【特集】団地の食卓におしゃべりしに来ませんか?花ちゃんちのおうちごはん 中登美第3団地(奈良県奈良市)
緑豊かな丘陵地にゆったりと住棟が並ぶ中登美第3団地。昨年末、団地のショッピングセンター内に1軒の飲食店が開店し、「団地の食卓」として近隣の人々を支えている。
市職員の経験を生かして高齢者が食事できる場を
「ご飯を作るのが面倒だったりしんどいとき。ちょっと誰かとしゃべりながらご飯を食べたいとき。花ちゃんちにおうちごはんを食べに来ませんか。精米したてのごはんと、野菜多めの日替わりの一汁三菜。喫茶の時間や晩酌ができる日もあります。あなたのおうちのもう一つの食卓として、気軽にご利用ください」
2022(令和4)年12月に開店した「花ちゃんちのおうちごはん」のチラシには、こんなメッセージが綴られていた。花ちゃんこと、店主の花村淑子さんの思いのこもった言葉どおり、店内は、心地よい風が通り、温かな雰囲気に包まれていた。
お店を始める前は、奈良市の職員として広報や観光経済、商工関係、福祉分野などの業務に携わってきたという花村さん。もともと食べることやお酒を飲むことが好きで、商店街活性化の仕事で飲食店の人たちと交流を重ねるうちに、「自分も人が集まれる場所をつくりたい」と思うようになったという。また、高齢者福祉に携わるなかで、「食事を作れない」「食べる場所がない」という声もよく耳にした。
「高齢の人が食べに行くお店があったらいいのでは」との思いを抱えながら、また退職後の自分の姿を模索しながら、4年ほど過ごしていた。
実際に動き出す決意をしたのは、「団地の食卓」というキーワードが舞い降りてきたとき。団地暮らしが長く、団地に高齢者が多く暮らしていることはよくわかっていた花村さん。
「食事がメインの“食堂”ではなく、食事しながらおしゃべりして、くつろげる、団地に住む人たちの食卓のような場をつくれたらと思ったんです」
団地の食卓というキーワードが浮かんだことでイメージも具体的に。単身の高齢者には、食事が外出のきっかけになるのではとの思いもあった。前職の引き継ぎをしながら1年かけて準備をし、早期退職して開店に至った。
団地内外からの来店者は5歳から93歳まで
オープンから半年を経て、「花ちゃんちのおうちごはん」は、実際にたくさんの人たちの食卓として利用されている。毎日お昼ごはんを食べに来る高齢の方もいれば、喫茶タイムに友だちとおしゃべりしに来る人、仕事帰りに晩ごはんを食べに来る40~50代の人、週末の「晩酌ナイト」を楽しみに通ってくる人もいる。団地に住む人だけでなく、バスで通ってくる人もいるとのこと。客層は5歳から93歳までと幅広い。
「当初、お子さんの来店は想定していなかったので、来店された次の週に子ども用の食器を買いに走りました」と花村さん。
食事は「日替わり一汁三菜」が基本で、主菜や小鉢の有無を選べるのも、お客さんにとってはありがたい。バレンタインデーにはチョコレート、桃の節句には甘酒などのちょっとしたサービスも。夏にはろうそくを灯す奈良の風物詩、燈花会(とうかえ)の雰囲気をお店で味わってもらう計画もしている。
「奈良公園まで燈花会を見に行くのが難しい高齢の方にも、ここで雰囲気を味わってもらえたらと。最近団地に引っ越して来られたお客さんもいますので、奈良のことをいろいろ知ってもらいたくて。奈良の地酒も揃えています」
さすが、もと奈良市の観光担当者! 食材の仕入れから片づけまでひとりでこなすのは重労働なはずだが、笑顔でお客さんに声をかける花村さん。気さくなその人柄が、お店を居心地のよい雰囲気にしていることは間違いない。
花村さんにとってお店を始めてうれしかったのは、いろいろな人の話、時にはお客さんの壮大な生き様を聞けること。まるで本を読んでいるようだという。
また、開店してみてわかったのは、夜より昼の需要が高いこと。
「高齢の方は夜は出かけたくないといわれます。暗くて段差などに躓(つまず)くのが怖いからと」
そんな声を聞いて、週末の晩酌ナイトは明るい時間からスタートするようになったそうだ。状況に応じて変化しながら、どんどんこの場になじんでいくのだろう。
「ここが皆さんの日常生活の一部になればいいなあと思っています」
と笑顔で語る花村さんだ。
花ちゃんちのおうちごはん
TEL:0742-77-7271
営業時間:11時30分~20時(土日は15時~)
14時〜17時30分は喫茶のみ
定休日:月・火曜
【妹尾和子=文、菅野健児=撮影】
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