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【特集】「一町一寺」に新たな魅力を加え このまちを次の世代に渡したい(熊本県熊本市)

URPRESS 2024 vol.76 UR都市機構の情報誌 [ユーアールプレス]

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加藤清正の時代から続く熊本城の城下町で、歴史的なまちの姿を保ちながら、その価値を高める試みが始まっている。中心になるのは行政と一般社団法人、大学とURの4者。ゆるやかに連携しながら、未来のまちの姿を模索する。

「一町一寺(いっちょういちじ)」の中が駐車場だらけに

「古町(ふるまち)は、加藤清正が熊本城を造る際、最初に町割りをした町人町なんですよ」

まちおこし活動をする(一社)KIMOIRIDONの早川祐三さんと河野修治さんが、こう言ってわが町を自慢する。ここは熊本城の城下町、「古町」と呼ばれる地区。熊本城の南側に位置し、JR熊本駅とお城の間にはさまれたエリアだ。

1607年に熊本城が完成してから400年以上の歴史を刻む古町。その一番の特徴が、「一町一寺」といわれる町割りだ。これは道路で囲われたおよそ120メートル四方の中に、一つの寺と、寺を囲むように町屋を配置して、一つの町としたもの。古町には、この碁盤の目の町割りが、今も残っている。

だが、その町の中を見ると、かなり様相が変わっている。古い町屋や寺は熊本地震で倒壊などの被害により減少した。それを機に移転する人が増え、その跡地はマンションや駐車場へと姿を変えた。

「このままでは古町らしさが失われてしまう」と早川さんたちは危機感を抱いていた。

一町一寺を現代に生かし、新しいにぎわいを生みだすことができないか。そのための『くまもと古町地区実証実験』が2022年から、熊本市、KIMOIRIDON、熊本大学田中智之研究室、それにこの地域のコーディネート支援をしているURの4者によって始まっている。昨年11月に行われた「ロジ万博」をテーマとした3回目の実証実験の現場を訪ね、関係する皆さんに話を伺った。

昨年11月の実証実験「ロジ万博」の会場になったのが、ビルの間の駐車場になっているエリア。かつてはこの中心に寺があり(写真中央左あたり)、町屋が並んでいたが、現在では駐車場とマンションが増えた。
古町に残る町屋。人気のカフェもある。この一帯は明治の西南戦争で焼かれたので、町屋はそれ以降に建てられたものが多い。
KIMOIRIDONが行っているファサードレンタル(マドカイ)。昔からある商店の窓の部分だけを貸し出して、まちを活気づける試みだ。

ロジをつなげれば新しい価値が生まれる

古町に20年かかわり続けている熊本大学大学院先端科学研究部の田中智之教授が発表したのが「ロジ・リンク・シティ構想」。これは一町一寺の区画の中の細い道、路地=ロジとロジをつないで歩けるようにすることで、人々が集まり、昔のようなコミュニティーのあるまちがつくれるのではないか、という提言だった。

「熊本市では、まちの中心部と玄関口である熊本駅との間に一定の距離があることから、この2点の間に位置する古町がウォーカブルなまちになれば、例えば駅から市電でここまで来て、古町を歩き、町屋を使ったカフェで休み、そこから通町筋(とおりちょうすじ)のほうへ向かうようなルートができます。このように古町のロジを活用して、エリア全体の魅力や価値を上げることができるのではないかと考えたのです」

熊本市都市デザイン課の三浦綾奈さんは、「市としても、古町に低利用地が増えている課題は認識していました。このままでは一町一寺が限られた人だけの利用空間になってしまい、古町のにぎわいが生まれません。ロジ・リンク・シティ構想は、このまちにしかない資源を活用してまちの魅力アップにつなげることができるかもしれない。これはぜひ実験してみようと思いました」と振り返る。

この道が、昔から残る一町一寺の中の路地。地元の方の協力を得て、ここに大学の研究室のブースと休憩所などを設けた。
熊本大学の研究室はブースを出して研究成果を発表。学生と地域の方とで古町地区について意見交換を行った。

ふだんは入れないロジに人が集まる

昨年11月の「ロジ万博」は、中唐人町から魚屋町2丁目界隈が舞台。広い通りから路地に入ると、左右には大学の研究室がブースを並べ、これまでの研究成果を紹介している。ベンチとテーブルが置かれ、無料休憩所では来場者へのアンケートを実施。

その先の段差にははしごを掛け、そこを上ると広い駐車場。ここは人工芝のシートが敷かれ、子どもたちの遊び場になっていた。周りには骨董品を売る店や、飲食の店も。普段は通り抜けられないロジに人が集まり、ゆるやかな時間が過ぎていた。

「初回の実験で、実際に2つの区画のロジを歩いたところ、この近辺に子どもの遊び場がないことがわかりました。そこで駐車場を開放してもらい、子どもたちの遊び場をつくったところ、思いがけずたくさんの子どもたちが来てくれました」とKIMOIRIDONの河野さんが説明する。

「企画は4者で話し合い、KIMOIRIDON・市が地元調整、熊本大学がデザイン、URが長期的な視点で実現に向けたステップの提案・実証実験での効果検証を担いつつ、お互いに意見交換・作業分担する体制で実証実験を行っています」とURでこの事業を担当する大山祐加子が説明する。

熊本市都市デザイン課の木下皓一郎さんは4者の取り組みについて、「KIMOIRIDONの皆さんは古くからここで活動されているので、そこから人の輪がつながっています。このようにそれぞれが得意なところを生かし、ゆるやかに連携している4者の関係はとてもいいですよ」と話す。

「歴史を保存するだけではだめですよね。歴史は尊重しつつ、今の価値をのせていって、地元の人たちが、ここに住んでよかったと思えるまちにしたい。古町を、よりよいまちにして次世代に渡したいんです」とKIMOIRIDONのお二人。

ここだけに残る「一町一寺」という歴史ある町割りを生かしながら、地域の価値を上げていく試みは、これからも続く。メンバーたちが思い描く未来のまちの姿が、少しずつ見えてきたようだ。

昨年11月の「ロジ万博」。子どもたちの相手をするのは、熊本大学教育学部など教育を学ぶ学生たち。
ロジの間には土地の段差があり、普段はここを通り抜けることはできない。この日ははしごを掛けて、行き来自由に。「初めて通る」と地元の人にも好評だった。
KIMOIRIDON代表理事を務める早川さんの家業である早川倉庫。明治初期に建てられた元酒蔵の建物で、現在は建物の一部を多目的ホールやワーキングスペースとして活用している。
「くまもと古町地区実証実験」を進めるメンバーたち。左から、熊本市の木下さんと三浦さん、KIMOIRIDONの早川さんと河野さん。熊本大学の田中教授、URの大山。

【武田ちよこ=文、菅野健児=撮影】


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