクの低い地域への移転などが検討されている。また、今後、市内を横断する高規格道路の整備が計画されており、その工事で発生する土を活用した高台造成も検討している。

宿毛市の事前復興まちづくり計画は今年3月に策定・公表され、12ページにまとめた概要版は市内の全戸に配布された。今年4月から担当になったURの横村 優は、「全体版も宿毛市ホームページで公表されています。住民に対して非常に丁寧に情報提供されていると思います」と話す。

今年度からは、津波以外の被害が想定される中山間地域の事前復興まちづくりを考えていく。宿毛市危機管理課の宮本健児さんは「防災には終わりがないですね。市民の皆さんが防災を自分ごととして考えられるようになることが、最も重要だと思います」と話していた。

命を守り、生活を再建、なりわいを再生し、歴史・文化を継承する。宿毛市は復興目標を掲げ、今できることを着実に進めている。

宿毛市役所の前に立つ、事前防災に取り組むメンバー。左からURの古川、宿毛市の宮本さん、大串さん、頼田さん、URの横村。

【武田ちよこ=文、菅野健児=撮影】


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