【特集】時間をかけてゆっくりとヒト中心の「まちなか」を創る(静岡県沼津市)
静岡県東部の拠点都市、沼津市。市の中心部である沼津駅周辺では、URの協力のもと新しいまちづくりが始まっている。その取り組みの一つ、「OPEN NUMAZU」から、新しいまちの姿が見えてくる。
ヒト中心のまちなかへプロジェクトを開催
ゆったりと時間が流れる休日のアーケードに、ストリートピアノの音が響きわたる。足を止めて音色に聞き入る人、椅子に腰掛けて軽食を食べる人、コーヒー片手に通り過ぎる人……。昨年11月19日、沼津駅前の沼津仲見世商店街で催された、ヒト中心のまちなか創出プロジェクト「OPEN NUMAZU」の取り組みのひとコマだ。
まちなかの公共空間に椅子やテーブルなどを置いて、誰もが自由にくつろげる空間に変え、ヒト中心のまちなかを創ろうという試みは、2022(令和4)年にスタート。3回目を迎えた昨年は7月から12月まで半年間、くつろぎ空間が日常になるよう常設化。併せて毎月1回、異なるテーマを設け、空間活用を促進するイベント「OPEN NUMAZU Weekend 2023」を実施した。11月は「ブック」がテーマ。商店街の象徴的存在だった書店の前を中心に、のべ20店以上の個性的な書店などが出店し、市内外から多くの人でにぎわった。
出店者の一つ「書肆(しょし)猫に縁側」は静岡市から。店主の女性は「中心市街地の活性化の取り組みに共感したのと、県東部の方にもうちの店を知ってもらいたくて」と出店の理由を語る。小学生の子どもと書店をのぞいていた女性は、「このイベントが始まってから、商店街にも頻繁に来るようになりました。来るたびに知り合いも増えて、すごく楽しい。沼津をより好きになれます」と笑顔で話してくれた。
鉄道高架化と歩調を合わせまちを再編
「現在、沼津市では、中心市街地を南北に分断していた鉄道施設を高架化する事業など、各種の整備事業が動き出しています。それに伴い、沼津駅周辺の市街地をヒト中心の魅力ある場所へと再生する、中心市街地まちづくり戦略を推進しています。とはいえ、鉄道高架事業などは、15年、20年といった長いスパンでの事業。市民の方に期待を持ち続けていただくためにも、OPEN NUMAZUなどの取り組みを通して、まちが少しずつ変わっていく様子を発信していきたいと考えています」と沼津市都市計画部まちづくり政策課の岩崎光洋さんが現状を説明する。
こうした沼津市の取り組みをサポートしているのがURだ。まちづくり計画の策定支援のほか、18年に市の要請を受け、まちづくりの拠点ともなる沼津駅前の土地取得など、まちづくり全体のコーディネート支援を担当。OPEN NUMAZUにはスタート時から関わっている。
「市および商店街や出店者の方々と密に話を続け、関係を深めつつ事業を進めています。毎回テーマを変えているのは、異なった層の出店者やお客さまに来ていただきたいから。今回のブックでは、個性的な書店の出店や、沼津市立図書館のご協力で読み聞かせをしていただきました。その結果、若い世代やお子さま連れの方が多く来られ、幅広い方に興味を持っていただいていると実感しました」とURの阿部絵里香は語る。
URとともにOPEN NUMAZUに取り組んでいるのが、地元の空間デザイン会社REIVERだ。代表の鈴木智博さんに話を聞いた。
「市では将来的に駅前に広場空間を充実させる計画がありますが、それに向けて市民の方々が日常的にまちなかで過ごすことを習慣づけたいと考えています。私たちもURさんと一緒に、この取り組みを通して商店街や地域の方とコミュニケーションをとりながら、みんなを巻き込む空気づくりを進めていきたいですね」
今後、沼津駅前は鉄道の高架化に伴い大きく変貌を遂げていく。線路によって分断されていた南北の市街地が一体化し、慢性化していた渋滞も解消。鉄道施設が移転することで、駅前には新たな駅前広場なども誕生する予定だ。
URの河野裕一は、「沼津のまちづくりは、沼津市で進める鉄道高架化の事業と歩調を合わせた長期的な視点が必要です。ダイエットと同じで、急激な変化にはリバウンドがつきもの。既存の商店街などの良さも生かしつつ、地域の方たちと話をしながら、時代に合わせてゆっくりと更新していく。古いものと新しいものが共存してこそ、このまちの魅力が生きてくるのでは」とこれからの展望を説明する。
新幹線に乗れば横浜、東京もすぐ。観光地である伊豆に隣接し、海や山などの自然環境にも恵まれたまち、沼津。より魅力的に生まれ変わるために、URのまちづくりの知見と経験が生かされている。
【阿部民子=文、青木登=撮影】
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